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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『作り笑顔と陽の姫君(ソル プランサス)』
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悪い笑みとまたひとつの決心

 

 さて、ずっと家にいても仕方がない。お互いに身支度を済ませた俺達は、揃いの鼠色の外套を纏ってギルドへと向かう事となった。


 こうして見ると変装が必要な俺達にとって、悪天候というのは都合が良いかも知れない。旅人と思われれば良いが晴天の下では全身覆うこの格好は悪目立ちしかねない。


「雨が降ってなきゃ、帰りに食料とか買っていこうか?」


「そうですね。京平さんは何がいいですか?」


 変装をしなきゃいけない身の上だからといえども、俺もノワイエも変に周囲を警戒をしたりなんかしていなかった。警戒し過ぎても不審者に見える服装だしね。



「うーん、俺としてはあまり塩気がきつくないのがいいかな」


「ではペルラ豆と香味野菜のサラダとゴールデンポタージュとかはどうでしょう?」



 他愛ない話をしながらギルドを目指す。石畳と協調性を忘れた雑多な街並みもなかなかに慣れてきたと思う。



「おっ、ゴルポタいいね。パンに浸すとまた絶品だよなぁ」


「ゴルポタって、またおかしな名前で呼びますね」



 仮面の奥でクスクスと笑むノワイエの言葉から、俺はほんの少しの羞恥に視線を逸らす。これも歴としたアレルギー対策なんだよ、あまり触れて欲しくない。


 ちなみに件のゴルポタことゴールデンポタージュとは、乾燥したコーンのような食物で作るポタージュで、早い話がコーンスープである。



 最終神極世界(ラグナレク=エンド)に来て一週間、俺も多少はそれらしい会話が出来てきているんだな。奇妙な感慨に浸りながらノワイエとふたり、ギルドへの道を歩くのだった。



 ◆ ◆



 ギルドに到着した俺とノワイエは、互いの用事を済ますべく別行動を取ることになった。天気が崩れる前に帰らないとだしね。ギルドのなかでなら街中よりも安全だと思うし。



「もうこっちには慣れた?」


「まぁ、ぼちぼちって所ですよ。っていうか昨日も同じ事聞きましたよね?」



 ノワイエと別れ、俺はいつもの窓口で開口一番にそんな言葉を交わす。


 受付カウンターの向こうではOLのような制服に伊達眼鏡をかけた女性、かず姉が書類に目を通していた。


 斉藤一穂。来訪者(ヴァンデラー)として俺の先輩に位置する彼女には色々とお世話になっている。


「ノワイエはどう、元気にしてる? 美少女とひとつ屋根の下で暮らしてるんだからラッキースケベイベントとかあるんじゃない?」


「噂好きのおばさんじゃないんですから仕事しましょうね。キリキリ働きましょう」


 狼狽えるとでも思ったのか、しかし適当にあしらう事を覚えた俺の反応にかず姉は舌打ちをひとつ。おい、態度悪いぞこの職員。


「変なところでブリッツに影響されちゃって、つまんないわね。はい、これでいいわよ」


「はいどうも。しっかし、手紙のやり取りが出来るなんてなんで最初に言ってくれなかったんですか?」



 俺の用事、それは元いた世界への連絡だ。文句というわけではないが、明らかに説明があってもおかしくない事には疑問を覚える。


 と、かず姉は周囲をちらりと一瞥して身を寄せる。うん? 人に聞かれちゃ不味い話だったか。



「これ一通出すのに幾らかかるか知ってる? 3ミスリル、30万円よ30万円」


「さ……!?」



 思わぬ金額に俺も口を抑えて周囲を見回す。同時にぶわりと嫌な汗が額から吹き出した。なにそれ、おかしいんじゃないか?


 俺の驚きに、かず姉も神妙な面持ちで頷く。どうすんだよ、そんな大金ないしそもそも聞いてないぞ。



「本来ならこんな窓口で気軽に出来る手続きじゃないし、審査だって厳しいんだから……」



 確かに、元の世界にいた時は異世界からの手紙なんていうシロモノなんか、当然ながら俺は聞いたこともない。というかお金の問題は……?



「ひとまず貧乏くさい顔をしてるキョウ君の心配は判るわ。実際、手紙を出してる来訪者(ヴァンデラー)なんて上級の冒険者でも一回あるかないかだし」


「あっ、着払いになりませんかね?」


「っ……!?」



 不意に浮かんだ妙案に対して驚愕するかず姉の背後で雷が落ちた、そう錯覚するくらい驚いている顔だ。しかし、それも直後に意地の悪い笑みへと変わる。すごく……悪い顔です……



「ノワイエを助けてくれたお礼にコネでなんとかしようとしたんだけど……キョウ君、貴方も随分と悪い子ね。判ったわ、オジサン宛てに請求を回しましょ。適当なお土産も送りつけて……」


「かず姉ほどではないですよ。いや、本当に」



 親父に恨みでもあるのか? あまり法外な金額にはならないで欲しいけど。



「それと、訊きたいことがあるんですが……」


「どんなお土産に……あ、え? ゴホン、何でしょうか?」



 悪い大人に呑まれる前に、俺はもうひとつの要件を訊くことにした。少なくとも今後必要になってくる事だしな。


 居住まいを正す俺に何かを察したのか、かず姉は一応ながら職員としての顔で対応してくれた。



「俺……冒険者として申請して置こうかと思うんです。いや、申請します」


「……そっか」



 どこか微笑ましい物でもって見るかのようなかず姉の反応、俺は少しだけ感じる居心地の悪さに視線を逸らした。

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