表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第一章 クラス代表決定戦
16/395

決定戦終了

《気の刃2発動:非物理攻撃力付与(武器) 武器攻撃力+1》


 気の刃2で非物理攻撃力に加えて物理攻撃力も上昇させる。

 さっき私の斬撃を防いだ委員長の障壁は今にも砕けそうに軋んでいたから、これで突破できるはずだ。

 こうなってみると最初から気の刃2を使っていれば良かったと思うところだけど、そうもいかない理由があった。


 気の刃は「武器に気を注入して攻撃力をアップさせる技」だ。

 つまり発動中は常時練気ゲージを削り続けることになる。

 気功スキルのレベルや焔の熟練度を上げて練気ゲージの上限をもっと伸ばすか、逆に気の刃の熟練度を上げてゲージの消費量を減少させるか。どちらかをしないと長時間使用し続けるのは難しい。

 加えて、委員長がこうまで障壁の術を使うと知らなかったから、魔術を斬り払うために非物理攻撃力だけ付与しておけば大丈夫だろうと考えていた。


 今のこの局面からなら、長期戦はあり得ない。練気ゲージを使いきるつもりでいける。


 委員長は攻撃か防御かで迷っている様子だけど、私に迷いは無い。

 近付いて斬る。

 近接戦特化の剣士タイプにできるのはそれだけだし、それこそが私が学んだ剣術の姿でもある。

 彼我の距離は僅か数歩分。


 委員長が半歩退き、右手から予測線が発生した。

 私は大きく一歩を踏みこみ、三連続斬撃技『疾風』を撃つ。

 白刃が鞘走るのと光弾が発射されたのは、ほぼ同時だった。

 距離が近いから発射を確認してからでは遅いため、フライング気味に疾風を発動させたのだ。

 こんな事をすればただの盲撃ちになりかねないが、私には止水の予測線がある。予測線をなるべく多く通過するように三連の斬撃をつなげる。


 光弾七発、迎撃成功。

 残る二発はもう当たるに任せる。

 何度か受けて光弾の性質は把握している。「無属性の打撃判定攻撃」で威力は「素人のパンチ」程度だ。どこに当たろうと単発なら深刻なダメージにはならないし、最初から当たる覚悟で突っ込むなら耐えられる衝撃だ。


 疾風の三連撃が終わると、刀は体の右側に来ている。これをそのまま右脇に絞り込み、片手突きの構えに移行、同時に地を蹴って大きく踏み込む。


 委員長が障壁を展開するが、構わずに突きを放った。


 刀の切っ先が障壁に接触し、双方が干渉しあうエフェクト光が散り、ガラスの割れるような音ととみに障壁は砕け散った。

 障壁を抜けた切っ先はそのまま委員長へと向かう。

 狙っているのは左胸、心臓の位置だ。ブレストプレートを着込んでいるけれど、これなら貫けるという自信があった。


 自分の心臓へと向かってくる刃を、委員長は信じられない物を見る目で見つめていた。


 ここまで近接戦をこなしてきたように見える委員長だが、その実やっていたのは足を止めたままの魔術戦だ。反応速度や術の発動速度は速くても、体そのものを動かす速度は凡人並みだ。

 飛び退いて避けようとしても間に合うはずが無い。


 そう思ってしまったのは、私の油断だったのだろう。


 不意に委員長の体が弛緩した。

 力の抜けた下半身は体重を支えきれず、委員長の体が重力に引かれて沈みこむ。


 結果、私の突きは委員長の肩の辺りに当たる事になってしまった。

 確かにブレストプレートごと貫いたし、委員長のダメージも大きい。

 だがこの部位では即死するほどのダメージではない。


 避けられないと悟るや否や、即死にだけはならないように位置をずらしてきたのだ!

 しかも絶体絶命の場面で、全身の力を抜いて体を沈ませるなどという方法で。


 凄く近い位置にある委員長の顔に、薄い笑みが浮かんだ。

 そっと右手が私の胸に添えられる。


「……打て」


 ゼロ距離で九発の光弾を受け、私は大きく弾き飛ばされていた。


《気功スキル(焔)解除:気功スキルに移行》

《気の刃2解除》

《気の刃解除》


 視界の端に警告メッセージと、ステータスダウンの表示が流れていく。

 胸当ての上からだったので致命ダメージには達していないが、「胸部強打による一時的な呼吸困難」の判定が下っている。


 焔のリズムは維持できなくなり、気功スキルは通常モードに移行。上限の下がった練気ゲージは気の刃を維持できないほどに減っていた。


 委員長はまだ立っている。

 とは言え重傷なのは間違いない。肩口からは出血ダメージを表す派手なエフェクトが連続している。放っておいても失血死判定が下るまでそう時間はかかるまいと思われた。


 だが委員長はまだ諦めていなかった。

 右手が上がり、予測線が伸びてくる。


「おおおおおっ!」


 私は雄叫びを上げて突進した。

 次々と飛んでくる光弾は疾風を連発して手当たり次第に切り払う。


 いや、正確には切り払っているわけではない。

 光弾を刀に着弾させていると言った方が当たっている。


 光弾と刀がぶつかり合って火花を散らす。

 防げない分が私の体を打ち据えるが、もう構っている場合ではない。


《止水停止》

《気功スキル解除》


 途中でそんなメッセージが見えた気がしたが、私は目の前の光弾を斬り払うのに集中していた。

 予測線が表示されなくなった事もほとんど意識していなかったと思う。


 あと一撃。

 あと一撃を入れれば委員長は倒れる。

 私はそれだけを考えていた。


 そして私は再び刀の届く位置に戻って来た。

 今度こそ決める。

 私は委員長の首を狙って刀を振るった。


 振った刀にはなんの手ごたえも伝わってこなかった。


「え……?」


 自分の手にある刀に視線を移し、私はその理由を知った。

 私の刀は半ばから折れて、長さを半分ほどに縮めていたのだ。


 気の刃も無しに光弾を斬って斬って斬りまくって、刀の耐久力が尽きていた。


 我に返ったように、委員長が右手をかざしてきたが、もう私は思うようには動けなかった。

 無数に受けた光弾によって、何か所もの骨折判定が下されている。


「鎚よ、打て」


 委員長が二言の呪文を唱え、私は顔面を強打された。

 二単語からなる単発の強打撃によって、私の意識はブラックアウトした。


 これが致命ダメージになったのだ。


   ・

   ・

   ・


 その後のことはあまり良く憶えていない。

 ブラックアウトした意識が戻ると、私は無人のホールに立っていた。

 致命ダメージを受けて、自動的に転送……つまり、負けたのだ。


 呆然としていると観客席から戻って来た後城やクラスメート達に囲まれた。

 例の怪しげなローブ姿の学園長もいたようだったけれど、私は機械的に応対するだけだった。


 こんな凄い試合は見た事が無いとか、彼らは口々に賞賛していたけれど、私にはそれが痛かった。

 いたたまれなくなって、逃げるようにログアウトして、接続室からも飛び出した。

 そんな時でも礼を失しないように最低限の挨拶だけはしている自分が滑稽だった。


 つい一時間前、甘いコーヒーを飲んで自分を奮い立たせた。

 同じベンチに座って、足元の地面を見つめていた。

 見上げれば夏の青空があるけれど、今はその青さは眩しすぎる。


 どれくらいそうしていたのか、不意に私が見つめる地面に影が落ちた。


「桜……」


 成美だった。俯く私の髪にそっと触れてくる。


「ごめん……勝てなかった」

「うん」

「期待に応えるとか言ってたのに……勝てなかった」

「うん」

「ほんとに、ごめん」

「桜、そこまで!」


 不意に成美の手が私の頬を左右から挟み、顔を上向けられた。

 見上げた成美はとても悲しそうな顔をしている。


「かっこいい桜は大好きだけど、こんな時までかっこよくなくていいから。泣きたい時には泣いてもいいよ。かっこ悪くてもいいんだよ」


 えーと?

 なんだろうこの展開と成美のセリフは。

 なにか勘違いされていないだろうか。


「泣いてるところを誰にも見られたくないなら、こうしてあげる!」

「あぶっ!」


 いきなりギュッとされた。

 成美は私の顔を自分の胸に押しつけるように抱き込んでいる。


 これはあれだろうか?

 いわゆる「私の胸でお泣きなさい」という……。


 どうも私の態度が成美に勘違いをさせてしまったみたいだ。

 委員長に負けたのは確かに悔しい。でも泣きたいほどじゃない。

 成美に謝ったのだって言葉どおり、期待に応えられなかったからだ。

 ここで俯いていたのも試合の内容を反芻して、一人反省会をしていただけ。

 まあ、負けたのに称賛を受けるというのは実際いたたまれない気分になるので、逃げるようにログアウトしてきたのは事実だけど。


 ここはやんわりと事実を明かして成美の誤解を解くのが紳士の……いや、男じゃないから淑女の、対応だろうか。


 でも柔らかい。


 状況は全然違ったけど仮想空間でもこうして顔を成美の胸に埋めるような事があった。

 限りなくリアルな仮想空間でその柔らかさを堪能したものだったが、いくらリアルであってもデータはデータに過ぎない。

 現実世界の成美の胸は、淑女の対応を忘れさせるほどに心地よかった。


 しばらくこうしていようか。いや、でもそれは成美を騙すことになってしまう。

 でもでもこんなに柔らかいのに。


「桜? ねえ桜?」


 いくら待っても泣きだす気配の無い私に、さすがに成美も気づいたようだ。

 腕を解いて、私の顔を覗き込んでくる。


「ちょ!? なんでそんなに幸せそうなのー!?」


 ああ、私はそんな顔になっていたのか。


   ・

   ・

   ・


 誤解だったと知った成美は、自分の行動を思い出したのか顔を真っ赤にしていた。

 紛らわしい言動をした私にぷりぷりと怒っていたけれど、彼女が思っていたようには落ち込んでいなかった事には安堵してくれていたようだ。


 私は心配してくれたお礼(と気持ちの良い柔らかさへのお礼)としてマックスなコーヒーを成美に進呈した。お気に入りのコーヒーを飲んで落ち着いた成美は、いつもの調子に戻っていた。

 振幅の激しい性格なのである。


「あーあ。心配して損しちゃったなー。一人反省会ってなによ。紛らわしい」

「ごめんごめん。でも負けてすぐに、悔しいって気持ちが強いうちにやった方が効果的なのよ。次にやる時はどうすれば勝てるか必死に考えるでしょ?」

「リベンジするつもりなんだ?」

「当然。って言っても今のままじゃあ運任せっぽくなっちゃうから、もっと強くなってからだけどね。その時には必ず成美の期待に応えてみせるからね」


 私が言うと、成美はまた真っ赤になってしまった。


「うーん、さっきはああ言ったけど……桜はやっぱりかっこいいままの方がいいや。これからも男前でいてね」


 その期待に応えることはできません。女子として。


 なにはともあれ、今学期最後のイベントである決定戦も終わった。

 他の生徒に遅れる事数時間、私にも夏休みがやって来たのだ。

この回で第一章は終了です。

次回からは夏休み編に入りますが、多少間が空くかもしれません。

なるべく早く投稿したいと思っています。

よろしければ次回以降もお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ