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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『作り笑顔と陽の姫君(ソル プランサス)』
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ひとりぼやく夜

 

 夕食も終わり、明日の準備といっても特にやる事もない俺は月明かりの差す自室で"ひとつの実験"を行っていた。



 今更ながらに、この世界の一日は早い。今まで経験した事のない出来事ばかりだからかと思ったが、実のところ……要因はもうひとつあった。


 日が落ち、辺りが暗くなるとランタンやロウソクに灯を付けている。スイッチひとつで明るくなり、後日に光熱費として徴収される俺の世界とは違う。明確に灯りの希少性が見えるこの世界では、夜遅くまで起きているという習慣を薄く感じる。


 夜の街で灯りをつけているのは、恐らく酒場や宿屋などだろう。


少なくとも大抵の民家は深夜まで火を灯してまで起きてはいない。



 以上は俺の仮説に過ぎないが、外れてもいなさそうだ。



 台所の近くに置かれているランタン用燃料の入れ物へと唸りながらにらめっこをしているノワイエの後ろ姿を見てしまった俺に、確認を取る事が出来ようか。いや、出来まい。



 つまり、一日が短く感じたのは、そもそもの活動時間自体が短い事にもあった。体感的には6時から20時くらいか。



 ならばと俺は家計に負担を減らすべく、考えた。


 厨二術だ。万能であり、忌々しくもある厨二術でなんとかならないか? というわけで実験を始めたのが三日ほど前の事になる。


 両手を前へ、部屋を明るくするイメージを頭で練り上げ――



「……電気……ピカピカー」



 夜間という事もあり、声量を抑えた格好悪く、しかし分かり易い言葉。こうして体現させようとした厨二術は見事に部屋を明るく……出来ずにいた。



「フラッシュ。 ライト。 ビッ○ライトー。」


 突き出した手の先が明るくなる事はない。 ヤケクソ気味に口走ったアイテム名ですら効果がない、出来たらそれはそれで灯りじゃないからダメなんだが。


 火の灯りは、もしも火を出せたとしてコントロール出来ずに火事というオチを避けたいから却下。なので現代技術である電球や蛍光灯を厨二術で再現しようとしたが、すぐに問題が発生した。



 光って、なんだ?



 太陽光ではなく、電気の光を放つメカニズムがまず解らない。 学校で習う科学の授業にあったか、覚えてない。 仕組みが解らない物を再現しようとするのが無理な話なのか。


 こんな思考状態での体現が不可能な事くらい判るが、出来ないままというのも癪な話だ。 多方面に便利な癖に俺に取っては難易度ベリーハードで、出来るのは鎖を出すくらいなんだから。


 お陰様でひとつ判明した事もある。雁字搦めな思考や状況下に措いて、鎖は平時よりも容易く体現してくれる。



「出ろ出ろー」



 手慰みに両の掌を繋ぐようなイメージで鎖を体現、じゃらじゃらと右の掌から出て来た鉛色の鎖が左の掌へと抜けていく、わーい不思議。 この鎖はどこから来てどこへ行くの?



 ……照明問題に全く貢献しねぇし。



「本当、何とも言い難いもんだよ」



 鎖を出すのみ。


 それだけ聞けば微妙な力な訳だが、意外と用途の幅は広い。 ノワイエが処刑されそうになったあの時、聖騎士との戦いで辛くも勝利出来たのは偏に鎖の力があったからだ。


 強度は赤錆の浮く鎖が最も脆く、艶消しの黒い鎖が最も堅い。 この世界に来た当初こそ錆びた鎖ばかりだったが、ここ数日では強度を増した鉛色の鎖がよく出てくるようになった。


 ノワイエや、かず姉から教えられた厨二術講座から鑑みるならば、こういう事になる。


 (インソウル)を持つ俺が思い描く厨二的妄想(イマジネーション)として鎖のイメージが鮮明であり、俺は鎖が出せるという自覚から来る厨二精神(インスピリチュアル)により簡単に体現される。



「厨二術がまともに使えずに四苦八苦しているお陰で使える厨二術というのも皮肉な話だけどな……」



 ぼやきながら鎖で繋いだ両の掌をパンと打ち合わせ、鎖を消す。どう見ても手品だ。種も仕掛けもございませんとひと息ついた。


 最後にと、いつの間にか始まった自主トレの仕上げにかかる。体調に問題はない。今のところ、アレルギー体質に抵触しない事に安堵し、気を引き締める。



 思い描くのは、あの時に出した鎖だ。


 ノワイエの処刑に強い否定、拒絶の感情を載せた艶消しの黒い鎖、漆黒の鎖。



「俺は、認めない……」



 その言葉を口にした直後、解った。


 恐らく……いや、確実に"使えない"。


 あの鎖は、あの状況だから使えた。厨二病アレルギーの事さえ歯牙にもかけない気持ち、あの騎士から彼女を助け出す強い意志が籠もって出来た鎖なのだ。


 だから、今は使えない。



 土壇場にしか使えない文字通りの切り札に、俺は嘆息するしかなかった。


 願わくば、そんな状況が来る事など二度と来ませんように……と。


 

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