かわいいは正義?
姿見の向こう側で、愕然とした顔の男がこちらを視ている。殻を剥いたゆで卵のようなきめ細かい肌、まさに驚きの質感だ。
「滅茶苦茶キレイになってるーっ!?」
姿見の向こう側で、俺の叫びと男の口がリンクした。
そう、俺の顔だ。このツルツル肌にはなったが、見飽きる程度には見てきた面構え、俺である。
「非常に申し訳ありません……」
視界の外では少し前から重々しく頭を垂れるノワイエ。どうやら彼女の厨二術により、俺の頬に出来た傷ごと古い角質は抹消されて赤ちゃんのように無垢な素肌に生まれ変わったのだ。
ブリッツは台所で腹を抱えたまま動かず、今もまだ引き付けで起こしかねない勢いで笑っており、その声は店内スペースである此方まで聞こえている。
「凄まじいな、これ……」
頬に指を滑らせながら、もうこの呟きも三回目だ。そうとしか言いようがない。
もしも顔の形が変わってしまっていたのなら、いくらノワイエであっても怒っていただろう。なにしろそれ程までに痛かったのだから。
「本当に何とお詫びしたらよいか……」
「いや、俺は大丈夫だけど……」
平伏しかねない勢いのノワイエに、ようやく俺は声をかける。ある意味、多くの世の女性達からすればむしろ賞賛されるべき出来事なのかもしれないが、それが俺に当てはまるべくもない。
「ですが……」
ノワイエもまた、引き下がる様子もなく頭を下げたままだ。かすかに震える声は、緊張によるものか、なんにせよ――
「それじゃあノワイエ、キミはこれをワザとやったというのか? 悪戯心の赴くままに、俺を笑い物にしようと――」
「そんなことっ!!」
言葉を遮り、やっと顔を上げるノワイエの視線が俺とぶつかった。真摯なまでに真っ直ぐな目に、心にもない事を言った俺の方が目を逸らしたくなる。
「なら、ごめんなさいは一回でいい。俺は責めるつもりもないし……」
「京平さん、でも……」
優しく微笑む俺に安堵したかのように、ノワイエは声を漏らし――
同時、彼女の側頭部……こめかみに当たる部分に、俺の拳がゆっくりと添えられた。
「でも、それとは別に、だ……」
「え? あの京平さん!? いったい――」
両の拳はゆっくりと回転を始め、進攻を開始する。比較的優しい力で、比較対照は灯衣菜だ。
「次は事前に言ってくれるとありがたいなぁ?」
「痛っ!! 痛い痛いですって!!」
ぐーりぐり。痛かろう痛かろう、俺はもっと痛かった。ワザとじゃなければ無罪放免だと誰が言ったかね。くけけ……
生憎俺はフェミニストではない。怒るべき時には怒る男女平等主義者なのだ。




