和解
いったいどうなっているのやら。同じ日に二人からの同じようなお願いを受けるなんて。
「俺がなんだってんだよ。俺はただこの世界で偶々ノワイエに拾われて偶々居候させて貰ってるだけなんだぞ?」
ギルドにいたお姉さんの時には言う事のなかった言葉を、ブリッツは真面目な顔でただ耳を傾けていた。
そう、付き合いが深い自分達で解決すべき事もあろう。それを初対面の人間に託すだなんて、コイツらは本当にそれでいいのか。
俺だって自分の問題は自分で解決すべきだと鈴音を遠ざけて――
「俺じゃ、駄目だったのさ。だからこそ、お前という存在が必要なんだ」
悔しげに顔を歪ませるブリッツは本当に参ってるようだった。これが演技だと露にも思えぬほどに。
「そもそもが俺に何が出来る? 簡単な厨二術一つ上手く使えずに、それこそあっという間に死んじまうような奴に――」
「俺には、解る」
「っ……」
思わず、カッと頭に血が登りそうになる。なんだよ、それ。お前に何が解る、俺のなにが――
「ノワイエが必要としているんだ。あんな仮面なんか着けるくらい、自分を隠し通そうとしているノワイエが……!!」
肩を掴んだ手から痛いほどに強い力が込められる。同じくらいに、その感情も。
「分かったよ……肩、痛いから離せ」
「……悪い」
まったく、本当になんなんだ。俺に何を期待してるんだよ。
それでも、だ。
「大体、お前に言われなくても、何も出来なくても、見て見ぬ振りをしているつもりはねぇよ」
「キョウ……」
「勘違いするなよ? お前に言われたからでも、ギルドにいた受付のお姉さんに依頼されたからでもねぇ……俺の国には一宿一飯の恩ってのがある。こちとら端っからノワイエに恩返しするって決めてんだよ」
金貨はちゃっかり貰ってるが、それにしたってだ。俺がそんな恩知らずに見えるのかね?
「そうか。ん、ギルドの……? かず姉か。『来訪者』の」
ノワイエの幼なじみという事もあって、ブリッツもあの人の事を知っているらしい。まさかブリッツも英雄達の関係者だろうか。訊く気はないけど。
「あぁ、ノワイエをしっかりエスコートしろってね。未知の場所でエスコートされてるのは俺なんだけどな」
あのお姉さんが話題に絡むと、ブリッツも俺も、ささくれ立っていた気持ちが落ち着くようだ。まったく不思議な人だよ。
「いいじゃねぇか。俺もそれがいいと思うぜ? 厨二術は使えなくても、お前にしか出来ねぇよ」
「同じ事言ってら……」
二人とも何を期待してるのか。全然明かそうともしてこない真意を考えても無駄かと深い溜め息ばかりが零れた。
「じゃあ用事は済んだな。俺はこれからノワイエと昼飯なんだから帰っ――」
――ぐぅ。
「うっ……」
「おい。随分のいい胃袋を持ってるな? 残念だがお前に飯を食わす余裕なんてないと思うぞ?」
お前に食わせるくらいなら、ユトリーに食わせよう。愛でる分には比較にすらならないからな。
「くそっ、居候の癖に偉そうな……」
「まぁ? お前がどうしてもというなら? 俺だって鬼じゃない、ノワイエに口添えしても構わんのだが――」
居候で結構。偉そうで結構。
「お前だって、全部俺に丸投げするつもりはないんだろ?」
「キョウ、お前……」
まったく、俺も大概だな。敵に塩、とは違うか。なんだかんだ言ってもブリッツにシンパシーを覚えなくもないのだから。
「俺だけじゃ、正直判らん事もあるんだ。それにノワイエに頼り切るのも男として、解るだろ?」
まったく以て格好悪い。それでいい、それがいい。
どうせ格好良い事が出来ないなら、格好悪くても構わないだろう。
「そこまで言われちゃ、俺も断れねぇな。男だしな」
にっ、と笑うブリッツが心地良い。男友達ってのは記憶に久しいが、青春ってこんな感じだろうか。
改めて握手を交わす。力強く握り合う手の力。うん、青春だ。
うん、むずかゆっ。




