vs 委員長
戦闘シーンの描写に苦しみ、ちょっと短めです。
《気功スキル・モード変更・風:敏捷力上昇》
咄嗟に気功スキルのモードを変更する。
焔の効果で増加していたステータスアップ数値の全てを敏捷力に集中し、間一髪で予測線を避ける。
しかし息を着く暇も無い。
避けたと思ったらもう次の予測線が表示されているのだ。
さらに避けながら委員長の口の動きを見ていると、光弾を撃つまでに一言しか言っていない。
愕然とした。
レベル1とはいえ魔術スキルを持っているから、私も魔術や呪文の基礎は知っている。私が知っている魔術ではどんなに短い呪文でも五~六個の単語からなる文章の形式になってたはずだ。
早撃ち特化のオリジナル呪文を登録しているとは聞いていたけど、まさか一言呪文とは。
普通なら初撃に対処した後、次の攻撃の為の詠唱時間を利用して接近するのだけど、委員長相手にはそれができない。避けても避けても接近しようとする前に次の予測線に捉えられてしまうからだ。
成美が「弾幕っぽくなる」と言っていたのが実感される。
逃げてばかりでは勝負にならない。
私は剣士タイプなのだ。刀の届く距離まで近寄って斬らなければ、絶対に勝てない。
私は避けながら委員長の攻撃の間隔を計っていた。
《気の刃発動:非物理攻撃力付与(武器)》
刀に非物理攻撃力を付与。
委員長の攻撃を避けての跳躍後、着地の足をそのまま踏み切りに使って前進する。
走り出した直後に私の疾走は最高速度に達していた。
特殊な足運びによって最高速度に達するまでの「加速の為の時間」を短縮する剣術の技『神脚』だ。風モードで上昇した敏捷力も加えて、私は放たれた矢のように駆ける。
これまで横方向に避け続けていたから、いきなり縦方向の動きに変わって委員長の対応が遅れた。
次の予測線には余裕を持って対処できる。
委員長の右手から予測線が放射状に伸びてきた瞬間、私は体一つ分横方向に移動していた。疾走中のスピードをほぼ落とさずに、ほぼ直角に。これも剣術の足運びの一つ、高速の立ち回りの中で急激な方向転換を可能とする『鬼脚』という技だ。
体一つ分。移動距離としては僅かでも、前に出た分で攻撃範囲は狭くなっているから、大半の予測線からは逃れることができた。師匠のアドバイスどおりである。
飛来する光弾は可能な限り斬り払い、避けも斬り払いもできなかった分は左の手甲で受けた。
当たるたびに衝撃を感じ、派手なエフェクト光が散る。
そしてとうとう刀の届く間合いまで辿りついた!
最後の一歩を踏みこみながら、刀を横薙ぎに振るう。
魔術タイプの委員長にはこれを避けるだけの敏捷力は無いはずだ。
実際に委員長は避けなかった。
避けられなかったのではなく、避ける必要が無かったのだ。
私の一撃は委員長がかざした左手の手前でガラスのような透明な板にぶつかっていた。
「障壁!?」
シールド、バリヤー。まあ呼び方はいろいろあるだろうけれど、魔術タイプが使う防御用の術だ。
それにしてもこのタイミングで障壁の展開が間に合うとは。
障壁の大きさは少し大きめの盾くらいだった。
鬼脚の足運びで横から回り込み、さらに一撃を送り込む。
これもまた障壁に阻まれた。
ガラス板のような障壁は震えて軋んでいるけれど、どうにか私の斬撃を持ちこたえている。
障壁まで一言呪文だなんて、どうかしてるよ委員長。
速いにも程があると言うものだ。
委員長が右手を私に向けてくる。と同時に、予測線が発生していた。
ゾクリと寒気を感じる。
ほとんど密着した間合いのせいで、本来は放射状に広がるはずの予測線もまとまったまま私の腹に突き刺さっている。予測線は触れた部位に冷気を感じさせるが、私が感じた寒気はそれとは別だ。
いくら一撃の威力が低めになっているとはいえ、この近距離で全弾をまともに喰らえば致命ダメージになりかねない。敗北、つまりは死の予感が私の心を締め付けた。
「打て」
その一言が光弾の術の呪文だった。
予測線の根元に光弾が発生している。
これは避けれらない。
避けられないならどうするか、対処法は師匠に教わっている。
斬る!
無理矢理の『疾風』は不完全な体勢のせいで連撃にはできなかったが、最初の一閃が光弾の密集点を通過しつつ、委員長の手の平を浅く斬っていた。
斬れなかった残りの光弾が私の腹にヒットした。
あれ? 意外とダメージが小さい。
衝撃で数歩後退した私は、自分の体の状態を確認してそう思った。
リアルモードでのダメージ算定は、何度か言ったように現実的だ。
腹部への攻撃の場合「内臓が損傷するレベル」であれば致命ダメージとして判定される場合もあるし、致命でなくても内臓をいためれば動きが制限される。
ところが至近距離からの直撃にも関わらず、致命ダメージにはならず、行動制限も小さなものだ。
現実に即した表現をするなら、格闘経験の無い素人のボディブローを受けて痛みで動きが少しだけ鈍くなっている、といった程度だろうか。
そう言えば接近中に光弾を何発も受けている左手も骨折などのダメージには至っていない。手甲のおかげもあるのだろうけど、その手甲もまだ耐久力が尽きていない。
なるほど、と私は納得した。
魔術は強力であるほど呪文が長くなるというのが一般的な常識だ。
だとすれば、呪文を短くすればするほど、威力は弱まっていく事になる。
早撃ちに特化した委員長のオリジナル呪文は、速さと引き換えに威力を大幅に落としているのだろう。
障壁が盾くらいの大きさしかなかったのも同様の理由からだろう。
まあいくら威力を削っているとはいえ、一言で発動できるというのは大きな強みだ。
しかも敏捷力を大きく上げている私に対応して障壁を展開するなど、委員長本人の対応能力も目を瞠るほどだ。
「正直驚きだわ。私に近づけたのは霧嶋さんを除けばあなたが初めてよ。あの霧嶋さんが推薦するくらいだからかなりやるとは思っていたけど……予想以上だわ」
委員長が私に左手を向けながら言ってきた。勝負の最中に悠長な事だとも思ったが、喋り中に攻撃されても瞬時に障壁を展開するつもりだろう。
けして油断はしていない。
「こっちこそ驚いたわ。近接戦に持ち込んで仕留められなかった魔術タイプはこれまでいなかったもの」
私も用心深く委員長の動きを観察しながら言った。
委員長の右手からは断続的なエフェクト光が発生している。
さっきの疾風が浅くヒットして手の平に切り傷を負っている。切り傷の場合は「出血」として継続的にダメージが入り、これはしかるべき処置をしなければ止まらない。「出血」が続けば「失血死」の判定もあり得るのだが、手の平を浅く切った程度だからそれは期待できないだろう。
勝つためにはあの障壁を突破しなければならない。
委員長の展開速度と対応速度を越えるのは難しそうだ。
となれば、正面から障壁を「抜く」しかない。
さっき斬撃を受け止めた障壁は、震え、軋んでいた。
おそらく強度的にはぎりぎりだったはず。
私は刀を鞘に収めた。
委員長が意外そうな顔をし、ついで警戒感を露わにする。
魔術専門でもさすがに刀使いの居合抜きくらいは知っていると見える。
委員長が右手も私に向けて、両手を突きだしている姿勢になる。
攻撃でも防御でも即座にできる体勢。
そんな委員長の表情に僅かな迷いが見て取れた。
先に光弾で攻撃するか、私の攻撃を障壁で防いでから反撃するか。
そういう迷いを表してしまうのは、委員長が魔術タイプだから。
パーティー戦で近接戦の経験をある程度は詰んでいるだろうけれど、普段中から遠距離で射撃をしているから、今のような近い距離では戸惑ってしまう。
近接戦では剣士タイプの方が強い。
簡単にそうは言えないほどに委員長は強いけれど、だからこそ委員長に勝てば私は胸を張ってそう言えるだろう。
過去投稿分を読み返していたら、書き忘れていた点がありました。
この章では桜がショップで防具を買っていますが、序章では防具扱いのサラシをダウンロードしており、防具の入手方法が二種類出てきています。
この違いはサラシのような防御効果がとても低い物は他のゲームでの初期装備のような扱いなので無料ダウンロードで入手可能。それ以上の防具についてはショップで購入、という区別になっています。
武器についても基本的かつ通常品質の物は無料。品質の良い刀+1などはショップで購入しています。
作中で出すべき情報ですが、なるべく改稿をしたくないので、後書きで捕捉させていただきました。




