暁の出発
いつもより早い朝食を済ませ、旅支度の最終チェック。といっても俺の荷物なんて着替えくらいなもので、それだってノワイエが用意してくれていた辺り、情けなさが加速する。挽回の機会を待とうか。
「よぅしっ!! お前ら準備はいいか!? 番号、1!! ……やれよぉぉっ!!」
「黙れ、なんなのお前のそのテンション。正直引くわ」
近所迷惑を省みない大声を張り上げるのはブリッツだ。起きてからずっとこの調子でウザいことこの上ない。俺のなかのウザいランキング上位に突入する勢いである。ちなみにトップは言わずもがな親父である。
「いや、だってよ。お前、ほら……なぁ? 言わせんなって!!」
「あー、ノワイエ? やっぱり俺だけ残ってもいい?」
視線を移した先にはリュックを背負おうとするノワイエが動きを止めて愕然としていた。
「京平さん。お願いですから、お願いですから一緒に来てください」
この状態のブリッツと2人になるんだもんな。ノワイエのストレス軽減に繋がるなら仕方ないか。既にその仮面の奥にある目が虚ろだけど。
「わかった。そんじゃ行く前に、ほら」
出発を前にノワイエへと差し出す手。ノワイエは何の事が判らないのか小首を傾げる。惜しい、出来ればその仕草は素顔の状態で見たかったよ。そして何かを察したらしく、怖ず怖ずと伸びる手が俺の手と繋がる。
少しひやりとしているが、柔らかくスベスベな手の感触にドキリとしてしまうが……
「いや、荷物持つよって意味だったんだけど」
「っ!? す、すいません!!」
「俺こそ紛らわしくて……悪い」
逃げるように離れた手の感触を名残惜しく思いつつも、リュックを受け取る。け、結構重たいな……何が入ってるんだろうか。ガチャガチャ鳴るから衣類だけじゃない気がするけど、仕事道具?
「おっしゃ!! それじゃ出発!!」
すっかりハイなブリッツの号令にやれやれと溜め息をつきながら、俺達は歩き出した。
◇ ◇
ソルス領へはディスティーネ東停留所で待たせている馬車に乗っていくらしい。そこまで歩くのもしんどいわけだが、メインストリート間を往復する馬車は運賃がかかる為に我慢。頑張れ俺。馬車に乗れば休めるんだ。それが遠いか近いかの違いなだけで。
ちなみにソルス領だが、方角的にはここから北東に位置する穀倉地帯を治めている地域なんだとか。時期が良ければ黄金色に輝く一面の小麦畑を見られるらしいが、今ではないとの事、少し残念でもある。
俺達が向かうのは、そこの領主が住まう領主館だ。ノワイエの依頼内容は俺にも秘密らしいけど、そんなホイホイお偉いさんの所まで行けるのか? 確か親が知り合いとも言ってたけど、英雄の娘だから僻地の領主よりも位は高そうなんだけど……止めよう、その線で思考を展開してはいけない。俺の事は考えるな。あんな両親が英雄な筈ない。
「さて、いい加減に訊こうと思うんだが……」
ある程度の情報を得られ、俺の目は意気揚々と先頭を歩く男の背中を捉えた。ノワイエも今度は俺の意図に気が付いたのか、小さく溜め息を吐く。何か言いにくい事でもあるような雰囲気が見受けられる。
「ブリッツの要があるのは、ソルス領を治める領主様の子供で……わたし達の、幼なじみなんです」
「それって――」
前にいる馬鹿に聞かれぬようにと声を潜めるノワイエの言葉は、まるで予想していなかったものだ。
「片思いしてる女の子に会えるからあんなにテンションが高いんですよ」
驚愕の事実。
ブリッツはホモじゃなかった。
辺りに俺からの歓喜の声が響きわたった瞬間だった。
一次審査落ちました。おうふ




