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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第一章 クラス代表決定戦
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決定戦開始

「どうしてこんなことに……」


 私は頭を抱えていた。

 場所は先日成美達とマックスなコーヒーを飲んだ自販機前のベンチ。

 終業式も終わった今、日付は変わらなくてももう夏休みである。


 私が頭を抱えている理由は、その終業式にあった。

 終業式には学園長の挨拶が付き物だ。

 長い夏休みをどう過ごすべきか、宇美月学園の学生として云々というような内容で、これはまあどこでもそう大差はないだろう。私も他の学生達も聞くともなしに聞き流していた。

 ところが良くある内容の話を終えた後に、学園長はこう付け足したのだ。


「学園祭で行われるCOD大会の代表選出について、後城先生の受け持つ二年B組のみ、正代表副代表が決定していない。聞くところによるとその決定戦が本日行われるとのことだ。二年B組委員長、三条君の名は私も良く聞いている。入学以来シングル戦では負け無しとのことだね。そんな彼女に挑戦する天音君もそうとう腕に自信があるようだし、これは良い試合が見れそうだな」


 なんて余計な事を言う学園長なんだろう!

 仮想空間の活用を積極的に行っている宇美月学園だから、学園長がCODに興味を持っていてもおかしくはない。だけど終業式という公式の場で一クラスの代表決定戦に言及する必要はないはずだ。

 転入間もない私はともかく、学園長も言ったように委員長は入学以来シングル戦無敗という記録を持っていて学内でも有名人だ。

 これから長い夏休みということで、みんな時間的には余裕がある。

 学園長がああまで言うなら、数時間帰宅を遅らせて試合を見てみようかと多くの学生が思ってしまっただろう。


 事実、ホームルーム終了後に接続室に向かう生徒が大勢いた。

 適当に対戦したり、仮想空間でおしゃべりしたりして時間を潰し、その後に私たちの試合を見て行こうというのだろう。


 目立つのは嫌なのに……。

 別にあがり症とかではない。

 私が注目されるのを嫌う理由は、私の身長が周囲に比べて高くなりだしてからの体験にある。

 それを詳しく思い出すのは精神衛生上よろしくないので、記憶の奥底に封じ込めてあるのだが。


 私が人目を避けるようにしてここに来たのには理由がある。

 目の前の自販機でマックスなコーヒーを買い、一息に飲み干した。

 相変わらずの暴力的なまでの甘さに一瞬脳が麻痺したかと思った。


 大丈夫、と自分を励ます。

 このコーヒーが一気飲みできるくらいなら、もう怖いものなど何も無い。

 そう自分に言い聞かせていた。


   ・

   ・

   ・


《登録名....sakura》

《身体走査データ確認.....アバター作成》

《登録スキル確認....剣術Lv9 気功Lv9 魔術Lv1》

《総合レベル算出....総合レベル8》

《登録装備確認....刀+1 鉢金 サラシ 皮の胸当て 手甲》


《ようこそ、決闘者の闘技場へ》


 ホールの入口から見渡せば、案の定多くの学生がいた。

 せっかくの夏休みなのだから早く帰ればいいのに。


 誰かが私に気付いたようで、視線が集中してくる。


「あ、彼女がそうよ。2-Bの天音さん」

「って、剣士タイプじゃないかよ。あれで三条に敵うのか?」

「やっぱりかっこいい……」

「あれ女なのか? 随分でかいな。胸は小さいけど」


 ひそひそと囁く声が嫌でも聞こえてくる。

 いったい何割の人が私のことをでかいと思っているのだろう。

 そして気のせいではなく、やっぱり聞こえる女子の声。

 あと胸はサラシで抑えてるだけだから。本当は大きいから。


「おう、遅かったな」


 受付カウンターにいた後城が手を振っていた。

 後城のアバターは両手に護拳グローブをはめて足はごついブーツ、武器は持っていない。剣士タイプではない近接戦の徒手格闘術タイプだ。


「三条はもう来てるぞ。天音は左の控室に入ってくれ。フリーの対戦は締め切ってるから誰もいない。集中するなりなんなりしててくれ」

「はい」

「それとな……」


 控室に向かおうとした私を後城が呼びとめた。

 屈みこんで顔を私に近づけ、小さな声で言う。


「立場上は中立なんだがな。同じ近接戦特化型としてお前を応援してる。三条は手強いだろうが頑張ってくれよ」

「はい!」


 さっきよりも気合の入った声で返事をして控室へ向かうと、扉の前で成美と沙織が待っていた。

 軽く片手を上げて挨拶。


「桜ー、いなくなっちゃうから心配してたよー。どうしたのー」

「ちょっと例のコーヒーを飲みに行ってたわ」

「例のって……まさかあれ?」

「そう、マックスなやつ」


 私が頷くと、成美は「おお!」っと笑みを浮かべ、沙織は「げっ!」となんとも言えない顔をした。


「やっぱり桜にはあの味がわかるんだー。好きになっちゃった? 病みつきになっちゃった?」


 嬉しそうにじゃれついてくる成美に悪いので言わないけれど、好きにも病みつきにもなっていない。苦難を乗り越えたという達成感で自分に自信をつける為に飲んだのだから。


 成美にじゃれつかれるのは悪い気もしないけれど、そろそろ控室に入りたい。

 それを察してくれたか沙織が成美を引き剥がしてくれた。いつかのように両脇に手を差し入れて持ち上げている。

 そうすると顔が私と同じ高さにあった。

 視線を下げなくても成美と視線が合うのは何だか新鮮だ。


「じゃ、行ってくる」

「うん、がんばってね」


 成美の声を背に、私は控室に入った。


   ・

   ・

   ・


 控室に入ってもやる事がない。

 後城は集中でもしててくれと言っていたけれど、私は試合前にコンセントレーションを高めたりという習慣が無い。

 常在戦場を剣術家の心構えとして説く師匠や、その教えを受けていた両親の影響だろう。

 ベンチに座ってリラックス。


 やがて《sakura様、闘技場へどうぞ》のメッセージが表示された。

 闘技場への扉を抜けて、私は唖然とする羽目になった。


 闘技場に足を踏み入れた瞬間に圧倒的な音の洪水に晒された。

 歓声だ。姿を現した私に送られる歓声。


 闘技場を囲む観客席がほぼ満席になっている。

 もしかしてほぼ全生徒が見に来ていないか?

 この暇人どもめ!

 しかも貴賓席(モデルになっている円形闘技場では皇帝や貴族が座っている席)には後城を含めてかなりの人数の教師人が陣取り、その真ん中には怪しいローブ姿の学園長その人の姿がある。

 この状況の元凶である学園長を思わず睨みつけていると、何を勘違いしたのか学園長が手を振って来た。仕方ないので軽く会釈を返しておく。


 再び歓声が大きくなり、闘技場の反対側を見ると委員長も入場していた。


 仮想空間での実習は別々、CODでも会った事が無いので、委員長のアバターを見るのはこれが初めてだ。


 白いローブの上にブレストプレートを重ね、ガントレットとグリーブで手足を守っている。

 歩く姿に異常はないから重量制限には引っかかっていないようだが、後衛職の魔術タイプとしては重装備だ。私の防具よりも確実に重いだろう。

 防具の充実に対して武器は持っていない。

 魔術タイプの多くは杖や指輪のような発動体(魔術発動の基点として設定すると消費魔力が軽減されるなどの効果がある)を装備しているのだが。


 これは警戒しておくべき点だ。

 発動体を装備している相手の場合、発動体の効果を得るために必ず発動体から魔術を使ってくる。攻撃の起点が限定されるわけで、対処する側としては読みやすい。発動体が無い場合でも大概は手からとなるけれど、それは必ずとは言えず、突拍子もない部位から魔術を撃ってくる可能性もある。

 さらには発動体の恩恵を必要としない実力者という判断もできた。

 まあ委員長が強いというのは今さら言うまでも無いのだけど。


「どうも大げさな事になっちゃったわね」


 少し困った様子の委員長。

 気持ちは良く判りますよ、委員長。恨むなら学園長を恨みましょう。


「成り行きでこうなってしまったけど、やるからには負けるつもりはないわ。覚悟しておいてね」


 おお?

 二人で学園長を呪ってやろうとか考えていたら、いきなり宣戦布告されてしまった。

 普段はあまり自己主張しない性格だと思っていたが、勝負となればまた別なのだろうか。

 うん、面白い。


「それはこちらも同じ。負けるつもりで勝負するわけないでしょう」


 委員長に剣士タイプたる私を侮っている様子は無い。

 ますます面白い。

 シングル戦無敗。それは破神封印前の成美とは対戦していないということだ。

 それが偶然なのか、それとも勝てない勝負を避けた結果なのか、私は知らない。

 でも今なら後者なのではないかと思える。

 近接タイプと侮らず、きちんと成美の能力を把握して勝負を避けたのではないか。

 委員長は実力もあり、そして油断をしないタイプだと思えた。


 お互いに頷き合い、開始線に立った。


 シグナル点灯。《fight!》の表示。


 開始と同時に右斜め前方へダッシュ。

 委員長が右手の平を向けてくるのを見ながら気功スキルを発動する。


《気功スキル(焔)発動》


 新たに登録した焔で気功スキルを発動する。焔での発動は以前とは微妙に違う呼吸のリズムによって行う。違いが微妙過ぎて、油断すると以前のリズムに戻りそうになる。そうなると通常の気功スキルに移行してしまうところだが、焔登録後に重ねた対戦の間にリズムは体に染み込ませていた。


 師匠のアドバイスに従い、前へ出る。

 前へ出ながら止水を発動しよう。


「前へ、前……え?」


 委員長の手の平から青白い光弾が放たれていた。多分十個くらい。


「って、ええ!?」


 慌てて横っ跳び。辛うじて回避に成功。

 師匠のアドバイス通り前に出ていて、加えれば魔術には散弾銃ほどの弾速がなかったおかげだ。


 いつの間に呪文詠唱した!?

 早撃ちが得意とは聞いていたけど、まさか止水の発動が間に合わないほど速いなんて!


 などと内心で突っ込みつつ止水発動。

 発動したと思ったら、もう次の攻撃の予測線ががんがんに私に突き刺さっていた。


 速い! 速すぎるよ、委員長!

 そして師匠、いきなりピンチかもしれません。

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