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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『始まりを告げる非日常(トラブル デイズ)』
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あんな仕事こんな仕事

 


「お待たせ、なにか良さそうなのはあった?」


 平常心、平常心と心で呟きながら、ノワイエの元へと向かうと、彼女は彼女で俺を見ていた事を悟られないように急に辺りを見回す素振りを見せる。



「あっ、京平さん。お疲れ様でした」



 もしかして、バレていないとでも思ったのだろうか。まぁ、それはそれで構わないけど。



「ごめんね。意外と手続きに手間取っちゃってさ」


「いえ、わたしの方は色々なお仕事を見ていられましたので……」



 苦笑しながら、内心ではノワイエに謝る。正確にいえば、8割くらいの時間を受付のお姉さんからの話で持っていかれたわけで、でもノワイエも多分俺を見ていたと思う。自意識過剰じゃなければの話だが。



「それでお仕事の件ですが、色々探して見たんですけど……」



 しかし俺を見ていただけではなかったようで、仕事の内容が書かれている紙の場所へと案内される。いくら製紙技術が発達しているとはいえ、配布するだけの紙は確保出来ていないらしい。



「これは……」



 案内された先、そこに貼られた紙にはこう書いてあった。



『《急募》迷いクレイジーキャットの捜索


 南西ディスティーネ街19番地にて、迷いクレイジーキャットの雄、タイラント君が行方不明になっています。


 特徴は黄色のまだら模様、鋭い爪はカットされていますが、『砕く(クラッシュファング)』を使う為、住人に被害が出る前に捕獲してください』



「報酬……1ゴルド」


「あの、クレイジーキャットというのは、このくらいのモンスターで……そこまで危険があるモンスターではないんですが」



 そういって自らの手を膝下まで持って行くノワイエ。要は猫探しらしい。


 どうしようか。


 既に生活費の心配は要らないくらいの金額が手元にある現在、働く意味がなくなった訳ですが……



 チラリと隣に貼られた紙を見てみる。



『鉱夫募集


 初心者歓迎、必要な道具は支給されます。頼りになる筋肉を持つ先輩方と一緒にアナタも掘りに行きませんか?


 回復、または掘削に適した厨二術を使える方、若い男性大歓迎。


 募集理由:人員減少の為


 報酬:5シルバ/1日

    (厨二手当て3シルバ)』



 ……5シルバ、確か500円だよな。うーん。



「鉱夫はダメですよ。その、色々な噂があるんで……」



 俺の視線に気が付いたノワイエが慌てて止めようとする。


 でも、だ。俺の世界の金銭感覚で考えるから悪く見えるけど、1日300円で生活可能なら500円から800円ってのは悪くないと思うんだけど。



「ちなみにその噂って?」


「なんでも、その……そこで働くと、目覚めるらしいんで――」


「駄目だな。ないわ」



 恥ずかしながら答えてくれたノワイエに感謝。何に目覚めるのかは知らないし、尻たく、もとい知りたくもない。鉱夫怖い。


 ならばと他を見てみると――



『アポカリプスJr.討伐


 北インペリオ通りの森に出没したアポカリプスJr.を討伐してください。


 ※尚、戦闘系クラスのCランク冒険者5名以上での依頼受付となっております。


 当クエストでの死傷に対する一切の責任をギルドは負いません。


 報酬:50ゴルド』



「……あの、京平さん」


「ちなみにノワイエ。アポカリプスJr.とは……」


「邪竜の子孫と――」


「ないね」


「ないですよね」


 流石は異世界だ。志願性とはいえ、労働基準法なんてないんだな。5万円で死亡する可能性のある仕事をしたいと思うか、否ですよまったく。



「ちなみにアポカリプスを束ねる王は今もどこかにいるらしいです。ドラゴンやコキュートスなど、他の強大な力を持つモンスター達の王様を総称して……あっ」



 理解が早くて助かる。そういうのなら多分、悪寒や鳥肌くらいの症状で済みそうだけど。



「それにしても、ノワイエって物知りだよね」


「そんな事ないですよ。大体はお父さんやお母さんからの昔話で聞いた事ですから……」


「そっか……」



 仮面の奥から聞こえるのは、ほんの少しだけ寂寥感を思わせる声だった。地雷を踏んだみたいな気分になる、例えノワイエの自爆でも俺が悪い。そう、思う。



「それじゃ、これ。受けてみようかな」


「え……いいんですか?」



 話を切り替えるように、ノワイエから勧められた猫探しを指差す。鉱夫や死亡案件よか余程マシだ。そもそも死亡案件はクラスとやらの制限で受けられないが。



「その代わりと言ってはなんだけど、さ……俺、ここの地理に疎いからさ」


「はい。勿論わたしも手伝いますよ京平さんっ!!」



 えいやっ、と言わんばかりに両手を前に頑張ります的なポーズを決めるノワイエに、思わずして笑いそうになった。


 白い仮面の姿はやっぱりシュールで、表情が見えるわけないんだけど……うん、なんだか俺まで嬉しくなる。


 受付のお姉さんからのお金は、ギリギリまで取っておこう。いざという時には冒険者支度金制度とか、それらしい事を言えばいいだろうし。



「そうと決まれば受注ですよ」


「あぁ、行ってくる」



 初めてのお仕事、俺の初クエストだ。軽く鳥肌が立つけど。それくらい許容範囲だ。



「あ、京平さん。そっちは――」



 クエストの募集番号を受付に言えば受注手続きは完了との事なので、俺でも簡単に出来る。猫探し、危険無い、簡単。



「あら、京平君。忘れ物?」


「あ、いや……仕事を受けようかな、って……」



 直後、受付のお姉さんから酷く冷たい目で『京平君ってお金持ちなのに頑張り屋さんだね。じゃあついさっき、私が出したもう1つのクエストも簡単に出来ちゃうよね。なんなら前報酬とか要らないんじゃない?』と言われた挙げ句、クエスト受注用の窓口は別だと告げられた。



 まったく、これだからお役所仕事は困る。もっと柔軟にだな――



「これも効率良く人を流す為なんですよ。たらい回しにしてるみたいでごめんなさいね、お役所も大変なのよ?」



 俺の目って、そんなに分かり易いのか。



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