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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『始まりを告げる非日常(トラブル デイズ)』
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メリットとデメリット


 吹き飛ばした後になって、あれがノワイエを監視していた男だと思い出す。きっと後をつけてきたのだろう。


 虚空から現れ、虚空へと消える鎖から伝わる筈のない手応えに、酷く冷静な思考が働く。


 しかし、こんな事も出来るのか。


 明確なイメージはしていなかった。ただ邪魔だから排除したかった、その気持ちが伝わったのだろう。鎖は強大な力で応えてくれた。



「すごい……」



 その光景はノワイエも予想外だったのだろう。呆然と漏れ出した声に、俺は思わず笑いそうになる。



 ――そうだ。この力があれば、守れる。理不尽な世界から、"今度こそ"、守れる。



「魔女よ。それが貴様の答えか?」



 声が響いた。草藪の奥から、囁かながらも確かな足音と共に。



「っ、違っ……京平さんは関係ありませんっ!!」



 悲鳴にも近い叫びと共に俺の前へと躍り出るノワイエ。再び姿を現した男の姿に、今度は俺が驚く番だった。


 少なくとも、人間一人が容易く吹き飛ぶ勢いで鎖の鞭を打ち付けたというのに、鎧には凹みは疎か、傷ひとつ見当たらない。


「……だそうだが、部外者を無闇に殺すつもりはない。失せろ、小物」



 あくまでも男の興味を引く事すら叶わなかったらしい。それでも視線から嫌でも感じる威圧感。昨晩と同じく、足が竦んで仕方ない。



「手を出したのに、見逃すって?」


「あぁ、我らが下されし使命に小物の蹂躙はない」



 騎士道という奴か? 無関係な奴に手を出したりはしないと。



 本当に、ありがたい。



「そうかい。そりゃ助かる」



 おっさんが仕事人間で良かった。


 思わず口元に浮かぶ笑み。俺の前に立つノワイエの肩に手を置いて、俺はゆっくりと歩き出す。



「そういえば、聞き忘れたんだけどよ。おっさん」


「貴様の問いに応える暇はない。失せろ」



 いやぁ、何だろう。気持ちが晴れ渡るとはこの事か。空に向かって、うんと手を伸ばす。徹夜する程に頭ばっかり使ってたせいでパキパキと小気味良い音がする。



「まぁまぁ、そういいなさんな……せいきし? って言ったか? 如何にも弱者を守り、悪を絶つ。格好いいじゃんか」


「…………」


「黙りかよ。まぁ、いいや。俺さ、ひとつ言っておきたいんだよ」



 空にかざした手。さっき、触れたノワイエの肩の感触はまだ余韻として残っていた。




「俺、格好いいの駄目なんだわ」



 震えていた。小さな肩の感触が。



 両手を地面に叩き付けるくらいの勢いで振り下ろす。感情のままに、強い憤りのままに――



「ぶっ潰れろっ!!」



 笑いたくなるくらいの怒りの込められたら鎖……いや、繋がってない状態のOの字を鎖と呼ぶかはさて置き、段違いだ。何に使うか判らない程太い鎖の輪は、鉄の塊といって遜色なく。

 人間なんて確実に圧死レベル。歯止めの利かない感情が形を持って――



「笑止」



 男は右腕一本でそれを受け止めてみせた。ずずん……!! と地面が揺れるくらいの重量を腕一本とか化け物かよ……!!



「まさか、これほどつまらん手で倒せると……?」


「京平さん、逃げてください……お願いですから……!!」


「……嫌だね。断固断る」



 賽は投げられている。少なくとも、おっさんは俺をロックオンしてくれたようだ。


「ほら、貴様のだ。受け取れ、小物」



 キャッチボールの気軽さで投げるのは、もちろん俺が出した鎖の輪。重ねてもちろん俺は常人、しかもワンパンで死んでしまうくらい雑魚雑魚しい人間だ。



「そう言わずに受け取っとけよ……"ばらばら"、"ぐるぐる巻き"!!」



 思いつきというより、思ったままにぶっつけ本番。おっさんの手から放たれようとした鎖の輪が、手品のように小さな鎖で出来た輪っかに――



「ぬぅ……!?」



 雪崩のように崩れ落ちる鎖がおっさんを包み、ひしめき合うようにおっさんを縛り上げていく。もちろん、そんな趣味はない俺はノワイエへと手を伸ばす。



「来いっ!! ノワイエ!!」


 別に倒す必要はない。おっさんだって俺を見逃すつもりだったらしいし……別に勝てないから逃げるわけではないよ!?



「でも……」


「あぁ、本当に面倒くさい!!」



 ここに来て一人で逃げて何になるというのか。そんな事も考えつかないノワイエの手を強引に取る。今更ながらに女の子らしい柔らかい手ですね!! 役得です!!



「いいから俺に付いて来いっ!!」


「…………はい!!」



 よし、いい子だ。


 ようやく決意したらしいノワイエと一緒に、おっさんに戯れる鎖という奇妙なモニュメントを横切って草藪の獣道へと走り出す。まるでドラマの……おっと、それ以上はいけない、むずむずしちゃう。



「くそっ……本当に痒くなってきやがった……!! 馬鹿っ、俺の馬鹿っ!!」


「はい!! わたしもそう思います!!」



 草藪の天然迷路を全力疾走しながら、ノワイエから元気の良い返事が……おい。



「わたしを助けても意味なんてないのに……京平さんが――」


「あー!! あー!! 聞こえないー!! ったく、悲劇のヒロインぶりやがってっ!!」


「そんな……!! わたしはただ――」


「出たよ自己犠牲!! 自分の身を削って、誰か助けて、その結果に殺されてたら世話ねぇよ!!」


「京平さんに何が判るって――」


「お前はブリッツか!? 二人揃って肝心な部分で引きこもってんじゃねぇよ!! 誰かを想ってんなら、自分勝手な事情押し付けんな!!」


「……幼なじみと喧嘩してる癖に」



 うほっ、ブーメラン。



 ていうかなんで手を繋いで逃げながら喧嘩してるんだ俺達。



「街が見えて来ましたよ!?」


「人通りの多い所で撒くぞ!! つまりは適当に逃げる!!」



 まったくもって無策である。木を隠すなら森の中だって言うし――



 しかし、俺は失念していた。



 確かに草藪から抜け出して、正面に街の路地がある。そこから来たのだから。



「チッ……嘘だろ……」



 監視がおっさん一人だとは言ってないし、実際に昨晩にもいた。だから、俺達の行く手を遮るようにいても不思議ではない。


 後ろにおっさん、前に他の監視役数名。ノワイエを守りながら行けるのは――



「お前達っ!! 止まれっ!!」



 制止の声と同時に腰から下げている剣を抜き放つ監視達。初めてに等しい凶器らしい凶器を向けられて、俺とノワイエの走る速度は……"変わらなかった"。



「俺がいない間に随分と仲良くなってんな。お二人さんよぅっ!!」



 監視の背後、そこに笑みを浮かべる男の姿もまた、見えていたのだ。



「なっ……お前は――」


「お仕事の邪魔して悪いな。安心して休めよ」



 両腕に鈍色の籠手を装着し、背後からとはいえ五人の監視を一蹴する姿は頼もしい事この上ない。



 本当に、頼もしいよ。ブリッツ。



 

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