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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
第十二章 終戦と新しいスタート
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再会

 成美は良く食べる。

 運動量の多かった総力戦中は「お腹が空いてなくても前倒しで食べる」という具合に休憩毎に炊き出しのお世話になり、更にはポーチがパンパンになるまでブロック食品などを持ち込んで戦闘域でも食べていた。平常の勤務ではそこまでではないものの、午前と午後に“おやつ”と称するには少々多過ぎるんじゃないかと思えるくらいの量を平らげる。もちろん三食とは別枠で、だ。そんなわけで出勤途中にコンビニによって色々買い込むのが常なのだが、あいにくと今日は休業だった。

 このコンビニのお兄さんとは戦闘域で何度か顔を合わせている。

 生活課主導のボランティアとして魔物の死体回収に参加していた。

 戦闘域にはまだまだ魔物の死体が多く散乱していて回収がなかなか終わらない。店員総出でボランティアを継続中なのだとしたら全く頭の下がる思いである。


「あー、炊き出しももう終わっちゃってるのかー」


 隊舎前の広場には畳まれたテントや簡易テーブルが一カ所に纏めて置いてあった。炊き出しテント村の撤収はほぼ完了していて、縁日の終わった後のような雰囲気が漂っている。人一倍炊き出しのお世話になっていた成美はそんな風景を寂しそうに見ていた。


「しょうがない。今日はこっちで済まそっと」


 隊舎入口の軽食自販機へと小走りに向かう成美。

 その後に灯とBチーム後衛の三年女子が続く。成美程ではないものの私達も普通におやつと呼べるくらいの間食はする。それらを灯達が纏めて買ってきてくれるのがいつものパターンだった。これは待機室で着替える際に女子は衝立を順番に使うのでいっぺんに行っても意味が無いのと、着替えた後で防具を装着する時間を要する私と舞弥さんを優先してくれているからだ。

 既に制服姿で着替えをしない黒間先輩が先行組なのは「先輩に雑用をやらせるなんてとんでもない」と灯達が固辞したからで、逆に着替えと装備で手間の多い成美が買い物組なのは彼女の特技の一つに早着替えがあるからだ。


「今日は時間が取れたら待機室の掃除をしたいですわね」

「そう言えば結構荒れてるものね」


 総力戦中はほとんどが戦闘域に出ずっぱりで、待機室を使うのは短時間の休息のみ。その殆どを仮眠に費やしていたせいで片付けや掃除が疎かになっていた。なるべく室内に持ち込まないようにしていたけれど、床は乾いた血や泥で汚れているし、食べ物飲み物のゴミも溜まっている。特に男子が使っている室内左側が酷い有様で、仮眠に使った毛布がくしゃくしゃのまま放置されていたりもする。その点を指摘すると「面目ないっす」と恐縮する森上君達。まあ、体力的にも精神的にもハードな状況だったのは確かだから責めるつもりは無い。


 そんな話をしながら流れのまま待機室へと入り、そこで私は驚きに立ち竦む事になった。

 ただしそれは嬉しい驚きの故に。


 沙織がいた。


 *********************************


 公休日などを利用して仮想世界で会ったりはしていたが、直接顔を見るのは一カ月以上間が空いている。ぶわっと言い表しがたい感情が噴き出してきて、思わず駆け寄ろうとした矢先、


「うわ、なにその頭!」


 開口一番これである。

 噴き出しかけた感情が一気に萎んだ。


「……ちょっと色々あって切ったのよ。ていうか、久し振りに会った友達への第一声がそれってどうなの?」

「ごめんごめん。私ももうちょっと感動的な再会になるかと思ってたんだけどインパクトが強過ぎて」

「似合わない?」

「似合いすぎててヤバいわ……こうしてみると桜の女らしい部分って髪型が大半を占めてたみたい。それだとどこに出しても恥ずかしくないイケメンっぷりだわ」

「イケメンて……酷い……」


 酷いけれど、こうした遣り取りもまた懐かしい。ズバズバ切り込んで来るのが沙織の持ち味だ。


「っす! 姫木先輩、っす!」

「森上君達もお久しぶり。黒間先輩は初めましてです。よろしくお願いします」

「改まって挨拶されると照れるわね……でも、まあよろしく」


 宇美月学園メンバーで挨拶の応酬が行われる中、「あの、こちらの方は? よろしければ紹介していただけません?」と舞弥さん。沙織もちらちらと舞弥さんを見ている。


「あ、済みません。ええと、この子は私達の同級生の姫木沙織です。で、沙織、この人は私達のパーティーに助っ人で入ってくれてる若林舞弥さん。上級専門校生よ」


 簡単な紹介に続いて沙織と舞弥さんがお互いに挨拶。舞弥さんの柔らかい雰囲気に沙織もほっとした様な感じ。舞弥さんのほうは「あなたがあの沙織さんでしたか……」と感慨深げにしている。これに沙織が反応した。


あの(・ ・)ってどういう事なんですか?」

「沙織さんの名前は良く耳にしていたのですわ。桜さん達がしきりに残念がっていましたわね」

「残念がって……!? おい、そこの天音桜」

「違っ! 舞弥さん、その言い方誤解されます!」

「あらあら、そうですわね。沙織さん、桜さん達はあなたがここに来れないのが残念だと、そう言っていたのですわ。変な意味に聞こえてしまったのなら私の不手際。桜さんを責めないで下さいな」

「あ、そう言う事ですか……」


 すぐに収まったものの、一瞬物凄い鬼気を沙織から感じた。「残念胸とか陰口叩いてたんだとしたらもいでやろうかと」なんて怖い事まで言っているし。

 ……うん、まあこれも含めて沙織の持ち味か。


「それにしても、ここにいるって事は……」

「お待たせー」


 私の言葉を、成美の声が遮った。

 開け放たれたドアの向こう、両手一杯に買い物の成果を抱えた成美達がいる。丁度合流したのか後城先生と村上先生も一緒だ。


「あ? れ?」


 成美が目を真ん円に見開き、灯達も驚きを露わにしていた。


「おう、姫木か。早かったな」


 そう言う後城先生も村上先生も驚いた様子は無く、どうやら予め沙織の事を知っていたらしい。


「着任式は終わ……」

「沙織だー!」


 成美の声は、今度は後城先生の言葉を遮った。しかも余程嬉しいのかキーンと響く甲高い声になっている。そして抱えていた食べ物を凄い早業で後城先生に押し付けて沙織に向かってショートダッシュ。短い助走から「ぴょーん」という擬音が似合いそうな跳躍に繋げて、沙織の顔面を胸に抱え込むようにしてしがみついた。


「沙織だー! 沙織だー!」

「むがっ! 苦しっ……!」


 存在を確かめるかのようにぎゅうぎゅうと力を込める成美。

 あの体勢、成美の胸が丁度顔に当たるのでかなり良い具合になる筈なのに、沙織はもがき、すぐに成美を引き剥がしてしまった。もったいない限りである。


「ったく、つくづく感動的な再会に縁が無いわね……」


 脇に差し入れた手で成美を持ち上げたまま、盛大にやれやれ風味な溜め息を吐く沙織。でも、その顔にはすぐにとても優しい表情を浮かべた。


「……でも、まあいいや。成美が無事で本当に良かった」


 沙織はぎゅっと成美を抱き締めた。


「心配してくれてたの? ありがとー」


 成美も嬉しそうに頬擦りなんかしている。普段の沙織はなにやら拘りがあるらしく、ここまでのスキンシップはしない。壮行会のあたりでは精神的に不安定になっていて沙織らしからぬ言動も目立っていたが、そうすると今もまた似たような状態にいるらしい。

 沙織の言葉とは裏腹に、ちょっと感動的な再会シーンだった。「美しい友情ですわ」と舞弥さんも微笑んでいる。居心地が悪そうにしている黒間先輩はこういうのが苦手なんだろうか。


「水を差して悪いんだが時間が押してる。取り敢えず準備にかかってくれ」

「そうですわね。では桜さん、私達から」

「あ、はい」


 パンパンと手を打って後城先生が場の雰囲気にリセットをかけた。

 確かに本来なら朝の忙しない時間帯だ。

 いつもの順番通り、私と舞弥さんが着替えを持って衝立の蔭に入った。

 衝立の向こうから「え? あなた達、ここで着替えるの?」「そうっすよ。そんなにまじまじと見られると恥ずかしいっす」「森上、気持ち悪いからシナを作るな。ああ、姫木、居心地は悪いだろうがいつもの事だ。退室はしなくて良い。見るに堪えんなら暫く壁の方を向いていてくれ」「……そうします」と、そんなやりとりが聞こえてくる。


「桜さん、沙織さんは重戦士ですの?」


 衝立のこちら側では囁き声で舞弥さんが訊ねてきた。

 沙織は既に装備を整えていて、学園でも見慣れた改造ライダースーツ姿だった。以前よりも補強の金属パーツが厚みを増していたり新規に増設されていたりがあるものの、それだけを見たなら軽戦士と判断するのが普通だ。そこを重戦士と言ってきたのは、昨日までは空きスペースだったロッカーに収められた沙織の盾と大剣に気付いたのだろう。

 沙織の身長でも少し屈めば全身を隠せるくらいの大盾なので、収めると言っても立て掛けてあるだけ。これでもかとばかりに存在を主張しているから気付かずに済ます方が難しいか。


「足止めて盾使ってって意味なら重戦士です。でも『重量操作ウェイトコントロール』で装備の重さ消してますから動き自体は軽戦士並ですよ」

「……それ、私を牽制してます?」

「そういう側面が無いでもないですが」


 舞弥さんは突撃型であり、パーティーメンバーにはスピードを求めている。沙織は重戦士としては速い方だけれど、舞弥さんの求めるレベルかと問われれば答えは否だ。


「大丈夫ですわ。迎撃メインの戦場では『突撃チャージ』を使う機会は少ないですし、桜さんと後城先生がいて下さればいざという時にも孤立の心配無しに使えます。速さが足りないからと沙織さんを忌避するようなことは致しません」

「それを聞けて安心しました」


 沙織は親友、舞弥さんは戦友。二人には是非とも仲良くなって欲しい。性格の不一致とかなら仕方ないと諦める事もできるが、戦闘スタイルのせいで仲違いなんて嫌なのだ。


 着替えを終えて衝立から出てみると、成美が沙織にじゃれついていた。適当にあしらいつつも沙織は困惑の表情を浮かべている。


「成美、私達終わったから」

「んお? 判ったー」


 入れ代わりで成美が衝立の蔭に入っていく。早着替えをする成美はダイナミックに動くので一人で衝立を使う。その分速いので誰も文句は言わない。

 成美を見送り、沙織はほっと息を吐く。


「あの子、前は私にはそんなにべたべたしなかったのに」

「生で会うのは随分久しぶりだし。甘えたいんでしょ」

「生ねぇ」


 微妙な顔をしていた沙織、防具を装備し始めた私達を見てぎょっとする。


「桜、それ……」


 それ、が何を指しているのかは沙織の視線を辿れば容易に判る。私や舞弥さんの防具を地味に彩る灰色の補修用ガムテープだ。こころなし沙織の顔色が悪くなっている様な……。


「桜がそんなに被弾するなんて……やっぱり魔族は一筋縄ではいかなかったのね……」

「え? 沙織、私が魔族とやりあったって知ってるの?」

「うん、まあ、ね」


 なんだろうか。

 沙織は何かを言いたそうな、でも言い難いから言い出せないような、そんな顔をしている。

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