第02話 現状認識フロムマイメモリー
私の父親はアウグストっていうのか〜。外国人っぽい名前。まぁ、今までに見た人々の見目からして、父親も外国人っぽいから違和感なくていいのだけれど。
私の名前はなんなのだろう。
「ここはどこ?私は誰?」
「いい加減にしてください。ご主人様がお呼びになっているのだから、今すぐ準備しますよ。」
あらら、名前は呼んでくれない。さっきまで普通に会話してたから、冗談か、言い訳に取られたか。呆れているというよりただ冷たい声音だから、あまりいい関係ではないのかな。さっきは心配してくれたみたいだから、期待できるかと思ったけど、与えられた役割と自身の立場の問題なのかもしれない。
気づくと、メイドがすぐ側まで近づいてきていた。
!?
肩がほとんど上下せず音もしない歩き方。「隠密」スキルでも持っているのか?と思わせる自然で目立たない最小限の動き。
パーフェクトメイドが近づいて、私を起き上がらせる。
そして服に手をかける。
「何をするの!?」
「?着替えさせるんですが。立って、後ろ向いてください。」
え、なにそれこわい。
考えている間に、服が剥がされていく。
剥がれる度、花のような香りが広がる。
「あぁッ!…ぅっ…ふぅ!」
「変な声を出さないでください。」
ただただメイドは硬い。そろそろ悲しくなってきた。
自分自身のものだからこそ、もしそれを見て興奮なぞしたらますます反応が怖い。考えなくてはならないこともあるので、指示にだけ従い、目を閉じて思考に集中することにした。
今見ているのが夢じゃないなら、どうやら私は転生したらしい。中世っぽいしメイド強そうだし、異世界転生だろうか。
小声で「ステータス」と呟く。
何も表示されない。また近距離にいるメイドにはその声がおそらく聞こえただろうに、完全に無視された。
ついそちらに目をやりたくなるが、半開きにした瞬間、肌色が!
急いで閉じた。
触れるものがなくなっているのに気付き、頼りない感じ。どうやって剥いでいるのか分からないほど、メイドは私に触れず、存在感もない。そこに本当にいるか、目を開けてがっしりと捕まえたい。
!いかんいかん。
もう一度考え直そう。思考はいつも通りなので、多分夢じゃない。記憶を思い出そうとするが、会社から帰って寝た記憶はあるが、死んだ記憶はない。寝ている間に死んだか、記憶が消えているかだろう。手掛かりを知ろうと記憶をさらに探ると、女と男の争いの記憶が強い想いとともに湧き上がってくる。なぜ、先にそちらが思い出されなかったのか不思議な程、あの最期の強い感情が閃光のように想い起こされた。
そこにいた男は、この体の少女が愛した人なのだろう。
その男によって切り裂かれた時、この少女は絶望し、
ーーそして死んだのだ。
死に至る病と呼ばれる絶望によってか、あるいは肉体的なものか。
あるいは両者ともによってか。
そして何の因果か蘇った。
この俺が。
ギリッーー
「手をあげてください!」
うぉ!
どうやら怒りが湧いて、指示に従えてなかったようだ。驚いて目を開けると、身体の前には服らしきものがつけられていた。脇を通して後ろで結ぶらしい。それで腕が邪魔だったのか。下着の一種のようで、肌は結構出ている。自然と目が吸い寄せられる。胸が……
ギュッーー
「痛たたたたタタ!!痛い!痛い!!」
驚いて後ろを見ると、結んだ紐を思いっきり上半身を弓なりにして引っ張っているメイドがいた。
どれだけ力を入れてるんだよ!
「すこし我慢してください。」
冷たいし表情は変わらないのに、かすかに喜びが混じっている気がする。
なんじゃこれ、超恐いこのメイド。
「できました。」
満足げな、寒気のする表情が眼前にあるので、目をつむることにした。
できたというのはあの拷問器具の装着だけの話だったようで、服の着替えはまだ続いていく。
拷問器具?そうか、あれが噂のコルセットか。噂に違わぬコルセットだ。
肌触りの良さが、一見装飾具に思わせるが、実態は人を人ならざるものに変形させる万力の一種に違いない。二度とつけたくない。苦しいには苦しいが、身体が慣れているのか、すぐその苦しさが気にならなくなる。
思考を元に戻そう。なにを考えていたのだったか。
そうだ。この体の少女の最後を私は看取ったのだ。
ちょっと待て。
これってもしかして、悪役令嬢ものじゃないの?
乙女ゲーム転生ってやつ?
え、やったことないんだけど…
いや、小説は読んだことあるけど…
まって、まって、待って!
私侯爵の娘よね。侯爵って、貴族でも結構上位だったはず。コウコウハクシダンだっけ。
で、悪い奴らをけしかけて、懸想相手が愛する立場の低い美少女を殺そうとした。
そして、それを見つけた懸想相手だった男は、私を退治した。
…あの時、あのイケメンは怒ってはいたけど、少女と話していたし、たぶん完全には冷静さを失っていなかった。
それでも、私を殺しかねない傷をつけた。
つまり、おそらくあの美男子は私より立場が上。
もしテンプレなら、王子。
それで、テンプレ通りなら私は……
ヤバイ。私蘇って早速、死刑かも…。
読んでくださって、ありがとうございます。