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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『始まりを告げる非日常(トラブル デイズ)』
9/99

その世界の名は

 

 待つこと数分、まさか……とは思っていた。



「お待たせしました」



 何食わぬ顔……というより何も変わらない様相でノワイエは対面のイスに座る。恐らく、食事を済ませたのだろう。



「ちょっと聞きたいんだけど、その仮面って取れないの?」


「……今は、まだ」



 返ってきた答えは予想とは少し違っていたが、それはそれで複雑な事情があるという事は判った。深入りされるのも好まないだろうという事も。



「そっか。他にも色々と聞きたいんだけど、いいかな?」



 ならば、と俺は本題を切り出すべく居住まいを正す。正直、避けられるものならば避けたいが、そうも言ってられないだろうから……


 頷く彼女に、何から言えば良いか。一番印象に残っている事がある訳だが……ある程度のクッションを置いておきたい。



「こんな事聞くのはおかしいと思うんだけど、ここってどこなんだ?」


「ここ、は……わたしの家ですよ?」


「違う。そうなんだろうけど……国とか、地名とかを聞きたい」



 今度は僅かな間を置いて、ノワイエは真っ直ぐに俺の顔を見ながら答える。


 ある意味では、予想通りに。



「国ではありませんけど、ここは交易都市デスティーネ……ですよね?」


「そう、なの……か?」


 いや、知らんし。


 聞いてるのはこっちなんだが。



「……京平さん。こちらからも一つ、訊いてもいいですか?」



 恐る恐るといった様子で、ノワイエは控えめに手を上げた。どうやら気に掛かる事があるのは俺だけではないらしい。



「京平さんは、厨二術が繁栄する世界……神極最終世界(ラグナレク エンド)という名を知っていますか?」


「…………」



 絶句、とはこのような事を言えばいいのだろうか。ノワイエもまた、俺と同じような疑問に至った事もそうなのだが、明確なほどに俺が求めていた言葉が出てきた。


 いや、この場合は出てきてしまった。というのが正しい。


 聡いという事は有り難い。だが、こちらの予想の斜め上行く回答は突然の冷や水にしては、あまりにも不意で強烈である。



「知らない。俺、俺は……」



 額から冷たいが流れる感触と、ぶわりと粟立つ鳥肌に両腕を抱きながら応える。ノワイエは要領を得たと言わんばかりに一人頷いて見せた。



「落ち着いて聞いてください。信じられないかも知れませんが、ここは京平さんがいた世界ではありません」


「そうみたい……だね」



 改めて告げられても、俺には取り乱すほどの余裕はなかった。微かな目眩を覚え始めるが、予感は十分にあったのだ。


 ただ、それを認めたくなかっただけで。


「ノワイエの方こそ、信じられるのか? 俺がこことは違う世界から来た、とか……」


「えぇ、京平さんがいらっしゃった世界がどうなのかは判りませんが……この世界には、このような事が頻繁ではないにしろ起きたりしています」



 前例のある話だった訳か。確かにそれなら驚きは少ないだろう。なによりも話は早い。



「この世界では異世界、または外世界と呼ばれる場所から喚ばれた人々を来訪せし者、『来訪者(ヴァンデラー)』と言います。それほどには人々のなかに浸透していますし――」


「そうか。なら、どうしたら帰れる?」


「え?」


「え?」



 心なしか、饒舌に話をしていたのを遮ったのは悪いとは思う。しかし、俺の言葉にノワイエは半ば固まり、同じくして俺も固まってしまった。



 俺、何かおかしな事言ったのか?



 

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