八十五・五話 博麗神社の宴会Ⅲ
これを書く直前、妄想が暴走して小傘がヤンデレ化しました。おかしいな……そんな趣味はなかったはずなのに……
相変わらず絵が上手なご主人さまは、宴会でも人気者だった。生き生きとした表情をしてて、とっても楽しそう。
だけど……まただ。
ご主人さまが他の誰かと楽しそうに話していると(特に綺麗な女の人!)むねの辺りがモヤモヤする。この前も感じたんだけど、なんなんだろう……これ……
「やっほーさっぶー! ねぇねぇ! 私も描いて!!」
「こ、こいし姉さん!? いつの間に!?」
「さっぶーが活躍してるって聞いて、地底から飛んできちゃいました!!」
あ、また別の妖怪に絡まれてる……むぅ……
しかもすごく積極的に話しているというか……ご主人さまといつの間にか知り合いになっていたみたいだし……
「あらあら、そんな顔してどうしたのかしらん?」
「……べつに」
いつのまにか八雲 紫が寄ってきて、話しかけてきた。ご主人さまと同じで、私もこの人は好きじゃない。適当に切り上げてやり過ごそうとしたのだけれど、
「あなたのご主人……参真だったかしら? 人気よね~」
「それが、どうしたの?」
「私も仲良くしたいと思ったのだけど、のけものにされちゃってね。それで、あなたと話をしようと……ね。大したことじゃなくていいのよ? 些細なことでも、聞きたいわぁ」
扇子を広げて、と~っても嫌な感じで聞いてきた。
私が嫌いだから、そういうふうに見えただけかもしれないけど。
「ご主人さまは……絵が大好きで、呑気で、やさしくて、物を大切にする人だよ」
「でしょうね。でなければあなたを拾ったりしないでしょう。他には? 昔のこととか、聞いたりしてない?」
「それは――」
そこまで言って、私は気がついた。
私は、拾われたからご主人さまについていくって決めた。
いつも優しいし、ずっと一緒にいたけど――私は、ご主人さまの昔のことを、何も知らない。
どんな人だったかなんて関係ないし、今一緒に居る分には問題ないけど――気になる。
「……あなたにも話してないとなると、さとりのところで聞くしかないわね。よっぽどつらい目にあったのかしら」
「ど、どういうこと!?」
「今回、彼が幻想郷に来たことに私は関わってないわ。つまり、外の世界に忘れ去られてこちらにやってきたということ……人一人が完全に忘れ去られるなんて、滅多に起こりえませんわ。それだけのことをしたか……あるいは、どこかで隠遁生活でもしてたんじゃない?」
言われて、思い出した。山小屋で生活していたとか、修行っぽいことしていたとか……
「何の干渉もなく入ってきたただの人間にしては、それなりに実力を発揮し始めた。だから私は警戒し、試すために地底へとあの男を突き落とした。忘れ去られたのは高等なフェイクで、実際は幻想郷のことを調査しにきた、何かかもしれないと思ってね」
それが、私たちを離れ離れにした真実。それを告げたからって、許そうとは思えないけど。
「結果は、私が警戒するような相手じゃなかったわ。直接戦っても、そこまで強くはなかったし……正直用心しすぎだったわ。ただ忘れ去られるようなことをした、かわいそうな人間だったみたいね」
「つらい目に……あったんだ」
つい俯いてしまう。どうして……どうして教えてくれなかったのだろう……
「それは聞きづらく、また話づらいことですわ。知らなくとも別段恥ではないと思うわよ。月並みなことをつけ足すなら、今幸せそうならいいんじゃない?」
「私が納得いかない。どうして、気がついてあげられなかったんだろう」
そばにいるつもりで、距離は遠かったのかな。ご主人さまは大切なのに、全然知らなかったし、分からなかった。知ってれば何か変わった訳じゃないけど……
「知ってほしくないことぐらい、誰にでもあることよ。そっとしておくのが一番かしらね」
「……」
それで私はいいのかな。胸のモヤモヤが、大きくなる。
この感情はなんなのだろう。口に出せない思いは、私の中に溜まるばっかりだった。
あらかじめ断っておきますが、作者はヤンデレ好きではありません。
眺めている分には、そういうのもあるのかーぐらいです。特に好きでも、嫌いでもないです。かといって、無関心な訳でもないんですけどね。