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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『作り笑顔と陽の姫君(ソル プランサス)』
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果たされる約束?

 

 冒険者としての手続きには不自然な程スムーズに終わった。曰わく、本来必要な手続きは済ませていたとの事。これは親父達の手引きがあったらしい、見透かされているようでなんともね。



佐居(サイ) 京平(キョウヘイ)

『ジェミニ15』

冒険者(アドベンチャー)D1』


 若葉色のギルドカードに新たに記載された内容と捺印された冒険者を示すらしい印を眺めつつ、感慨に耽ってしまう。


 ランクは最低のD1、そりゃそうですよね。何ともスタンダードなクラス名、ありがたい。


 そして意外な所で判明した事実、ジェミニ15と言うのが最終神極世界(ラグナレク=エンド)における俺の生年月日のようだ。双子座の15日という意味で……という事はノワイエの誕生日もこれにならって判明するのだが、いつだったか。確か自己紹介の時になんて言ってたかな……思い出せない。訊くにしてもなぁ……


 思考が逸れ始める俺に、かず姉はコホンと咳払いをひとつ。視線を向かせる。



「改めて、冒険者登録おめでとうございます。同時に死と隣り合わせになる仕事もありますので、どうか無理はなさいませんよう……」



 受付モードのかず姉に、俺も居住まいを正す。同時に胸が強く波打つように鼓動する感覚に、なんだか落ち着かない。



「本当に無茶はダメよ? 依頼は必ず私に確認を取ってから――」


 そこからしばらく、かず姉のお節介もといアドバイスを聞く羽目になった。



 ◆ ◆



 凝り固まった関節を解しながら俺は近くのベンチに座るノワイエを見つけた。結構待たせてしまったか。しかし、仮面に外套という風貌は実に目立つ……周囲の人達もノワイエを一瞥するが関わろうとする事はしない。言っちゃ何だが不審だからな。



「……ん?」



 そんなノワイエに、ふと気付いた違和感。微かに俯く彼女の前まで来たけど、ノワイエから何の反応もない。規則的に上下する肩と、すぅ……すぅ……と――



「……寝てる?」


 思わず口から出た言葉を遮るように口を抑える。セーフ? ノワイエからの反応はない。セーフだな。


 そっと隣に腰掛けてその仮面を覗き込む。無表情な仮面の奥、さらりと伸びる睫毛が伏せられて……完全に眠っていらっしゃる。


 ここの所、忙しかったからな。肉体的というよりかは精神的な面の疲労は計り知れないのだろう。起きるまで待つとしよう。

 なんだかんだ言っても俺も夜遅くまで……あ、眠くなって、きた……



 吹き抜けの天窓から差す温かな日を受けて、俺はノワイエの隣で微睡みに身を委ねた。


 ……。



 ◆ ◆



「まったく……呑気なもんね」



 ギルドの待合いスペースで眠るふたりの姿を、私は受付窓口から見ていた。少し前までディスティーネ……いや、最終神極世界(ラグナレク=エンド)を揺るがしかねない出来事に関わっていたなんて思えない。


 お揃いの外套を着て、実を寄せ合うように眠る姿は鴛鴦(おしどり)の番にも似て何だか微笑ましい。



「カズホ。今日こそ吐いてもらうわよ」



 そんな感慨に耽る私の視界に入ってきた少女の姿には、思わず溜め息が出てしまいそうになる。おっといけないいけない。この子の前では特に溜め息なんて御法度だ。


 しかし、同時に私を見る表情が既に険しい事から半ば諦めの境地で咳払いをひとつ――



「ようこそディスティーネ南ギルドへ、残念ながら本日の営業は既に終了――」


「怒らせたいの? ねぇ、それはアタシを怒らせる為にワザとやってるの? ねぇ」


 ズダンッ!! と響いたのは、彼女の身長を鑑みても長い杖が床を突いた音だ。もう怒ってるじゃない、言わないけど。



「では、ご要件をどうぞ」


「一昨日の会計……確か幾らだったかしらね?」


 不覚にもその言葉は私の身を強ばらせた。実力的には格上の私だけど、私が彼女くらいの歳の成長度合いも私の方が圧倒的に上だけど……!!


「その前にも確か、グランスターで七つ星のドルチェカフェで――」


「あと一回、奢って貰ってないわ。ね、値段はともかく、貴女との約束はまだ果たされていないわ!!」


 ついどもってしまったけど、正当性を突きつける事には成功したようね。


 私達の声が大きくなってきたせいか、次第に周囲には騒ぎに聞き耳を立てる輩が増え始めていたけれど……少なくともそんな事は彼女にとって意識の外らしい。



「どこに人ひとりの情報に15ゴルドも奢らせる奴がいるのよ!? まさかあんなに食べてまだ満足してないの!?」


「一昨日のトリプルベリーアルティメットパフェは凄かったわね。でも、今思えばあんなのにふたりで挑んだのが悪かったと思うのよ」


「だ、だってカズホも……大丈夫、いけるわ。ここだけの話、私の胃袋には転移厨二術が施しているのよ。って言ってたじゃない!!」

「そんな卑怯な真似、スイーツの前で出来るわけないじゃない。馬鹿なの?」


「~~っ!!」 


 ふっふっふっ、上手い具合に話題を逸らす事が出来た。ようじょ、ちょろい。


 しかし、まさか噂のトリプルベリーアルティメットパフェがあれほど強大だとは思わなかったわ。30分で完食出来れば5ゴルド貰えた筈なのに、あまりの大きさに3分は爆笑してしまったのが悔やまれる。



「では次回、グランビッグバンパフェで」


「は? アルティメットパフェでダメだったのにそんなの――」


「グランビッグバンパフェじゃと!?」



 私達の声を遮った叫びに周りに集まっていた人垣が割れた。え? なんなの?


 割れた人垣の向こう、つるりと景気のいい禿げた頭と反対に白く長い髭を蓄えた老人がいた。私達はお互いに視線を交わして首を傾げる。どうやら知らない人らしい。


「あやつはスイーツ界のアポカリプス……山のように強大な身体であるアイスマウンテンに、天を突く爪のように鋭く尖るショコラクロウ、甘美なる宝玉を思わせるカッティングフルーツ……悪い事は言わん、その命を散らせるにはあまりにもお主達は若すぎる……」



 老人はそれだけ告げると何処かへと去っていった。



「…………」



 私達もだけど、周囲の人達も老人が誰なのか知らないようで、ただただ唖然とするしかなかった。



「えっと……」


「お昼はまだなんでしょ?」



 完全に毒気を抜かれた彼女に、私はそう訊く。どの道このまま隠しているつもりもなかったし……丁度いいか。



「まさかこれから? あのお爺さんだって――」


「あら、怖いの?『陽の姫君(ソル プランサス)』ともあろうものが……ねぇ、ソルス=(グラナート)=プリエさん?」


「くっ……そういうくらいなら策はあるんでしょうね!?」



 忌々しげに睨む彼女、プリエの姿は小動物を思わせる。それもまた可愛いのだけれど、下手につつくと火傷しちゃうのよね。

 策はある。必勝の策だ。そもそもアルティメットパフェもビッグバンパフェも参加可能人数は4人となっている。大丈夫、アルティメットパフェだって2人で半分までは行けた。つまり単純計算でも勝算は充分。



「まったく、仕方ないわね。ついでに貴女の再会の場としてあげようじゃない」


「っ!! それじゃあ!?」



 ぱぁっ!! と花の咲く笑顔を見せるプリエに私も満足げに頷いてみせる。これで貸しを作ればまた食費が浮く筈。しめしめ……そうと決まれば寝ているふたりには悪いけど…………ん?



「やっと会わせてくれるのね? 散々待たせて、カズホってば本当に性格悪いんだから……」


「あ、えっと……うん。あー、ちょっと待ってね?」



 おかしいな。さっきまであの場所で寝てたんだけどなぁ……あれぇ?



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