真実
踏みしめる一歩に石畳が強く擦れる音が響く、俺だけでなく、ブリッツからも。苛立ちを込めてまた一歩、お互いに言葉はなく、俺は肩を怒らせて進むブリッツの背中を見ながらついて行く。
いったいどれだけそうしたのか、街を抜けた先、大きな石碑の立つ広場でブリッツの足が止まる。
いや、広場というよりは石碑以外には何もない丘というか、ひと気のない草の絨毯のなかで虫の鳴く音は静かに響く。こんな気分じゃなければピクニックに来るには良さそうだな。
結構歩いたせいか、外套を肩に掛けていると、汗ばむ身体に涼しげな風が気持ちいい。
「ったく、ノワイエを連れて出てたらヤバかったな……」
「あの偉そうな奴はなんなのさ」
どっかりと座り込むブリッツに倣って俺も手頃な岩に座る。少し遠くに見える街中は、微かに点々と灯る明かりがなんだかロマンチックで……どうして野郎二人でこんな景色を観ているのかと考えると悲しくなる。
「あれは『王国騎士団(キングダム=ナイツ)』の奴らさ。誉れ高き『魔女狩り』に選ばれた、な。白い鎧野郎はその中でも指折り……恐らくは『聖騎士』ってところか」
ぎゅっと鳴る音は、ブリッツが握り締めた拳からか。しかし、そんな奴らの事よりも衝撃的な言葉があった。
「魔女狩り、って……どういう事だよ」
言葉の意味は解る。
だからこそ、判らない。
『あぁ、近々"魔女"が処刑されるのさ。長年アタシ達を騙して生きていたような厄介者さ。まったく忌々しいね、胸も空くってもんだよ』
なぜか、脳裏にチラつく言葉があった。
『……という事は、その子と一緒にいる"アンタの正体"はまさか――』
どうして、こんな事ばかり思い出すのか。
どうして……!!
『ようやく役に立てるんです。その為に秘密にしなくちゃいけない事が沢山あるんです』
「ノワイエは処刑される。忌まわしき魔女として、な」
突きつけられた言葉に、頭がどうかなりそうなくらい熱くなる。ブリッツの言葉はあまりにも冷たく響いた。
「ふざけるなよっ!! そんな事認められるわけが――」
「ノワイエが決めた事だとしても、か?」
立ち上がるブリッツの言葉と視線が俺を射抜く。だが、それだけで治まるような熱じゃない。
「ブリッツ!! お前はそれでいいと思ってるのか!?」
「じゃあ、逆に訊くぞ?」
「っ!!」
俺も余程、頭に血が登ってたのか。胸ぐらを掴むブリッツの表情がどんな感情に彩られているか、気が付いた。
「お前がいなけりゃ家にさえ上がることを許されない程拒絶された俺の気持ちが解るか?見ず知らず同然になっちまってるお前に縋るしかない俺の気持ちが……!!」
震える程に力を込めた腕。今にも血走る程に見開かれて尚、鋭い眼光。絞り出される血のような言葉。どれもが俺に伝えてくる、憤怒という感情と共に伝えてくる。
言い回しの不可解さは、恐らく俺の知らない何かを知っているから――
「知るわけがねぇだろ……!! 俺はお前じゃない……だけど、だけどよ!! ブリッツ!!」
「っ!?」
締め上げる両腕のお返しと言わんばかりに俺もブリッツの胸ぐらを掴み、睨み付ける。
「ノワイエを助けたい。少なくとも俺もお前もそう思ってんだろうが……!! だったらこんなくだらねぇ真似してねぇで知ってること全部吐けよ……!!」
うだうだと回りくどいったらありゃしない。ノワイエもブリッツも、秘密だなんだって出し惜しみしやがって――
「くだらな……!?」
「間に合わなかったら終わりなんだよ……!! 泣こうが喚こうが後悔しても遅いんだよ!!」
その言葉が届いたかは判らないが、ブリッツの手から力が抜けた。表情にも落ち着きが出て来たようで……
「話すが、お前こそ後悔するなよ? キョウ……いや、"佐居 京平"」
後悔を覚悟出来てなければ、さっきから感じる蕁麻疹の症状でも訴えてるっての。




