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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『始まりを告げる非日常(トラブル デイズ)』
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決意の夜

 

 目が覚めたと同時、困惑。何が起きたのか、まったく理解出来ない。


 いつの間にか横たわっていた身体、昼間だったというのに視界は暗く、俺は何を……?


 そうだ。路地で意識が途切れてそれで……今まで寝ていた?



「っ……!?」



 柔らかなベッドらしき場所から跳ね起きる。寝てる場合なんかじゃない!! 早くノワイエを――



「くそ、どこだよここは……!!」



 また知らない場所かよ!! 暗いのは夜だからなのか、だったら余計にこうしてる場合じゃないのに……!!


 何かが落ちてるのか足に纏わりつく布っぽい感触に、四つん這いの手探りで壁を探す。本当にふざけるなって……!!


 部屋に仄かに香る花のような匂いは気分を落ち着ける効果でもあるのか、しかし今はそんな効果も意味をなさない。早くノワイエを助けに――



「キョウ。起きたのか!?」


「ブリッツか!! 早くドアを開けてくれ、暗くてまともに見えないんだ!!」



 どれだけ暗いんだよこの部屋は……!! 窓とかないのか!? まったく見えないんだよ!! この床にぶちまけられてる訳の判らん布みたいなの本当に邪魔なんだって!!


 散々悪態付く俺の背後でドアの開く音と共に、灯りが入る。



「何をそんなに暴れて……」


「京平君。もう身体は大丈、夫……」



 ランタンの柔らかい光がドアの向こうのふたりの姿を照らし出す。酷く驚いているふたりの表情も鮮明に。



「かず姉さん、ノワイエは!? 早くノワイエを助け、に……?」


「…………」



 うん? どうしてかず姉さんは無言で近寄ってくるんだ? 勇ましさすら感じる足取りで。



「かず姉、頼むから今後に支障を来すような真似だけは止してくれ、あと言いたい事は判るな?」


「判ってる。ちゃんと片付けしない私にも責任はあるわ……京平君? とりあえずそのがっちり掴んでる"私の下着"、返してくれる?」


「は……?」


 ランタンの灯を背にしているというのに、伊達眼鏡の奥にある目が反射して見えない。それより俺は自身の状態と周囲の状況にようやく気が付いた。



 色とりどりの服が散乱した部屋のなか、俺は四つん這いのまま、水色の三角布を片手に……あぁ、パンツですねこれ。邪険にして悪かったよ。本当に悪かった。



「かず姉さん、片付けられない女だったんですね。あはは……」


「ブリッツ。やっぱり明日の決行はふたりになるわ……止めて!! 離して!! 離してブリッツ!!」


「ダメだ、かず姉!! キョウの言う事はもっともなんだから!!」


「自覚してる事を他人から言われる程腹立つ事はないのよ!! 離せぇぇっ!!」



 一回り以上大きなブリッツに羽交い締めにされても、どすんばたんと暴れるかず姉さん。非常に恐ろしい。超怖い。


 


 場所をかず姉さんの汚部屋もとい、お部屋からダイニングらしき部屋に移す俺達。その頃にはどうにかブリッツに宥められて、かず姉さんは落ち着きを取り戻していた。



「京平君。改めて説明します。いえ、説明するわよ、キョウ君」



 居住まいを正しながら、ダイニングテーブルの上で腕を組むかず姉さんに俺は頷く。


 話し方が砕けたのは、親しみを持ってくれてるからですよね。その目がなぜかゴミを見るような目なんですけど。



「ノワイエの居場所自体は判っているわ。一応ギルド職員の立場を利用して調べ上げたのだけど、救出作戦は明日に行うわ」


「そんな、場所が判ってるんなら今からでも――」


「監視側の勢力が結集してる場所なのよ。間違いなく夜襲にも備えて万全の状態で構えている。そんな場所に行くなんて無謀よ」



 冷静に言ってのけるかず姉さんに、隣に座るブリッツが続く。



「土壇場にはなるが、策は練ってる。だから、今はこっちも万全を期すべきだ」


「策っていうのは……?」


「その前にキョウ君。策を訊くからには、覚悟を決めてもらうわよ」


「止してくれ、今更覚悟とかなんとか……ここに来て引き下がるだなんて出来ないだろ」



 腕に走るぶつぶつを宥めながら呆れてみせると、ブリッツと一緒にかず姉さんは神妙そうな顔付きで俺を見てくる。



「ブリッツから聞いたわ。キョウ君が……オジサン達の子供だって、味方ならこれ以上心強い存在はいない……でも、佐居 京平さん。"帰界申請取消"をした場合、再申請は――」


「面倒臭いですよ。そういうの」


「え……」


 せっかく意志を固め直してるってのに、なんだってまた揺るがそうというのか。



 元の世界に帰れなくても、ここでノワイエを見捨てて帰ったら……合わす顔がねぇよ。



「処刑に関する妨害は重罪だぜ? 良くても終身禁固か、その場で処刑だ」


「冤罪の処刑を妨害するのは当然だろ?」


「ははっ、違いねぇ……いいんだな?」


「何度も言わせるな。鳥肌じゃ済まなくなるわ」



 しつこいったらありゃしない。



「安心して、みんなの事は何があったとしても私が守るから……絶対に」


「かず姉さん。重いわぁ……」


「あぁ、重いな」


「女に重いって言うな!! 重いとか……言うなぁ!!」


 うがぁ!! と吠えるかず姉さんに、もう最初の頃に感じた仕事の出来る女性の姿はない。だって片付けられないし、どこか残念な人のイメージが植え付けられてるもの。


「それじゃキョウ。早速明日の計画なんだが――」


「いいわ。なんなら私の力を今からでも見せて上げても……」


「あ、かず姉さん。お腹空いたんで出来ればそっちの力を見せて頂きたい」


「止めとけキョウ。かず姉はノワイエと違ってそっち方面もさっぱりだ」


「ぐっ、好き勝手言って……何が食べたいのよ!! こうなったら何だって買ってくるわよ!!」



 出来合いかよ。なんかどんどん残念になってくよなこの人。



 こうして、俺達の夜は更けていく……



 ノワイエ……絶対に、助けてみせるからな。


 

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