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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『始まりを告げる非日常(トラブル デイズ)』
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交易都市ディスティーネ

 

 ふむ、こんな所か。身体を襲っていた症状が凪いだところで俺は立ち上がる。


 それにしても、昨夜も感じたことだが……症状の治りが早い気がする。その倍くらい症状が起きやすいのも確かだが。



「もう大丈夫なんですか?」


「まぁね。ごめん、時間を取らせて」


「いえ、わたしの方こそ……」


「じゃあ、お相子って事で……早く行こう、ノワイエ」



 このままじゃ堂々巡りになりかねない、だからこそ俺は少しだけ急かすようにノワイエへと手を伸ばす。



「あ……」


「ん? あ、いや。これは別に手をつなぎたいとかそんなんじゃないから……」



 伸ばした手の先でノワイエはどこか呆然としているようだった。


 いかん。どうにも調子が狂う。俺はコミュ障じゃない筈だ。そう、俺は鈍感でも難聴でも、ましてや主人公キャラではない。……自分でいっといて、なんか悲しくなってきた。



「あの、それじゃ……」



 怖ず怖ずとローブの袖から伸びる真っ白な手……なんだと。それが意味する事を解っているのかノワイエ。



「ダメ、ですか?」


「いや、ノワイエがいいなら構わないけど」



 おかしい。上目遣いで甘える口調。典型的な仕草な筈なのに、表情が見えない仮面と怪しい黒のローブのせいで全く萌えない。逆に若干怖いくらいだ。



 繋いだ手はひんやりすべすべ柔らかい。まさにそこにあるのは女の子な手である。いかん、変に意識しては変態みたいになってくる。俺の手、汗ばんでないよな? 大丈夫? キモくない?



「ふふっ……」


「え? 何々?」



 突然、仮面の向こう側から聞こえる音に俺は戦々恐々としてしまう。なに? もしかして笑ってるの? だとしたらなんで?


「行こうと言っても京平さん、ギルドの場所分からないじゃないんですか?」


「あ、いや、そうだけど……」



 言われてみればなお言葉に、頬がカァッ、と熱くなる。ノワイエはそこがツボだったのか、クスクス笑いながら繋いだ手をにぎにぎと……くそっ、完全に遊ばれてるな。私はそれでも一向に構わない!! いや構えよ。



「そうですね。なんなら京平さんの思うまま、思うところに連れて行ってくれませんか?」


「でも、その、お金ないんだろ?」


「一応食料の備蓄を計算しても、恐らくまだ少しくらいなら大丈夫ですよ……多分」



 恐らくってなんだ、多分ってなんだ。



「ギルドの受付って昼過ぎになっても大丈夫なのか?」


「常時受付している物もありますから……そうなるとなんでわたし達も急いで来ようとしたんでしょうかね」



 上機嫌かつ脳天気とも呼べるノワイエの言葉に、俺は内心で深い溜め息を吐いた。


 確かに、せっかく初めての場所に来たんだ。色々見て回ってみたい気持ちもないわけじゃない。



「……ほんの少しだけだぞ?」


「それじゃ、よろしくお願いしますね?」


 自分を戒めつつ最終確認を取ると、明るい声が返ってきた。恐らく、仮面の下でも微笑んでいるような気がした。



 交易都市ディスティーネ。



 神王国デウスヘイナード、帝極国アルテインペリオ、二大国家の戦乱期において、帝極国へと各小国が物資を運搬していた際に生まれた都市。



 特徴として都市全体が東西にかけて長く広がっている。 これは誕生の起源となった二大国家の戦乱時に、商人達が帝極国へと向かう道で互いに商いを始めた為、この形になったとされる。



 街の中心を貫くよう伸びる道に建ち並ぶのは、ほぼ全てが何かしらの商店であり、宿屋や酒場といった建物は都市の決まりで通りから一通り以上外側に建てられているのも特徴の1つ。



 それは街に初めて来た者が宿屋、酒場の場所が解らずに建ち並ぶ店先に尋ねさせて、答えの代わりに商品を買わせる為なのではないかという噂があるが真相は不明。



 『買わずしてディスティーネは通れず』という名言があり、それ程に交易、商業の盛んな都市であるとされる。 『西から来た小人が東へ出る頃には巨人になる』という面白い話もある。都市面積こそは小さいが、活気はどの小国にも負けないらしい。



 以上、ノワイエ先生による学習講座『これでアナタもディスティネーター基本編』でした。


 ディスティネーターってなんだよ。


 よし、ツッコミはこれでいいか。



 そして、俺達は今――


「ディスティーネ名物ファイナリティクジェノサイダー炒めだよっ!! さぁさぁ買った買ったっ!!」

「馬鹿言っちゃいけねぇ!! ディスティーネの名物っちゃあグランバニッシュXだろうがっ!!」

「やんのかオラァ!!」

「ああん!?」

「現在ディスティーネ売れ筋一位のナイトメアドッグいかがすかー、今ならトライエンド――」



「うわぁ……」


 俺達は今、交易都市名物のロードオブロード、つまり交易道を遠くから眺めていた。ロードオブロードとかそういう意味じゃないと思うんだ。否定出来ない人口密度ではあるけど。



「大体、今の時間帯がピークですね。夜遅くまで、下手をすると朝になっても人の流れが途絶えない為、『不眠の(ノースリープ)――」



 おっと、ノワイエ先生ストップだ。


 そうだ。それ以上はいけない。お口にチャックだ。判るね? よぅし、良い子だ。


「……見る分にはまだ良いけど、あの中へ入るって考えるのはな」


「はい。なのでギルドも南北で2つあるのもこの都市ならではの特徴でもあります」


 へぇ……いかん。酔ってきた。人の多さでな。


 それにしても、まさに異世界という感じだ。いや、もうそう呼ぶしかない。


 通りの真ん中は馬車道なのか、頭一つ以上高く右へ左へと移動しているのは馬ばかりではない。恐竜っぽい生き物、歩く鳥、巨大な狼、果てはトラックまである……おい、なんだ今の異世界ぶち壊しなやつ。



「あのノワイエ? 今さ、通りに巨大な鉄の箱みたいなヤツが走ってなかった? 何も牽いてないのに走ってる――」


「えっと確か、ヴァンデリウム国が開発した厨二動機付き4輪駆動車、通称……なんでしたか……あぁ、そうです。トラックです」


「トラックかよ」



 俺の気遣い返せ。端っからトラックで通じたんじゃねぇか。いや、厨二動機とか……いや、言わずともロクな物じゃないのは判ってる。ヴァンデリウム国とかも、もしかしなくても来訪者(ヴァンデラー)が作ったっていう国なんだろ。



「ったく、なんであんなん作っちゃうかな」



 俺だからまだいいものの、ファンタジーに夢を持つ人達にとっては雰囲気ぶち壊しもいいところじゃないか。



「ヴァンデリウム国の製品は神極最終世界(ラグナレクエンド)でも技術力の違いを見せ付けてますからね。チートだと言って忌み嫌う国もあるくらいです」



 なる程ね。やはりこの世界の科学技術はそこまで発展していないようだ。便利な厨二術があるんだし、それも仕方ないか。



「それにヴァンデリウムが開発した技術により、ギルドに申請を出せば来訪者(ヴァンデラー)の帰界も昨今では可能になりましたし……」



 キカイ? あぁ、帰界か。



「そっ、か……」



 なる程、俺はそれで帰れるんだな。


 ……いや、帰りの手段が判明したのは嬉しいんだけどさ。いいんだけど、さ。



「次、行くか」


「……はい」



 逃げるように、喧騒から背を向けて歩き出す。ノワイエと手を繋いで。2人で、俺達は……



 


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