4)手術翌日の悲劇
手術の翌日は特に痛みも感じなかったので仕事に行くことにしたが、“日帰り手術=翌日から普通の生活をしても良い”と勝手な解釈をしたのが、大きな間違いだった。
朝の満員電車でぎゅうぎゅう押され、人の肘が背中に当たる。まさに昨日、衝撃波を浴びせた腎臓の部分。なんでだろう。石はもう砕かれたはずなのに痛いぞ。
途中駅で降りて、トイレで痛み止めの座薬を使うことにした。座薬なら直腸からの吸収で即効性がある。しかし思いのほか痛みが強かったらしく手に力が入らない。もたもたしているうちに座薬は手の中で溶け、尻には入ったのかどうか微妙な状態になってしまった。
暫く駅のトイレの個室でぐったりと回復を待ち、駅員室に向かった。
「すみません、お腹が痛いので、救急車呼んでください。」
やっとのことでそれだけ伝えると、あたふたした駅員に、とりあえずと椅子のある小部屋へ通された。
家と会社に連絡しなくてはいけない。電話をする気力はなかったので、母親にメールをして状況を知らせ、会社にも連絡してもらうよう頼んだ。震える手で時間をかけて送信した。
そういえば救急車はまだかな。痛みに苦しみながら一時間が経った頃気が付いた。
救急車呼んでくれなかったのか。
部屋を出ると「お腹、良くなった?」と軽い感じで聞かれたので、お礼を言ってそのまま帰ることにした。昨日結石破砕の手術をしたばかりで云々と説明できなかった私もいけない。ただね、そこまで説明する余裕がなかったのだよ。
またしても私は切羽詰まった顔をしていなかったのだろうか。
一旦家に帰り、タクシーで病院に行くと主治医に驚かれた。
「仕事行こうとしたの?腎臓、腫れてるから休んだほうがいいよ」。
聞いてないよー。それ昨日言ってよー。
筋肉注射と座薬で処置をしてもらい、今度こそ家で安静にすることにした。
それから暫く通院し、石が無くなったことを確認すると、上司の教えてくれた漢方茶を飲んで再発防止を心掛けようと心に決めた。