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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『始まりを告げる非日常(トラブル デイズ)』
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噂をすればなんとやら

 

「ブリッツ……どうしてここに?」


「話は後だ。ついて来な」



 颯爽と現れた幼なじみに疑問を投げかけるノワイエだが、確かに悠長に話してる場合ではない。


 文字通り、あっという間に無力化された監視達を横切って俺達はブリッツを加えて再び走り始めた。格好いい台詞なんか吐いちゃってくれて、むずむずしちゃうねまったく。


 正直、体力的に辛い部分があるけど走る俺にまだまだ余裕があるブリッツが併走する。真っ直ぐ前を見てはいるが、その表情はどこか気まずそうだ。



「なんつうかよ。昨日は悪かった……」


「いや、俺の方こそ……すまん」



 覚悟だなんだと意気込んでおきながら、怖じ気づいた。勝手な期待とはいえ、ブリッツが失望するのも無理はなかったかもしれない。


「その調子じゃ、吹っ切れたのか?」


「まだわからない。この状況だって行き当たりばったりなんだ……でも――」



 俺がノワイエにとって仇かもしれなくても、初対面かもしれなくても、やれる事は案外変わらなかった。


 ノワイエを処刑させたりなんか、させる訳にいかない。納得なんて一片たりともない。今はそれだけで充分。



「なんだっていいさ、キョウ。今のお前の面を見りゃ判る」



 なぜかブリッツはそう言いながら恥ずかしげに頬を掻いて速度を上げる。付いて来いとか言って置いていくなよな……



「お前に何が判るってんだよ。まった、く……?」



 不意に強く手を握られる感覚に、見ればノワイエが仮面越しに俺を睨んでた。じっとりとした訝しげな目で。



「いえ、なんだかんだ言っても京平さんってブリッツの事好きなんじゃないですか?」


「え゛? やだなノワイエ、俺がそんな趣味だと思ってたの?」



 勘弁して欲しい。ついさっき告白紛いな事言ったじゃないか。この鳥肌どうしてくれるんだか……



「でも――」


「まぁ、嫌いじゃないよ。ああいう奴」



 さて、そろそろ追っ手が来てもおかしくない。もう一踏ん張り頑張りますか。



 ◆ ◆



「ここを抜けられれば大丈夫だ」


 走る事数分。体力も限界を感じ始めた頃に先を行くブリッツが視線を送る。


 その先には人で出来た川があった。数えるのも億劫になる程の人が右から左へと流れていく。


 そう、ディスティーネ名物のロードオブロード。交易路である。木を隠すなら森の中、対岸に渡れれば時間稼ぎにも充分使えるか。


「間違ってもはぐれるなよ。万が一はぐれた場合は――」


「一穂お姉さんの家……だよね」



 ブリッツの言葉を遮り、心なしか重い声でノワイエは告げる。あの人の家は向こうにあるらしい、確かにかず姉さんなら力になってくれそうだ。



「今更になって関係ないだとか言うのはナシだからな。お前は手を伸ばしたし、キョウがそれを掴んだ。そうなったら俺達が関わっちゃ駄目だなんて――」


「判ってる。行きましょう」



 老婆心なのか、念を圧すようなブリッツの忠告にノワイエは先へと踏み出す。微かな震えをギュッと握る手で抑える彼女に、俺も腹を括る。ここまで来たんだ、後は出来る事をするまでだ。



「だけど、もし――」



 喧騒へと身を踊らせる直前、ノワイエの微かな呟きが聞こえた。しかしそれは最後まで聞かれる事なく、俺達は人の流れに飲み込まれた。

 

 いったいこれだけの人がどこに行こうというのか。予想よりも人の流れは速い。目を凝らせば中央を二車線の馬車道が列を成して走っている。どこかにあるのか、ファンタジー感ぶち壊しなトラックもまた独特なクラクションを響かせていた。


 そんななか、ブリッツは慣れた様子で人の隙間を縫うように早足で進んでいく。


 俺とノワイエもまた、うまく一団と思しき人の塊の後の隙間を抜けていく。決して直線的とは言えないが、立ち止まる事なく向こう側へと行けそうだ。



 そう、上手くいく。きっと大丈夫だ。



「はぐれてねぇな!? ふたりとも!!」


「あぁ、ちゃんといる。俺も、ノワイエも……」


「うん、どうにか……」



 半ば揉みくちゃにされながらも、俺達は無事に人垣の川を渡りきった。どっかりと腰を下ろして一息つく。もうあの場所は懲り懲りだ。



「なんだキョウ。もうへばったのか?」


「馬鹿言え、お前が体力馬鹿なんだよ……」


「二人とも、そこで休んでいてください。飲み物を買ってきますから」



 そんな言葉を残してノワイエは先へと走っていく。ここまで来たから流石に追っ手も来れなさそうだし、久々にこんなに体力使ったわ。


 喧騒を遠くに、ひと気を失った路地に吹き抜ける風は心地よい。



「で……この後は、かず姉さんの家に行ってどうする?」


「お前までかず姉呼ばわりか。まぁ気持ちは判るけどよ」



 額に汗を滲ませながら、空を仰ぎ見るブリッツ。無駄に絵になりそうなポーズは止めろ、アレルギーとは別にただ単に気持ち悪い。



「あの人のクラスは知ってるか?」


「ギルド職員じゃなくてか?」



 問い返す言葉にブリッツからは呆れたような溜め息と視線を向けられる。誠に以て遺憾である。



「それは職業だ。そうじゃなくてクラスだよ。俺だって名乗ったろ?」


 同じ様な物だろ。だけどどうやら違うらしい。本当に変な所でややこしいな……



「えっと、確かナビゲーターB5……って言ってたな」



 視線を空へと向けながら思い出してみる。B5だとかいうのはランクとかそういう物なのだろうか。



「あぁ、まだあの人Aランク受けてねぇのか。あの堕落姉は――」



 そこまで言って、突如ブリッツから鈍い打撃音が響く。まさか追っ手が来たかと思い、身構えると――



「誰が堕落姉か。チンピラ風情が私に随分とナマ言ってんじゃないの」


「ぐぉぉっ……頭蓋が割れるぅぅ……」



 のた打つブリッツを見下すように、手の平をぷらぷらと振る女性の姿がそこにあった。


 噂をすればなんとやら、か。俺は下手な事を言わずにいて助かった。



「あら、京平君ではないですか? またチンピラに絡まれてたクチです?」


「あ、いや……今回は違いますけど」


「何でかず姉がここにいるんだよ……っていひゃいいひゃい!!」



 再び悪態付くブリッツの頬を摘まんで持ち上げるかず姉さん。どうやらブリッツの天敵に位置するらしい。解らんでもないが。


「この近辺は私の縄張り。そこんところをまったく理解出来ないオツムのよわーいお馬鹿さんには私も呆れて物も言えないかも……ボディ、いっとく?」


「ごべんだざい、ずびまぜんでびば」


「あの、その辺にしてやってください……俺達ちょうど、お姉さんを探してた訳でして――」



 このままでは埒が開かないと、ブリッツへと助け舟。ちなみに嘘は言ってない。


 しかし、かず姉さんの反応は早かった。つまみ上げるブリッツをポイと捨て置いて、俺の顔をジッと見る。非常にヤバい、蛇に睨まれた蛙だ。



「ブリッツ。もしかして、上手くやったの?」


 視線はそのままに、真剣な顔付きのかず姉さんは後ろで崩れ落ちているブリッツへと声をかける。



「あぁ、ノワイエと一緒に……監視から逃げてるところだ……です」


「あの子が望んで?」


「そうだ、と思うが……キョウが連れてるところに俺が加わった……訳です」


「そう……」



 すっかり調教されたらしく、同時にはっきりしない応答に納得するべくもなく。視線に移る俺も聴取を受けるのだろう。



「……ともあれ、話は判ったわ。いざとなったら拉致でもなんでもしようと思ったけど、手間が省けたわね」



 あれ? 俺はいいの? というか物騒な単語でてきましたけど、気のせい?



「それで、件のお姫様は?」


「あぁ、ノワイエならジュースを買いに――」


「いや、遅過ぎる……おいおい、マジかよ。ここに来てそれかよ!?」


「嘘……どれだけ間が抜けてんのよアンタ達はっ!!」



 突然、走り出すブリッツとかず姉さんに思考が追い付かない。なんで? 監視はもう撒いたようなものなんだろ?



 遅れて後を追う俺が目にした物。



 そこにあったのは飲み物が入っていたと思われる入れ物が三つ。それが石畳の上に散乱していた。

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