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俺はそれを認めない!!  作者: あげいんすと
『始まりを告げる非日常(トラブル デイズ)』
16/99

未知との遭遇

 

 視界が開かれる。


 目を細てしまう程に光輝く太陽と心地良く広がる青空の下、澄んだ空気に思わず深呼吸を一つ。


 勝手口の向こうには小さな庭があった。


 四方を壁で囲まれたそれは、ちょっとした広場と呼んでも語弊はないくらいのスペースはある。芝生のなかで、石畳の小道が続く先は丸く区切られていた。



「ようこそ、九流実家が三大境の一つ『忘却されし箱庭(ロストガーデン)』へ」


「っ……」



 キョロキョロと辺りを見回す俺の背後から、どこか満足げなノワイエの声が聞こえた。背筋にざわりと走る感触に水瓶を落としそうになったよ、まったく……そういうのは勘弁してほしい。


 物干し台の傍らに水瓶を置き、改めて辺りを見回してみる。


「わたしのお気に入りの場所のひとつです。ここは楽しかった思い出ばかりありますから……」



 洗濯籠を下ろし、四角く切り抜かれた青を見上げるノワイエの紡ぎきれない言葉に、俺がかけられる言葉はない。


 ただ、一言。たった一言。



「俺も良い場所だと思うよ」


「……はい」



 微かに迷い込んだ風に白髪とスカートの端をなびかせるノワイエは、まるで何かの絵のようで――



「……うん?」



 彼女の後ろに動く物体を見つけた。バスケットボールくらいのまん丸い何かが、ころころと芝生を転がっている。


 なにあれ。


 ゆっくりとした速度ながら前後左右、自由気ままに転がる毛玉。どうみても生き物には見えないのだが、明らかにその動きは生き物のような意志を感じられ……あ、跳ねた。



「……?」



 ノワイエも硬直している俺に異変を感じ取ったのか、振り返って動く毛玉を見た。


 しかし、俺とは違い。驚いた様子もなく毛玉へと歩み寄っていく、なんなのそれ。



「どこから入り込んだんですかね、まったく……」


「ウー……?」


「鳴いた……?」



 臆する事なく毛玉を両手で持ち上げると、そのままポイッと壁の向こうへと投げた……って投げた!?



「えっ、と……ノワイエ? なんなの、あれ」


「あれは、一応……モンスターです、かね?」


「あ、あぁ……モンスターね。モンスターかぁ……」



 そっか、モンスターがいるなんて流石異世界だな。カルチャーショックってヤツだね。色んな意味で。



「……マジで?」


「はい。人に直接危害を加えてくる事はありませんが、一応モンスターの部類に入るらしいです」


「ちなみにだけど、なんて名前の……」


「正式な名前は判りませんが、ユトリーっていってますね。いつからか人のいる場所に生息していて、食べ物の残りなんかを貰ったり、基本的に自分から狩りに行こうとしない種族だと云われています」


「ユトリーというか、ゆとりか」


「それが由来でもあるらしいですよ? 見た目を可愛らしくする事でおねだりを成功させやすくする為に、あのような体になったらしいですが……」

 


 なるほど、打算的な考えがあってあんなまん丸ボディなのか。ちょっと触ってみたかったかもな。


 そんな俺の願いを誰かが聞き入れてくれたのか。いつの間にか、俺の足元に毛玉が一つ転がってきていた。



「ウー?」


「…………」



 よくよく見ると小さな三角形をした耳をピコピコ動かしている。目は無いようだが、何となく俺を見上げているような気がしてくる。



 やだ、なにこの可愛い生き物。



「ね、ねぇノワイエ――」


「ダメです。ユトリーは一度餌を上げると味を占めて付きまとってくるんですから、それも他のユトリーを引き連れて」


「それはそれで、悪くないと思うんだが……」


「ウー……」



 だってモフモフしてるんだぜ? 超柔らかくて温かいんだぜ? ちゃんと面倒見るから少しだけなら――



「では、見ていてくださいね?」



 やれやれ、と溜め息を吐きながら。ノワイエは俺の足元にすり寄るユトリーの前にしゃがみ込む。



「ごめんなさい。あなたにあげられるのはパンの耳くらいしかないのだけど、それで良かったら――」



「……ぺッ」



 ……え?


 ユトリーはノワイエの言葉に……石畳の地面に唾を吐いて、コロコロと転がり、壁を跳び越えていった。



「……ご理解いただけたでしょうか」


「十二分に判ったし、掃除させて頂きます。本当に浅はかでした」



 多分、恐らく怒っているノワイエに、なんだか、非常に悪い事をした気持ちになった。俺も次からユトリーに遭遇したら放っておこう。

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