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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『始まりを告げる非日常(トラブル デイズ)』
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厨二術

 

「どうかしたんですか? 京平さん」


 微かに漏れた声に反応を示すノワイエに、俺は言葉を濁す。


 どうしたものか。ひょっとしたら一つの問題が解決するかもしれない、そんな方法を思いついてしまった。


 思いついてしまったからには、好奇心の虫はむずむずと騒ぎ出す。アレルギーとはまた違う意味でむずむずとしてしまう。



「あの、さ……再現っていうのは厨二術とどう違うんだ?」



 予感を確かにする為の問い。それはある意味必要不可欠な気がした。かもしれない、よりも可能であるという意識の為に。



「えっと、実際に違いという程の違いはないんですが……」


「そもそも厨二術っていう物をキョウはどのくらい知ってるんだ?」


「どのくらいって……」



 途中、何やら興味が湧いたらしいブリッツの問いかけに考えてみた。


 言われてみれば、よく解らない部分が多い。それは俺が知ろうとしなかった事もある、『厨二』というフレーズからして既に厨二病アレルギーの俺にとって嫌煙すべき問題であるからだ。


 しかし、この異世界生活でその必要性があるなら、手段の一つは確保すべきだろう。ましてや一度は死んだ身だ、なんの因果か生き返る事が出来たとはいえ、次も上手くいくとは限らない。使えないと使わないは違うという事だ。



 それこそ、先程ブリッツが言っていた通り『知らずは救い、知れぬは窮地、知ろうとせずは馬鹿者也』という奴だ。



 まぁ……なんだかんだと言っても、俺も摩訶不思議な力に確かな興味はあるのだ。それが苦痛を伴ってしまうだけで。



「……いいんですか? 京平さん」



 沈黙する俺へと、ノワイエは不明確な問いを投げかける。俺の厨二病アレルギーの事を案じているのだろうか。それとも違う何かか。



「あぁ、いい加減に知っておかないと不味いって思うからね。それこそさっきみたいな事はもう懲り懲りだよ」


「そこについては俺も同意見だ。それに俺もキョウがどんな事をやろうとしてるのかも気になるしな……よしっ」



 小気味良く膝を、ぱんっと叩き、ブリッツは俺の前に立つ。いったい何をするつもりなのか、その顔は自信に満ちている。



「俺が厨二術とは何たるかを説明してやろうじゃないか」



 威風堂々。腰に手を当てて胸を張るブリッツに、俺は流れるように視線を移す。



「……ノワイエ? 説明頼めるか」


「はい、もちろんです」


「なぜだ!?」



 どこか嬉しそうに声を返すノワイエを遮るように身体を挟めてくるブリッツ。余程自信があったのか、驚くように俺を見てくるのだが――



「いや、何となく説明とか苦手そうだし……」



 本音としては、これ以上ブリッツとの絡みを続けてはいけないと本能が警鐘をならしているからだ。



「おいおい、そりゃないぜ。それじゃまるで腕力しかないみてぇじゃねぇかよ」


「あぁ、そういう場面が来たら是非ともブリッツに頼みたい」


「……ったく、仕方ねぇ。そういう事なら仕方ねぇな。ったくよ」



 チョロいな。まるで本当に脳筋キャラのようではないか。



「ほらブリッツ、邪魔だから早く座って。京平さんにはこれからまだ仕事だってあるんだから……というか、いい加減に帰ってよ」


「まぁまぁ、そう邪険にすんなよ。俺だってキョウに興味があるんだからよ……おっと、別に洒落を言ったつもりじゃねぇからな」

 うわぁ、ウザい……


 微かな寒気と確かな苛立ちを覚えてしまうドヤ顔のブリッツには俺もお引き受け願いたいのだが、仕方ないか。



「まぁ、ちょっとブリッツにも手伝ってもらう事があるかも知れないし……いいかな?」


「むぅ、それってわたしじゃ駄目なんですか?」



 少しむくれるノワイエの台詞は非常に魅力的な響きで耳を打つ。


 いい、凄くいい。その仮面が感動を激減させてしまうのが非常に残念でならない。


 渋りはしているが、ブリッツも梃子でも動かない姿勢に諦めたのか。紆余曲折を経てようやく説明が始まる。


 果たして俺も耐えきれるだろうか。



 『厨二術』



 それは神極最終世界(ラグナレクエンド)に存在する生きとし生けし(インソウル)を持つ全てのものが使役する事の出来る術の総称である。



 大国の研究機関により、(インソウル)を持つ術者の厨二的妄想(イマジネーション)がその厨二精神(インスピリチュアル)により、世界の概念が変化されて体現すると解明されたこの力は、神極最終世界(ラグナレクエンド)の戦乱が近代まで続く事となった原因であり、その反面で生活水準を飛躍的に進歩させてきた力でもある。



 なぜならそれは、(インソウル)厨二的妄想(イマジネーション)厨二精神(インスピリチュアル)さえあれば誰もが使役出来るという汎用性が起因している。


 逆説的にいえばその内のどれかが欠けていれば使役する事が不可能という意味を持っている。





 使役する力の強さにもよるが、コンロに火を起こしたり、風で洗濯物を乾かしたりする程度であれば老若男女問わず、ほぼ全ての人間が使用出来る為、その範囲における厨二術を生活厨二術と呼ぶ。



 『(インソウル)


 人、動植物はもとより古代物質(エンシェントアーティファクト)と呼ばれる物に内包されているエネルギー。


 その存在は未だに解明しきれない部分があり、大国の研究機関で日夜調査が行われている。



 『厨二的妄想(イマジネーション)


 術者が厨二術を使役する際に厨二精神(インスピリチュアル)と共に世界を変化させる力。


 この厨二的妄想(イマジネーション)により、脳内に想い描いたイメージが鮮明的、具体的であればある程強い厨二術を使役する事が可能とされる。



 『厨二精神(インスピリチュアル)


 術者が厨二術を使役する際に厨二的妄想(イマジネーション)と共に世界を変化させる力。


 厨二術を使役、体現するという強い意志の総称である。


 


 以上、ノワイエ先生による厨二術講座『これであなたも厨二術者』の内容だ。



「…………」


「大丈夫ですか? 顔色が悪いですけど」


 うん、吐きそう。厨二って言葉が何回あっただろうか。もう厨二酔いだ、厨二酔い。格好良い響きとかも混ざって辛いわ。



 だけど、取り敢えず解った。



「続いて、再現ですが――」


「いや、大丈夫」


「……え?」



 ノワイエの言葉を制して、俺は椅子から立つ。少しだけふらつきそうになるけど、目を閉じて深く深呼吸、それだけで気分は良くなった。



「"やっぱり"か……」


「おい、キョウ。どこ行くんだよ?」



 困惑するブリッツの声を背に、俺は台所の勝手口から裏庭へと向かう。



「ちょっと、試すんだよ……厨二術ってヤツをな」



 そう告げた途端に走る鳥肌は、果たしてアレルギーからだったのか。それとも……

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