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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『作り笑顔と陽の姫君(ソル プランサス)』
99/99

言葉の責任

寝る前二本目

 

 ノワイエによる驚愕の言葉によって、結果として機能停止したブリッツを放置し、俺はノワイエと自分の分の荷物を部屋に運ぶ事にした。


 無論、ノワイエとは別の部屋。まさか一人一部屋だった。金持ちは違うね。ベッド、机、クローゼット等の家具もある。まさか全室完備なのか。



 で、夕食まで何をするかと言えば……何をしようか。ノワイエは荷解きするのに奮闘中らしく、着替え等の諸事情もあり俺は外されてしまったのだが。



「ひとまず、俺も荷解きするか……」



 着替えしか入ってないけど、せめてクローゼットに掛けておかないと皺になりそうだし。前なら気にもしなかったけど、流石にノワイエが作ってくれた物だ。粗末に扱ったら罰がありそう……結構破いたり、穴開けてるんだけどさ。


 やる気がある内にやってしまおうと、リュックを開ける、と――



「……ん?」



 そこに見覚えのない物、正確には今朝チェックした時にはなかった物があった。


 渋銀色の延べ棒状の塊。手に取れば鷹の意匠の施された鞘に木製のグリップ……



「もしかして、あの時のナイフか?」



 先日、ノワイエとルビルの皮むき勝負をした時に借りた物に似ていた。あの時は木の鞘だった筈だから、違う物かもしれないけど……なんで?


 んとはなしに鞘から、すらりと刃を抜いてみると……果物ナイフにしては何センチか長い気がする。片刃だけど、やはり別物か。金属製の鞘は初めて見たけど、格好いい作りだ。寒気がするくらいに。



「ノワイエに訊いてみるのが手っ取り早いか……?」



 机の上、は危ないので引き出しの中にしまう。それも危ないけど、誰も開けないだろうから大丈夫だろう。


 それより、鞘に納まっていたとはいえ、まさか着替えに穴とか開けてないかが心配だ。


 取り出し、確認し、ハンガーにかける。改めてノワイエの洋裁技術の高さに驚かされる。シャツやズボンを始め、靴下に至るまで、どれを見ても俺の世界の既製品とさほど変わらないように見える。無地なくらいだが着心地に変わりはないし。



 これでD5。上のランクの作る服ってのはいったいなんだ。ユニ●ロか、違うな。


 そうして、リュックを空にしてから気がつく。ポケットに付けるようなボタンが幾つかリュックにあるのだ。どうしてこんな所に?という所に。


 疼いた好奇心に誘われて外してみると、立体だったリュックはどんどん平面に。そして、展開図のようになって初めてそれが"服"なのだと解って思わず拍手してしまった。



「……でもこれ、服にする意味ないんじゃないか?」



 少なくとも、着てしまったらリュックにはならないのだし、リュックが必要な緊急時とかリュックを持てばいいのだから。


 でも、こういう無駄な機能物って結構好きだな。無駄って決めつけるのは早いけど。



「京平さん。夕食の支度が整ったそうですよ?」


「あぁ、今行くよ」



 ノックと共に廊下から聞こえる声に返事をして、目の前のリュックトレーナー(ノワイエ作、俺命名)をどうするか迷って、とりあえずハンガーに掛ける。


 ふぅ、なかなか面白い物を見せてもらった。俺も何か面白い物とか思い付いたら作って貰おうかな。本当にブーメランになるパンツとか。うん、ないわ。



「ノワイエ、物作りって難しいな」


「ふふっ、突然どうしたんですか?」



 ドアを開け、開口一番に思った事を言ってみただけなんだが、ノワイエに笑われてしま……っ、た。



「……京平さん?」



 ドアの向こうの世界に、俺は視線も、思考も、鼓動も、呼吸すら奪われた。



 そこに、女神がいたのだから。



 薄く青がかるほどの白いドレスは、スカート部分が広がるのではなく、流れる川のように落ち、スリムさを強調していた。微かな桜色に上気する胸元はさほど開いてないが、大変形が良く見えるように整えられ、決して下品になっていない。ロンググローブも素敵だ。


 羽衣のように肩にかかる半透明のストールは、どこか幻想的な印象すら覚える。


 化粧もしているらしい。しかし、あくまでも軽く、素材本来の良さを軽く後押しするに過ぎない。されど、在ると無しではこうも違うのか。瑞々しく震える果実のような唇なんて最早凶器だ。


 極めつけは、白く艶めく長髪が前髪を残して一本の尻尾のように結い上げられている事にある。この部分だけは何の小細工もないと言わんばかりだ。まさか、まさかこの姿でこの髪で来るとは。



 簡潔に述べる罪を犯すならば、そう。



 綺麗なドレスでおめかししたノワイエが、ポニーテールで俺を殺しに来た。間違い無く殺しに来てる。



「あ、あの……変ですかね?」


「ふぇっ!? ぜ、ぜっぜぜんぜん変じゃないゆっ!!」


「うぅ……やっぱり、変なんですね?」


「違う違う、本当に変じゃないって。突然過ぎてびっくりしちゃって」


「変だからびっくりしたんですよね」


「綺麗過ぎでビビったんだよ!! あっ……」


「え……?」



 オレ、イマナント?



 半ば反射的に返した言葉の意味に固まったしまう俺の目の前で、きょとん顔をしていたノワイエの顔が、かぁっ!! と赤くなる。あ、可愛い。



「ノワイエ様。京平殿ならそういうと言ったでしょう? 多少、言葉使いは変わりましたが、素敵だと」


「セバさん!?」


 あまりに突然の登場に、いったいいつからいたのかと驚いてしまう。もしかすると初めからノワイエの後ろに控えてただけで、俺の意識が向かなかっただけかもしれないけど。



 先程とは違い、ワイシャツにベスト、スラックスと姿は変われど、相変わらず執事然としたセバ氏は、俺へお茶目にウインクして見せた。



 まさか、これはセバ氏の差し金かっ!?



 やれやれ……まったく、これだから執事は最高だぜ。



 自爆発言は一旦忘れた振りをして、俺はこんなサプライズを寄越してくるセバ氏に心からの賞賛を送った。





ここまでお読みいただきありがとうございます。


誰が呼んだか、老きゅーぶ


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