プロローグ
始まるかも
「あなた風情が、いつまで高貴なる殿下の周りをうろちょろするの!
いい加減そろそろ消えてもらうわ!やりなさい!」
なんだかぼんやりと声が聞こえる。
周りの麻袋のようなボロボロな服を来ている男たちが動き出す。
息を荒くして、何か下品なことを言っているようだが、まるで幕でもあるかのようにこごもっていて、よく聞こえない。
心が激しく波打っている。感情が溢れて溢れてしょうがないはずなのだが、なんの感情かはわからず、まるで朝の目覚ましのように煩わしく思いながらも、私は徐々に目覚めていく感じがする。
「キャァァァ……」
若い女の叫び声が聞こえるはずだが、遠くから聞こえているかのようだ。
感情がおさまってきて、再び睡魔へと身を任せそうになる。
ドタドタ、キンッ、ヮァァァ
ーードクン
心臓の響きが覚醒を促し微睡みを遠ざける。
まさか、という不安を感じ始め、
ドアが開け放たれると、一人の美男子が剣を持って現れる。
そして一声叫ぶと少女の方へかけていく。
その姿を見たことで、ドクドクと心臓が脈打ち、これまでにない程の感情が湧き、今度ははっきりとその感情を感じる。それなのに、その感情が何かは、次々と湧いてきて複雑で絡み合うため判然とはしない。不安、怒り、憤然、嫉妬、絶望ーーそして愛だろうか。
グチャグチャになった感情が身体にまで影響を及ぼしたのか、頭痛がする。
とてつもなく激しく尋常ではない痛みだと、そうわかっているはずなのに、鈍く、耐えられない程ではない。
口から、ナゼ、ナゼと何度もつぶやきが湧き出てくる。
言葉が出るたび、頭がグズグズと痛む。
頭を抑えうずくまっていた身体を起こし、フラフラと、何時の間にか他の男たちが倒れた場所で抱き合っている美男子と少女の元へと近づく。
男は気づくと、こちらをキッと睨み、剣を向ける。
その姿にさらに怒りと絶望が湧き、近くに転がっていた剣を拾い上げる。
感情の波が激しく、私と男は何かを言い争っているようだが、雑踏の中にいるかのように分からない。
私の身体がその男へと斬りかかるが、そいつの剣に弾かれ、相手は剣を振り上げる。
ーーザスッ
そんな音が聞こえた気がした。
切り裂かれた事実よりも、その相手が自分に切りかかったことを信じられないように、目が見開かれる。
身体が地べたへ倒れ、その際のジャリジャリとした感触と音がやけに大きく感じられる。
熱さが身体中に広がり、絶望と虚脱が世界を覆う。
ーーあなたが手に入らないなら……
そんな声が聞こえた。
起こされたかのように一気に目が覚め始めるが、
すぐに寒さと虚脱が身を包み、視界は暗く沈んで行った。