些細な変化 (9/30 改稿)
紆余曲折はあったけど、無事にクエストを受注出来た俺とノワイエは、早速迷い猫を探しに街へと出た。
さっきの受付のお姉さんではない人から渡された真新しいギルドカードは緑色。あれか、若葉という事なのか。
「これで俺も冒険者か」
「あ、いえ。冒険者はギルドカードに特定の判子が捺されるので、その状態では身分証という扱いですね……でも、よかったんですか?」
違うのか。まぁ、いいけど。
路地を案内しながらノワイエは俺を不安気にか見ている。もしかして症状を気にしているのだろうか?
それならばと、そっとローブの袖を捲って見せる。生憎逞しくはないけど細くもない、鳥肌ひとつない綺麗な腕だ。
「ほら、このくらいなら大丈夫。気にするほどの事ではないって」
「……嫌ではないんですか? 痛かったり、気分が悪かったりするなんて」
じっと腕に注いだ視線は、不意に俺の目を捉える。実際の所、これ以上続ければどうなるかは解らない……少なくとも、続けれる以上回復は望めない。
「多少の無茶はしてみないとね。それに……」
無茶のハードルが低いなと思いながら、ノワイエの視線から外れるように視界を上へと向ける。
――俺の気持ちは変わり始めている。
今は鳥肌程度に対して気にしなかったけど、昨日よりもずっと前向きになっている気がする。
何故だろうか。俺の知る青より透き通る青い空に向かって自問自答してみた。
何が変化をもたらしたのか。 帰る手段が確定したから?
いや、それを否定する気はない。近い将来に光明が差した事もあるだろう。
だが、それ以上に。
「それに……なんでしょう? なんだか京平さんってに一人で考え事してますよね? なにか不安な事があるなら言ってくださいね?」
「いや、今日の晩御飯は何かなってさ。ノワイエの御飯は美味しいからね、俺も頑張らないとなって」
今が楽しい。
不謹慎かも知れないけど、俺を心配してくれるノワイエという存在とこうして歩いて話しているのが楽しいような気がするのだ。
「あ、ありがとうございます……でも、晩御飯の前にお昼御飯です。時間も丁度良いですし一度、家に戻りますか?」
小首を傾げてみせる彼女は、仮面の奥でどんな顔をしているのだろうか。少し困ったような声に聞こえる。
まだ1日しか過ごしてないから当たってる自信はないけど。
「そうだな……ノワイエに任せるよ。というか、この世界でも一日三食が基本なのか?」
「まぁ、普通の生活をしているなら基本的には三食ですかね。あと京平さん?」
「な、なに?」
困ったと思えば、今度は不機嫌そうに俺の名前を呼ぶ声には少しだけ驚いた。いったい何事かと身構えてしまった。
ずいっと一歩詰め寄るノワイエに、一歩引く俺。一歩だけで満足したのか、そこでノワイエは指先を俺に向ける。
「任せるというが一番困るんですからね? まったく……」
「それは、悪かった。でも何がある、あれが食べたい、これが食べたいとかまだまだ解らないからさ」
「あ……それもそうでしたね。ごめんなさい」
一理あるであろう反論に、素直に謝るノワイエだけど。別に謝ってほしくて言ったわけじゃない。
「だからさ、ノワイエが食べたい物でいいよ。俺はそのおまけって事で」
「わたしの食べたい物……ですか」
再び悩み始めるノワイエに、俺は小さく笑っていた。




