八十五話 博麗神社の宴会Ⅱ
ユニークアクセス⑨万突入! みなさん大好きだ!!
参真は思わず飛びかかりそうになった。
隣に幽々子がいなければ、迷わずそうしただろう。それだけ八雲 紫は許し難い相手であった。たとえ一度、完膚無きまでに叩きのめされていても……だ。
「あら怖い。そんなに睨まれたらゆかりん困っちゃう~」
「……はぁ……」
向こうが挑発的な発言をしてきたが、逆に萎えた。向こうの誘いに乗ってやるのが気に喰わなかったからかもしれない。……逆上するような性格じゃなくてよかったと、心の底から思う。
「若いのにため息なんてついてたら老けるわよ~今回も頑張ったじゃない」
「頑張った……のかなぁ……?」
幽々子の言葉に、青年は疑問符を浮かべる。何せ解決その物はできていないのだ。てっきり、「任務失敗だからもう一回離れ離れね~」という展開も予想していた。それを思えば、ずいぶんと反応が温い。
「初めて異変解決で、幻想入りしてから一年と経ってない。それで最後の方まで辿りつけてるのだから大したものよ。何より、最後の相手が霊夢じゃ分が悪すぎるわ」
「そんなに強いんですか? 彼女……」
今回の異変を解決したのは彼女だし、参真に圧勝しているのだから実力はあるのだろう。しかしこうも誇張されると、かえって疑ってしまう。そこに……横から刀を携えた少女……魂魄 妖夢がひょっこり顔を出して青年に告げた。
「本気の幽々子様でも勝てません。もちろん私でも」
「わぁお」
素っ頓狂な声をつい上げてしまうほど、その事実は参真には大きなことであった。普通に戦ったらこの人たちに勝てる気がしないのに、それを上回る戦闘力の持ち主と戦って、無事だったようだ。弾幕ゴッコのルールがなければ、命はなかっただろう。
どこかむすっとした表情の妖夢は、けれども文句の一つも言わない。そうなる要因に心当たりのある参真は、ここで謝っておくことにした。
「そうだ、妖夢さん。身を引いてもらったのに、異変解決できなくてすいませんでした」
「え? ああ、そのことですか。幽々子様のおっしゃる通り、博麗の巫女相手では仕方ありません」
酒の席だから無理して、意地を張っているのではないかとも思ったが、特に『不自然』な様子はない。
「あら、気を使わせちゃったみたいね。妖夢はこれが素なのよ。もうちょっと表情が柔らかければ、いい男の人も見つかると……」
「ゆ、幽々子様っ!」
途端顔を赤くする少女。幽々子はしてやったりとクスクス笑っている。
「参真くんはいい子みたいだし……ちょっと妖夢と付き合ってみない?」
「それは無理よ幽々子。だってこの子唐傘妖怪にゾッコンだもの」
「……引き離した本人がそれを言いますか」
紫の一言に、つい棘のある返しをしてしまう。能力でも紫の状態は不自然にしか映らない。彼はとことん、紫が苦手なようだ。小傘云々くだりで何も言わないのは、いちいち修正するのが面倒になってきたからである。
「引き離してみたから分かったことよ。こうまで想い合っている仲は、人同士でも滅多に見かけないものだと思いますわ」
「それはどうも」
「ツレないわね~」
わざとらしくつついてくる紫。もう一度ため息をついて、参真は奥へ移動しようとした。幽々子が呼びとめる。
「あら、どこ行くの?」
「ちょっと絵の道具を取りに。頼まれたので」
「へぇ……すごく上手らしいじゃない?」
「あなたの絵は描きませんよ? 八雲さん」
きつめの敬語で拒絶すると、胡散臭い動作でよよよと倒れ込んだ。参真出なくとも、この動作は『不自然』だとわかるだろう。
呆れてため息一つ。これで三度目である。そのまま無視して一旦奥へと移動。道具を取ってきた。ほどなくして先ほどの三姉妹が演奏の準備に入り、どこに座ろうかと悩んだが、
「参真~よければ一緒にどう?」
ちょうどいい位置に幽々子たちがいたので、紫は我慢することにしてお邪魔することにした。そして、演奏が始まる。
キーボード、トランペット、ヴァイオリンの三重奏が、博麗神社内に響き渡った。
「さて、こっち始めるか」
青年も雑念を消し、まずは対象を集中して観察する。ここでの観察の意味は、見るだけではない。周辺の環境や、音、匂いなど、五感すべてを使って周辺の情報を収集することを指す。聴覚と視覚をリンクさせ、一人一人の奏でる音がどんなものかを解析することに当てようとして――
「……つっ!」
極端な鬱状態と、躁状態になりかけた。鬱はヴァイオリンの音に、躁はトランペットの音に集中した途端である。
(……そうか、二人は両極端な音源担当なのか。それを同時に演奏して、かつキーボードの音でまとめてるんだね)
ならば、一人ずづ描くのは無粋だ。初めは、個別に描き下ろそうとした彼だったが、考えを改め、「この演奏」を描くことにした。即ち、三人が一枚の絵に収まる形である。
方針さえ決まれば、あとは早い。彼女らの演奏を楽しみつつ、それを絵の中に納め、さらに彼女たちの姿も入れる――たったそれだけだ。いくつもの濃さの鉛筆を使い分け、精細にかつ精彩に、彼女たちを描き上げる。
「あれ……?」
そして出来上がったそれは、何故か今までの自分の絵らしくないと感じた。
もちろん、絵の出来としては申し分ない。むしろ会心の出来栄えだ。だけれども、これまでの自身の絵とは違う空気を纏っている。
今までの自分の絵は、例えるなら鏡だ。
そこにあるものを、自然なままに映し出す。誇張は一切含めない。そういうスタイルだったはずだし、今回もそうしたはずだった。
しかし、これは違う。自分の感覚が、絵にしみついているというか……こんな感覚は、『黒龍』を描いた時以来だ。自分の感性が、大きく出ている気がする。
「わぁ……」
妖怪の誰かが、感嘆の呟きを洩らす。それを皮切りに、一斉に宴会客たちが参真の絵を我先にとみようとしてくる。いつの間にか演奏は終わっており、三姉妹も群がる人々の中に加わっていた。
「なぁなぁ! アタシも描いてくれよ!!」
「萃香だけずるい! 私も私も!!」
「わかりました……みなさん好きに宴会してて下さい。適当に回りながらその空気をよんで僕が描きますよ」
「やったぁ!!」
一同が皆、そろって歓声を上げる。……こうして誰かに求められて、絵を描いたことがあっただろうか? いや、ない。自分で勝手に描いていただけで、頼まれて描く絵はどうにも評判がよくなかった(緊張している相手の表情をそのまま描いてしまう参真が不人気だった)ため、こうした空気は初めてだ。……悪くない。
久々の高揚感に包まれながら、彼は一枚一枚、丁寧に各所を回り、出来た絵を配ることになった。
流石に後半は疲れてきているようだったが、すべて描き終えた参真は、どこか満ち足りた表情だったという……
以外と冷静にその場を収めた参真君。まぁ、酒の席でケンカってのも……
実は紫と喧嘩ってプランがありました。きっと萃香辺りが煽るんだろうなぁ……とか考えながら。しかしそれだと収集がつかなくなったのでこの展開に。さすがにもう一度スキマにボッシュートはなぁ……