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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第一章 クラス代表決定戦
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vs 成美

 開始線の一歩手前に立って、成美と対峙する。


 成美のアバターは忍者装束と背中に背負った短めの刀、両の腰に鞭を装備している。

 そして対戦表で表示されていた先頭登録のスキルは「忍術Lv6」だった。

 見た目通りスキルも忍者タイプを持っているけれど、油断はできない。

 総合レベルでは私と同じ8だったからだ。


 私の場合は剣術レベル9と気功レベル9があっての総合レベル8だ。

 忍術のレベルが6として、それ以外の何らかのスキルがあっての総合レベル8なのだから、見えない部分に登録されているスキル次第で何が出てくるか分かったものではない。


 私がそうやって成美の値踏みをしているのと同じように、彼女もまた普段の様子からうって変って、真剣な眼差しで私を見つめている。試合開始前の短い時間で、できる限り相手の情報を得ようとしている目だ。


 開始線の上に踏み出したのは、期せずしてほとんど同時だった。

 これによって準備完了と判断したシステムが試合開始を宣言する。


 シグナルの点灯と《fight!》の表示。

 同時に私は後方に跳躍しながら、呼吸のリズムを変えて気功スキルを発動させる。


《気功スキル発動》


 システムメッセージとステータスアップ情報を無視して、気功スキルの技の一つ『止水』を発動。


《止水発動:攻撃予測開始》


 気功スキルの技『止水』は、良く言われる「殺気を感じる」というのをCOD上で再現した技だ。

 止水という言葉そのものは「静かにたたえられた澄んだ水」というような意味だ。さざ波一つない水面は、だからこそどんな微かな風にも波を生む。これを転じて相手の殺気を鋭敏に察知して攻撃を先読みする技の名となった。

 ゲーム上の表現としては予測線という目に見える形で相手の攻撃を先読みすることになる。この予測線は触れると冷たい。背後など視界外からの殺気を感じる場合を再現するためだ。


 私が止水発動までを終えた時点で、成美は開始線間の距離を半分ほど走破していた。

 右手は背中に負った刀の柄に、左手は腰の鞭に伸びている。


 鞭から赤い予測線が伸びてきた。

 弧を描いて伸びてくる予測線は私に直撃するコースではなく背後に抜ける軌跡だ。

 鞭という武器の特性を考えれば、打ち据えるのではなく巻き付かせようとする意図が読める。


 成美の左手が閃き、予測線に沿って鞭が飛んでくる。

 私は抜刀からの一挙動で鞭を斬り払おうとした。

 成美が左の手首をこねるように動かした。

 同時に予測線が私の刀の軌道を避けるように書き換えられ、鞭も奇妙な動きで向きを変える。


 普通の鞭ならあり得ない動きだったけれど、止水なら一瞬早く読める。私も斬撃の軌道を変化させて、今度こそ鞭の先端部を斬り落としていた。


「え……?」


 そこで私は硬直してしまった。

 次の攻防の為に視線を成美に飛ばそうとして、そこに成美がいないことに気付いたのだ。

 地面には鞭が落ちている。

 素早く周囲に視線を巡らせるが、何処にもいない。


「ハイディング!?」


 思い浮かんだのは姿や気配を隠すスキルだったけれど、それはこんな遮蔽物の無い闘技場などで使えるものではないはずだ。

 鞭を斬るために私の視線と意識がそちらに集中した一瞬で、何らかのスキルを発動させたらしい。


 ここまで完璧に姿を消せるスキルって……。


 忍術スキル由来の技なのか、それとも二番目以降に登録されているスキルによるものなのか。

 考えても分かるはずのない疑問はとりあえず置いておくが吉だ。


 いきなりだった。

 私の首を薙ぐように赤い予測線が出現する。

 予測線に触れている首に冷気を感じる。


「くうっ!」


 とっさに身を仰け反らせて予測線から逃れる。

 直後、予測線上を成美の刀が通り過ぎた。ぼんやりとした像で刀を振り切った成美の姿も見える。


 私も驚いたが、避けられた成美も驚いたらしい。

 慌てた様子で飛び退いて距離を取ろうとする。


 ここで逃がすと厄介だ。

 仰け反っていた体を強引に戻し、気功スキルでアップしたステータス頼みに前方にダッシュをかける。再び消えようとする成美に斬撃を送る。

 ヒットエフェクトが出たが、小さなものだった。

 ちょっとかすった程度、だったのだろう。


 私は刀を鞘に納め、居合の構えをとった。


 成美は姿を完全に消していて、攻撃直前に出る予測線に対応して動くしかない。

 これまで以上のスピードが必要だ。


《気功スキル・モード変更・風:敏捷力上昇》


 気功スキル発動時には全てのステータスが微上昇していた。

 モード変更と同時に、全ステータス微上昇から、敏捷力のみの中上昇に切り替わる。


 背中に冷気を感じた。

 私は前に一歩を踏み出して予測線から外れつつ、右回りに身を回した。

 そして回転の動きに乗せるように刀を抜き放つ。


 三本の斬線が走った。

 居合の一撃目、刀を返しての二撃目、さらに刀を返して三撃目。

 上昇した敏捷力をフルに使った三連続斬撃技『疾風』だ。


 なにも無いように見える空中に斬撃のヒットエフェクトが発生し、遅れて成美の姿が浮かび上がって来た。


「嘘でしょー!」


 いつもの調子で言いながら、成美のアバターは再び消えていく。

 今度は致命ダメージを受けての消滅だった。


《sakura WIN!》


 空中に表示された勝利メッセージを見ながら、私は安堵の息を吐いた。


   ・

   ・

   ・


 ホールに戻った途端、目の前が黒かった。

 暗かったのではなく、黒かったのだ。


 黒く塞がれた視界。顔には布の感触。しかしなにやら絶妙に柔らかい。


「桜ー! なんであれが避けられるのよー!」


 頭の上、すごく近いところから成美の声が聞こえる。

 状況が理解できた。

 フィールドからホールに戻る時、アバターが出現する座標は決まっている。

 私の出現と同時に、待ち構えていた成美が飛びついて来たのだ。


 視界を塞ぐ黒は成美の忍者装束、顔にあたる柔らかいのは成美の胸か。

 成美は私の胴に足を巻き付け、両手を私の後頭部に回してがっちりと抱き付いている。


「剣士タイプに負けたの初めてだよー! 悔しいー!」 


 なるほど、あの姿を消すスキルがあればそう簡単には負けないだろう。

 私は成美に勝った初めての剣士タイプらしい。


 成美はその悔しさで奇行に走っているらしいが、なぜ胸を押しつけてくるのか。

 これが現実だったら悔しさのあまり私を窒息死させようとしてるのかと思うところだが、本来呼吸を必要としない仮想世界ではその心配はない。

 それどころか顔に押し付けられる柔らかさはちょっと気持ち良かった。


 しかしいつまでもこうしてはいられない。


「ちょっと、誰か助けて」


 私のヘルプ要請に応えて成美を引き剥がしてくれたのは沙織だった。

 成美の両脇に手を差し入れて持ち上げている。

 持ち上げられたままじたばたしている成美がなんだか可愛かった。

真面目なバトルの回にするはずが、また胸ネタを入れてしまいました……

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