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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第一章 クラス代表決定戦
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ユニークスキル

「結局桜が全勝か」


 全ての組み合わせを終え、表示されたリザルト画面を確認して沙織が言った。

 私が全勝、成美が私に負けて一敗、沙織は私と成美に負けて二敗だった。

 それ以外の面々はお互いに勝ったり負けたり。


「天音すげえな。霧嶋にステルスされて勝っちまうなんて」

「俺なんてステルスされるまでもなく負けちまったぞ」

「あ、私はステルスされて負けたわ」


 聞こえる声は成美に勝った私が凄い、というようなニュアンスを含んでいた。

 あくまでも成美を基準にして、その成美に勝ったから凄い、というように。


 どうも成美は彼らにとって絶対強者的な位置づけのようだ。

 本人も剣士タイプに負けたのは初めてだと言っていたし。


「ショックだわー。桜が相手じゃ言い訳のしようもないしねー」

「言い訳? どういうこと?」


 私は成美の言葉に引っかかるものを感じた。

 まだ短い付き合いだが、私が知る限りの成美の性格であれば、負けて言い訳めいた事を言うとは思えない。勝敗は実力によるものと割り切って素直に受け入れそうなものだけど。


「負けた相手が魔術タイプだったら、言い訳も負け惜しみも盛大にしちゃうところよ」

「成美、それは……」


 CODでは魔術タイプが絶対有利とされている。

 ただそれを盾にして魔術タイプになら負けても仕方ないとか、負けた時に相手が魔術タイプだったからとか言うのは筋が違う。そんな事を言うなら自分も魔術タイプになれば良い。剣士タイプであり続けるなら、その不利を覆すくらいの気概でないと駄目だ。


 私のそんな思いを察したか、成美がぱたぱたと手を振った。


「いや、凄いわCOD。リアルすぎるわよ。桜が私をゴミムシを見るかのような目で見るのまで再現しちゃうんだから」

「え? ええっ!? 私、今そんな目してた?」

「うん。私ちょっとゾクゾクしちゃったわ」


 冗談なのか本気なのか区別がつかない。

 しかし内心の思いが表情などに反映されていたのだとしたら、成美の言うとおりCODは侮れない。


「あー、桜? 私たちだってそこのところは分かってるわよ? 魔術タイプに勝てないなら、それは自分達の力不足。有利不利は状況の一つであって、その状況の中で勝つための工夫をすべきだってね」


 微妙になりかけた雰囲気を和らげるように沙織が言った。

 他の面々も「そうだぞ」とか「そのとおりよ」と相槌を打ってくる。


「でもそれは自分の力を全て使えるなら、よ。成美の場合はいろいろあってスキルを一つ使えなくされてるのよ。そんなの有利とか不利とか以前の問題でしょ?」

「使えなくされるって、そんなことあるの?」

「先生達の会議で決まっちゃったのよー。強制じゃないけど自粛するようにお達しがあってさー」


 哀れを誘う(ような演技をしながら)成美はとことこと沙織に歩み寄る。


「沙織、ナイスフォロー。ありがとねー」


 背伸びをして沙織の頭を撫でようとするが届かない。結局沙織が少し前屈みになって撫でられていた。

 なぜか付き合いの良い沙織。

 くるっと、成美が私に振り向く。


「だからもうあんな目で私を見ないでー」

「あう」


 成美に見つめられて、変な呻き声を出してしまった。

 うるうると潤んでいて、まるで飼い主に捨てられそうになった子犬のような目をしている。

 COD凄い。

 単にリアルなのではなく漫画的というかアニメ的というか、そういう効果が入ってないだろうか。


 とは言え成美にあんな目で見つめられたら、私にはもうどうしようもない。


「もう大丈夫よ。事情も知らずにごめんね」

「本当に?」


 私を見つめたまま首を傾げる成美。

 うわ、可愛い。

 私は成美を安心させるために「本当、本当」と繰り返した。

 ぱあっと成美が笑顔になって、私に向けて走って来た。


「桜ー!」

「成美!」


 私も「さあ私の胸に飛び込んでおいで!」のポーズで待ち受ける。

 そして私達は友情を確かめ合う固い抱擁を交わした。


「なんだこの寸劇?」

「仕込んでたのか、これ?」


 そんな声が聞こえて、私は我に返った。

 未だに抱き付いている成美を引き剥がしてみると、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべている。


「いやー、桜はノリがいいねー。まさかここまでやってくれるとは思わなかったよー」

「え? ああ!」


 どうやらすっかり成美に乗せられてしまったようだ。

 溜め息を吐きたい気分だが、怒る気にはならなかった。

 何というか、小柄な成美の体は私の腕の中にすっぽりと収まるような感じで、良い抱き心地だったので、乗せられたにせよまあいいかと思えた。


「あんたたち……」


 そんな私たちに沙織が若干引き気味になっていた。



 先にログアウトしていく沙織達を見送って、私と成美はホールのテーブルに向かい合って座った。

 きちんと確かめておかないと気になる事がある。


「するとさっきの成美は万全の状態じゃなかったって事なの?」


 これは確認しておきたかった。

 完全に姿を消すスキルと変則な動きをする鞭。剣術専門の私から見ても刀の扱いは堂に入っていた。私が勝てたのも先読みのできる止水があったからこそだし、それすらも紙一重の差の辛勝だ。

 そこに本来あり得ない自粛要請で封じているスキルが加わったらどうなってしまうのか。


「さっきは私の言い方も悪かったかなー。大丈夫、あれが私の全力だよ。もしもそのスキルが使えたとしても、桜には全然効かないもの」

「効かない? ってどうしてわかるのよ」

「だって私のスキルは『魔術に代表される非物理攻撃を無効化するスキル』なんだもの。純粋な剣士タイプには関係ないでしょ」


 成美は空中に開いたステータスウィンドウを他者にも見えるように設定してから私に向けた。


「見ちゃっていいの?」

「いいよー。見られてどうなるものでもないし」


 登録してある技とかは別画面だから見えないけれど、スキル構成をこうも簡単に晒してくるとは。

 これはどう解釈するべきだろう。信頼されている?

 思い切って私もステータスウィンドウ開いてを成美に向けた。


「へ? 別に見せてくれなくても」

「いいのよ。これでお互い様。私だって見られてどうなるものじゃないから」

「へえ」


 なぜか神妙な顔になっている成美が気になるが、これで気兼ねなく彼女のスキル構成を見られる。


 忍術Lv6 剣術Lv6 特殊武器Lv5 破神


 忍術、剣術はまあ予想通り。特殊武器は鞭に関するスキルだろう。

 そして最後の見たことも聞いたこともないスキル名。

 しかもスキル名の後ろにレベル表記が無い。成長するタイプのスキルではなく、持っている時点で完成しているスキルということだ。

 設定がオフになっている証として灰色に反転している「破神」というスキルにカーソルを合わせると「非物理系スキル完全無効化」の説明とともにuniqueのアイコンがある。


「ユニークスキル……」


 ユニークスキルは得ようとして得られるものではない。

 現実で言えば生まれつきの特異体質とかそれに類するものなのだ。


 それにしても非物理スキル完全無効化とは、いくらユニークスキルでも破格すぎる性能だ。

 魔術タイプ有利のCODにあって、このスキルがあれば魔術タイプに対して無敵になれる。

 これは確かにゲームバランスを崩しかねない。


「ユニークスキルの有無なんてほとんど運だからねー。それで無敵プレイしてると思われるのも癪だからさ、自粛要請をのんだわけだけど。やっぱり面白くはなくて」


 なるほど、そこで破廉恥着衣データの作成につながるのか。


「それでも忍術スキルで憶えた隠形おんぎょうがあれば大抵の魔術タイプは問題ないんだけど……」


 そう言えば「剣士タイプに負けたのは初めて」と言っていた。破神封印後に魔術タイプに負けたことになる。


「本来無効にできる攻撃で負けるわけだからさ、愚痴の一つも言いたくなるわけよ」

「そうだったの……でもその隠形? 私が言うと嫌味に聞こえるかもだけど、破るのは簡単じゃないはずよ? 魔術タイプだって見えない相手に攻撃はできないでしょう?」

「いそうな場所に当たるまで攻撃魔術をばら撒くってやり方。単純だけど効果的だわ」


 見えなくなるだけで、いなくなるわけではない。

 どこかには必ずいるのだから、そういう方法もあるだろうけれど。

 成美が相手に見えない状態で全力で動いたとしたら、それを偶然捉えるまで撃ち続ける速射能力と、それを支える魔力量は大変なものになるはずだ。


「それって、いったい誰?」

「我らがクラスの委員長、三条珠希その人よ」

「え? あの人? そうは見えないけど」


 委員長の三条珠希については「物静かな普通の人」という印象しかない。

 転入初日に紹介された時も成美の強烈なキャラの方が強く印象に残ってしまっている。


 話し込んでいるうちに大分時間が過ぎてしまった。

 システムウィンドウを開いて時刻を確認すると、完全下校時間まであまり余裕が無い。

 そろそろ帰ろうかと、二人でログアウト用の扉に向かったが。


「この時間からログインしてくる人なんていないよねー」


 と言って立ち止った成美が、またウィンドウを開いてなにやら操作を始める。


「私の自信作、せっかくだから桜にも見せてあげる」


 成美の忍者装束が消えた。

 着衣データの換装操作だったはずなのに。


 私は見た。

 後城をして「すごい」と言いそうにさせ、男子クラスメートの歩行を困難にさせた成美渾身のぎりぎり着衣データ。

 いや、いっそ脱衣データと呼ぶべきだろうか。


 換装操作のはずが忍者装束が消えただけのように見えたのも当然だ。

 代わりに現れたのが胸の頂と下半身の一部を隠すだけの極小のパーツ、しかもご丁寧に成美の肌の色に合わせてあるのだ。


「は、破廉恥だー!」


 私は叫んでいた。

 男子には刺激が強すぎる?

 いやいや、私にとっても強すぎる刺激だった。

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