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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『作り笑顔と陽の姫君(ソル プランサス)』
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働かざる者

おさらい回

 

 場所を台所に移し、どうにか気を落ち着けられた俺だが問題は何一つ解決していない。



「そもそも、どうして急に仕事なんて……」


「……黙っていて、すいません」


「いや、謝らなくてもいいんだけど」



 頭を下げられても俺は慌てるしかない。

 衣食住を無償で提供させてもらってる身の上で文句を言えるわけがない。どこぞのラノベタイトルだ。


 仕事をする。学生である俺と同じ歳にも関わらず、その精神は素晴らしい。俺なんてこの一週間であれ、まともに仕事なんてしようとすらしていないのに……あ、なんか凹むわ。タダ飯喰らいでごめんなさい。


「実はその、言いにくいんですが……食料の備蓄が底を突いてしまいまして……買い物するお金も、もう――」



 よし、土下座だ。二回目だけど誠意はさっき以上に込めよう。



「京平さん、頭を上げてください。どうあれ生活を続けるには働くしかないんですから」



 仮面なのはアレだけど、しっかり者のノワイエだ。それがなぜこんな状況になるか。その事情は俺も知っている。


 四日前、ここにいる彼女は処刑されるという身の上にあった。世界の怨敵として。


 最終神極世界(ラグナレク=エンド)に蔓延した死の病を引き起こした元凶として、憎しみを一身に受け止める生贄になろうとした。 


 冤罪である処刑を一応ながら食い止める事は出来たが、あくまでも延期にするという内容は到底納得出来るものではない。



 そういう背景もあってか、俺と出会った頃から既にノワイエ家の財政は彼女の処刑までの間に合わせ程度しかなかった。



 だが、ノワイエももっと早く言ってくれればいいのに。という気持ちがないわけではない。



「つまり、金があればいいんだな?」


「え? だけど京平さんは――」



 皆まで言ってくれるな。言葉を制すべく突き出した手にノワイエも口を噤む。


 俺だって仕事をしたくないわけじゃない。可能ならしたくないだけだ。うん、変わらないね。


 とにかく、ノワイエの処刑を防ぐ事が出来てから今まで何もせずにニートしていたわけじゃない。


 異世界のハローワークことギルドに行った事だって一度や二度ではない。おかげで多少は、かず姉以外の受付の人とも顔見知りになったくらいの自覚はある。


 この世界の仕事にだって多少の知識は得たつもりだ。最近ギルドの仕事(クエスト)依頼に貼られた内容だって覚えている。



『急募・荷運び要員


 都市内の荷物運び、日中/夜間の空いた時間でも可能な簡単なお仕事。


 肉体強化に適した厨二術を使える方、都市内の地理に詳しい方、大歓迎。


 募集理由:人員減少の為

 報酬:重量、距離に応じて2~5シルバ

    (厨二手当て3シルバ)』



 ノワイエには内緒だったが、昨日面接してみたのがこれだ。


 面接開始早々に、俺の身体を訝しげに見た面接官から、水を満載した樽を持ってみてくれと言われ、足をガタガタと震わせながらもようやく持ち上げたら……なぜかその場で不採用を言い渡された。


 多分あの樽、80キロくらいはあったぞ。


 他で目についたのが――



『薬草採取


 初心者歓迎、必要な道具は支給されます。頼りになる筋肉を持つ先輩方と一緒にアナタも取りに行きませんか?


 捜索に適した厨二術を使える方、若い男性大歓迎。

 募集理由:人員減少の為

 報酬:5シルバ/1日

    (厨二手当て3シルバ)』



 初心者といえば薬草採取。しかし、嫌な予感がした。これと似たような内容と字で書かれた依頼が隣に張ってあったのだ。



『鉱夫募集


 初心者歓迎、必要な道具は支給されます。頼りになる筋肉を持つ先輩方と一緒にアナタも掘りに行きませんか? 大丈夫、最初は辛いけど共に汗を流す楽しさに変わるから。


 回復、または掘削や筋力強化に適した厨二術を使える方、若い男性大歓迎。


 募集理由:人員減少の為

 報酬:7シルバ/1日

    (厨二手当て5シルバ)』


 以前、見たときよりも報酬が上がっていた。どこも人材不足なんだろう、大変だな。俺はやりませんけど。



 ……と、選り好みしている訳じゃないけど。ギルドの募集要項には決まって付いて来る物がある。



 厨二術。



 この世界に繁栄している魔法のような摩訶不思議な力だ。同時に俺を苦しめる難攻不落の壁でもある。


 つまり、厨二病アレルギーなんて厄介なモノを患っている俺に出来る仕事なんてないに等しいのだ。



 それでも、一応ながら無一文というわけでもない。


「少し待っててくれ」


「え……は、はい……」



 仮面の奥、翡翠の瞳に困惑を浮かべるノワイエを残して、俺は一度部屋へと……机のなかのそれを掴んで直ぐに戻る。


 ほんの少しだけ得意げな気分で机の上に出して見せた物――



「京平さん、これって……」


「あぁ、渡すタイミングがなかなかなくて……よかったら使ってほしい」



 机の上にキラリと輝く3枚の金貨。


 初めてギルドに行った際、かず姉から受けた依頼の報酬3ゴルドと、迷い猫の捜索の報酬1ゴルド。


 チンピラに絡まれて1枚の損失はあれど、一応これが俺の全財産だ。


 鉄貨(アイン)100枚で銀貨(シルバ)1枚となり、銀貨(シルバ)10枚でこの金貨(ゴルド)1枚となる。


 1アインを1円に換算すると、俺の全財産が3,000円。世知辛くなりそうな感じだが、ノワイエ曰わく、ひとりで一日に必要な資金は3シルバ……つまり300円。これで5日は生活が保証されるわけだ。



「タマちゃんの時の1ゴルドは分かりますが、この2ゴルドはどうしたんですか?」


 その指摘は前もって予想してたけど、直ぐに問われるとは思わなかった。目敏いというかなんというか……



来訪者(ヴァンデラー)が初めてギルドに登録する時に支度金制度っていうのがあるらしくてね。タマちゃんの時にようやく審査が通って纏めてもらったんだよ」


「……そうだったんですか」



 嘘です。かず姉からの依頼報酬です。


 その時は知らなかったけど、ノワイエの処刑まで一緒にいさせようとしたのか。結局のところ、元の世界に帰る為の話も――


『キョウ君。帰界申請の話だけど、まさか帰るなんて言わないわよね? ブリッツからも聞いてるわよ? いやぁ、流石はオジサンの子ね。……男なら責任の取り方判るわよね? ん?』



 あの目はヤバい。何人かやってる人の目だった。



「でも、これは京平さんが持っているべきです」


 怖い記憶が掘り起こされてるうちに、ノワイエの手が金貨を俺へと押しやった。いやいや。


「ダメだ。衣食住を頼り切ってるんだからこのくらい出させてくれ」


「京平さんが頑張って稼いだお金なんですから、京平さんが使ってください」



 ……ノワイエには頑固なところがある。どう考えても俺は払うべきだろ。しかし、ノワイエは反対する。



「わかったよ……だけどせめて1枚くらい食費に当てさせてくれ。頼む」


「……わかりました。それではありがたくいただきますね」


「……貯めないで、ちゃんと使うよね?」


「…………」



 おい、目をそらすな。俺の目を見ろ。


 こうなったら自分で食材買ってくるか。それならノワイエも諦めるだろうし。



「話を戻しますが、今後を考えるとわたしだって働く必要がありますよね?」


「話をすり替えない。まぁ、俺がきちんと定期的に稼いで家にお金を入れられるのが一番なんだけど……」


「そ、そんな事……」



 視線を逸らしたまま応えるノワイエに、俺も内心で現実的ではないなと思う。現状がニートみたいなもんだし。というかノワイエの耳が赤いな、仮面だし息苦しいのかな。



 だけど、本当にどうしたものか。



 ずっと向きを変えないノワイエの可愛らしい耳を見ながら、俺は三日前に突きつけられた現実……ノワイエの言う今後の事を考え始めていた。


 

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