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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第三章 学園祭~クラス対抗戦~
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九十度回転したら正反対

 黒間先輩が呪文詠唱を始めた途端、言い様の無い悪寒が背筋を走り抜けた。


 先輩の言った『防御魔術の攻撃的使用方法』が何なのか、それを推測するだけの知識が私には無い。これから何が起こるのか、先輩がどんなことをするのか、その一切が想像もできない中で私が感じた悪寒。

 データで構成された仮想世界の中なのだから「そんな事はあり得ない」という人もいるだろうけど、この時私は黒間先輩の気配がはっきりと別物に変わるのを感じていた。防御専門という、厄介ではあってもある意味無害な存在から、危険極まりない何かへ変わったのだと。


――あの呪文を完成させてはいけない!


 半ば恐怖に駆られるようにして駆けた。風モード+加速+神脚。今の私に可能な最高速度で駆け、でも届かなかった。

 先輩の詠唱は「強力な術ほど呪文詠唱は長くなる」という常識に照らせば、驚くほど短時間で終わっていた。


 呪文が短かったのなら、これはそれほど危険な術ではないのか?


 そんな考えがちらりと頭の片隅を過ぎった時、黒間先輩が私に向けて軽く手を振った。さっきまで障壁の術を使っていたのと同じ動きだった。

 同時、右足に被ダメージを知らせる衝撃を受けて転倒していた。


「なんで!?」


 地面に体を撃ちつけた衝撃よりも、止水を発動していながら予測線が表示されなかった事に対する精神的な衝撃の方が大きかった。

 咄嗟に足の状態を確認しようとして、委員長の声で止められた。


「桜っ! 動くなっ!」


 名前呼び捨て、命令口調。どちらも普段の委員長からは考えらえれない乱暴な言い方だったけど、それ以上に声に含まれた切迫感が私の動きを止めていた。体を起こしかけた中途半端な体勢のまま、視線だけを動かして委員長を見る。


「委員長……腕が!」


 委員長もまた咄嗟に先輩を攻撃しようとしたのだろう。先輩に向けて右手を向けていたけど、その右手は肘から先が無く、激しい出血エフェクトに覆われている。

 切断による部位欠損ダメージだ。


 そして私の右足は太腿のあたりをかなり深く裂かれていた。部位欠損には至っていないけど、右足が動かない。多分骨まで達するような切創で、委員長と同様に出血エフェクトが酷い。


「乱暴な言い方してごめんなさい。でも動かないでね。動かなければこれ以上の攻撃は受けないと思うから」


 そう言う委員長も不自然な姿勢のまま無理に動きを止めている。

『だるまさんがころんだ』をやってるみたいだ。などと連想してしまう。


「……もしかしてもう私が何をしてるか判っちゃったの?」

「大体のところは判ったつもりです」

「うん、確かに動かなければ私も攻撃できないけど、このままじゃすぐに失血死判定が出るんじゃない?」

「そう簡単にはいきませんよ……」


 委員長は自身の腕の切断面に合わせて障壁を張り、傷口をぎゅっと押し付けた。単純な圧迫止血だけど目に見えて出血エフェクトは小さくなった。


 私も足の傷を塞ぎにかかる。気の刃3の応用『身体操術』。

 切創の周囲に気を集中して半ば実体化させ、その気を操作して傷口を閉じ、血管同士をつなぎ合わせるイメージ。肉体そのものではなく、肉体に行き渡らせた気を操る事で間接的に肉体を操作するのが『身体操術』だ。まだ覚えたての技術だから完全に塞ぐには至らない。それでも軽い切り傷程度の出血には抑えられた。

 委員長ともども失血死判定までの時間は大分稼げたことになる。


 そうして余裕が生まれれば、少しばかり気になることもある。

 それは今の自分の状況について。


 疾走中に転倒し、足の状況を確かめようと中途半端に上体を持ち上げた姿勢。

 多少違うところもあるけど、成人男性向けのエロい写真集とかで半裸の女性が取るようなポーズに酷似している。しかも転んだ拍子にただでさえ短いスカートがめくれてエライ事になっていた。


 せめてスカートだけでも直せないかと腰をもぞもぞ動かしたら、ウエストの辺りで小さな斬撃エフェクトが出てしまった。


「だから動いちゃ駄目だってば!」

「いや、でも、これまずいって! だってぱんつ黒いんだよ!」

「かなりエロいのは認める。でも倫理コード違反の警告も出てないんだし大丈夫!」

「システム的にOKでも私の羞恥心が……」

「同情はするけど本気で動かないで。もう判ってると思うけどあなたも私も囲まれてる。動いたら死ぬわよ」


 実際さっき少し身動きしただけで小さな傷を負っている。その部分に何かしらの攻撃判定があるのは確かなのに、事ここに至っても未だに止水は予測線を発生させていない。


「さすがは三条さん。いきなりこれを見て、もう理解してるなんて。もしかして知ってた?」

「何の事を言っているのか判りませんが……障壁の上に立ってるのを見た時から、もしかしてこういうこともできるんじゃないかとは思っていました」


 そう言えば先輩の空中浮遊を障壁の上に立っていると看破した時、委員長はそれを指して「非常識な術」と評していた。先輩自身これを「防御魔術の攻撃的使用」と言っているし、私たちを囲んでいる斬属性の攻撃判定は障壁の術なのだろうけど、どうやったら障壁の術で斬れるのかが判らない。しかもどんな名刀にも劣らない凄まじいばかりの切れ味だ。


「せっかくだし、ちょっと解説して上げましょうか?」


 黒間先輩がそう言い出したのは、私たちが早々に動きを止めてしまったからだろうか。私も委員長もかなり軽微になっているとはいえ出血は続いているから、時間を費やせばそれだけ失血死判定が近付いてくる。

 時間の経過は私たちには不利だけど、現状どうにもしようが無いのは確かだ。せめて何がどうなっているのか理解するくらいの時間は割いても良いだろう。


「三条さんはもう判っているみたいだから天音さん、障壁の術って物理攻撃や魔術攻撃を防ぐわよね。例えば私はさっきまであなたの斬撃を防いでいたけど、これって少なくとも障壁があなたの刀と同等の強度を持っていると言えるわよね?」


 黒間先輩は主に私に向かって話し始めた。


「それでそんな障壁だけど、どれくらいの厚みがあるかって考えた事ある?」

「障壁の厚み、ですか?」


 考えたことがあるかと問われれば、考えたことなど無いと答えよう。実際のところ障壁を張られた時問題になるのは、厚みじゃなくて強度だ。


 さて、ならばと思って改めて振り返ってみると……


「厚みって……そもそもあるんですか?」


 例えば斬撃を受け止められた時とかに見える障壁には厚みという概念は感じられなかった。刀を止めるという物理的な効果を持つ以上は、間違いなく実体があるだろうし、実体があるのなら厚みもあるだろう。でもそれは厚みとして認識できるほどの厚みでは無いことになる。


 私の答というか問い返しに、黒間先輩は満足げに頷いた。


「それくらいに薄いってこと。で、ここ重要。結構な強度があって、しかも物凄く薄い物体があったら、その縁の部分って剃刀なんか目じゃないくらいに良く斬れると思わない?」

「……なるほど、それがこの攻撃の正体でしたか」


 先輩の説明は判り易かった。刀でも刃が薄ければ薄いほど切れ味は高くなる。もちろん薄くすれば折れやすくなる道理で、普通に作るなら限界がある。でも障壁の術はそもそも敵の攻撃を受け止めるための物だから強度は十分だ。刃物として使うならこれ以上も無いくらいに適している。

 納得して思わず頷きそうになったら、首筋にちりっとエフェクトが発生。危ない。こんな所にも攻撃判定があったか。

 そんな私に委員長が溜め息を吐いていた。


「天音さん、やっぱりこれがどれくらい非常識か判って無いでしょ? っていうかそもそも防御魔術がどういう術かって理解してる?」

「馬鹿にしないでよ。防御魔術って言ったら、そりゃ防御するための魔術でしょうに」

「そうよ。一番単純な概念は『AからBを守るために両者の間に壁を作る』って感じね。いい? あくまでも防御魔術は対象を守るための壁を生み出すのが大前提になっているの。オリジナル呪文を組もうとしても、防御魔術が防御魔術であるために必要な核になる部分は変えられない」

「ああ、そういうことね……」


 委員長は魔術レベル1の私にも判りやすいように大分噛み砕いて話してくれていた。お陰で私にも委員長の言いたいことは判った。


「つまり私たちを囲んでいるこれは、何から何を守っているのかと、そう言うことね」

「ええ。私たちの周囲に障壁を配置するだけなら『私たちを守る』設定で術を発動すれば可能だけど、その場合はこんな風に私たちにエッジが向くことは無い。障壁の角度が九十度変わっちゃってるの」


「あ、その言い方良いかも。うん、防御魔術を九十度回転させると正反対の攻撃魔術になるってところかな」


 うんうんと頷く黒間先輩。

 私ももう一つ納得したことがあったけど、頷かないでおく。結果はどうあれ黒間先輩は『守る』術を使っている。だから攻撃を察知する止水は予測線を発生させなかった。


「どこをどういじればこんな使い方ができるのか想像もできないけど、種別としては座標指定の設置型。こっちの動きを先読みして動線上に配置してるのね」


 時田先輩が健在だった時、黒間先輩は私の刀にも委員長の魔術にも全て正確に対応して複数の障壁を操っていた。こちらの動きを予測して障壁を出すくらいは簡単にやってのけるだろう。

 つまり、刀の届く間合いまで近付く、つまり移動しなければならない私にとっては相性最悪。


「……委員長、これって詰んでない?」

「天音さんは間違いなく詰んでるわね。でも私はまだ行けるわよ」


 委員長が不敵っぽい笑みを浮かべた。凄く頼もしく見える。


「なら委員長に任せるわ。お願いね」

「そのポーズでお願いとか言われるとくらっと来ちゃうわね」


「それ、そろそろ出血量がやばいからじゃないの?」


 黒間先輩の冷静な突っ込み。

 委員長は右腕の切断面を障壁に押し付けて圧迫止血をしている。出血量は大分抑えられているけど、かなりの量の血を失った(判定を受けている)はずだ。

 ちょっと話が長くなり過ぎただろうか。


「血は失いましたけど、お陰で魔力は回復してます。時間を稼いでいたのは先輩だけじゃありませんよ」


 委員長は呪文を唱える。見た感じの印象では普段よりも注意深くゆっくりとした詠唱で、まだ使いなれていないようだった。詠唱が終了すると同時に、委員長の左右と頭上一メートルくらいの位置に青白い球体が出現した。

 三つの球体はふわふわとした動きで黒間先輩の方に漂っていく。

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