八十二・五話 彼の本性
これも視点は違いますが、実質本編ですね。
ってか、視点違い書くのって調子狂うなぁ……
「……いや、さすがです。新参者の私たちでは、まるで歯が立ちませんでしたね」
「お、恐ろしい相手でしたな太子様。我らも相対したものの……」
「あの人間と妖怪の二人より遥かに強いな。こちらの攻撃が当たる気がしない」
貴族っぽい格好の三人組が、私の近くで喋ってる。
赤白の巫女はもうどこかに行ってしまい、今は姿が見えなかった。
ご主人さまは、霊夢の「夢想封印」から私をかばって気絶しちゃってる。でもちゃんと息をしてるし、ちょっと火傷っぽいあとはあるけど、これぐらいならすぐ治るんじゃないかな。
なんて、気にかけてたら、さっきの内の三人の一人――太子って人が、私たちの所までやってきた。
「どうしたの?」
この人は、ご主人さまの話が通じたから悪い人じゃないと思う。でも、別段何か用事があるようにも見えなかった。
「ああ、参真さんは気絶してるのですか。……これは好都合」
「え? 何? 何なの?」
「あなたの欲を満たしてあげようと思いましてね。……知りたいのでしょう? 彼のこと」
私は息が詰まった。
それは、ご主人さまが「必要ない」ときっぱり断ったおはなし。
私の大切な人が……「なんなのか」の、おはなし。
こっそり小声で「私は気になるけど」って呟いたら、ちょっとだけ聞こえちゃったみたいで、余計な心配させちゃったなぁと後悔したけど……
とにかく、この太子と言う人の話には、私はすごく気になっていた。
だから頭を一つ縦に振って、私はご主人さまのことを、聞くことにした。
「では、お話ししましょう……君の主人の特異性について。先ほども説明したかもしれませんが……私にはその人物が欲しているモノ、欲を聞くことができます。そして彼の欲を聞いたのですが……彼は異端です。間違いなく」
「もしかして……絵に関すること……?」
欲とか、欲してることとか言ってたから、一緒にいた中でご主人さまがしたがってたことじゃないかな? 半分勘だけど、きっと外れてないはず。
「さすがに、一緒にいれば気がつきますか。その通り……彼の欲は異常なまでに偏っています。生への執着や死への羨望――そういった人間本来が持っている欲求が、ひどく薄い。代わりに――これは『表現欲』とでもいいましょうか、何かを絵に描き残したいという欲が、異様に大きいのです」
「その……どれぐらい……?」
「それこそ、生への執着心と同じぐらいですよ。満たせないと生活に支障が出たりするぐらい『なんとしても』絵を描いていたい。それほどの欲です」
そこまで言われて、昔ご主人さまがお姫様の前で取り乱したのを思い出した。あの時のご主人さまは、確かに少しおかしかったような気がする。
……よく考えたら、絵を描けないだけで禁断症状っておこさないよね?
「外の世界でも……ずっと前からそうだってご主人さまは言ってたよ」
「!? 幻想入りしたのですか? 彼が?」
そんなに驚くことかな? 太子さんは目を見開いている。
「なるほど……そこで修行に近いことをしたのでしょう。見たところ彼の力の根源は自然のようですので、方式としては風水術に極めて近い立ち位置にあります。それで布都たちは仙人と勘違いしてしまったようですね」
この人、すごい。会ってちょっとしか経ってないのに、ご主人さまのことをどんどん見抜いてる。……もしかしたら、私よりも知ってる?
なんだろ、そう思うとすごく胸がモヤモヤするよ……
「いつか、仙人になっちゃうってこと?」
「それは無いでしょう。彼は不老不死を望んでいる訳ではありません。仙人とは自ら望んでなるものですので、彼が求めない限り、仙人になることはあり得ません。ですが――彼のことが大切なら、あなたは気をつけた方がいい」
どきりとした。この人はご主人さまのことだけじゃなく、私のことまで見抜いてる。
「彼は現在、どこの勢力にも属していません。ですが、彼はどこの勢力にも、高い適正を示している。あなたの言うとおり、修行すれば高位の仙人にもなれますし……
自然に感謝する姿勢は神道の神々に祈る動作にも似ていて、
『無心』になって絵を描く様は、仏教の空の概念にも近い。加えて、珍しいタイプの能力ですから、彼の力を欲する者たちもいるでしょう」
「いろんな人から、狙われるの?」
「少なくとも注目はされるでしょうね。だから……今の彼と一緒にいたいのなら、あなたが守ってあげなさい。彼は感心がない故に、無防備でもありますから」
一気に話して疲れたのか、太子さんはふぅ……と、一息ついた。
私はそうは言われたけど、すごく不安だった。
うん。私はご主人さまと一緒に居たいよ? だけどね、だからって守れるかどうかは別だよ……あのスキマ妖怪に攫われた時だって、私は何も出来なかったのだから。
「大丈夫。あなたは彼の傍に居て、一緒にいればいい。それが、彼を守ることにつながりますから」
「……うん」
胸のつっかえは取れないままだけど。でもそれで、ご主人さまを守れるならと思って、それだけは言えた。
「さ、そろそろ戻ってあげなさい」
「うん!」
まだ気絶しているご主人さまの元へ、私は飛んでいく。……そう言えばなんで、あの人は私に親切にしてくれたんだろう? 聖人なんだから、妖怪の私は敵と思われててもおかしくないのに。
「……貴女の欲は、彼に尽くすこと。それがあまりにも純粋な思いだったので……ついおせっかいしてしまったのですよ」
私にはその理由は最後まで分からなかったけど、きっとあの人はいい人だ。もう離れてきちゃったし今さら言えないから、心の中でだけでも、私はお礼を言っておいた。
「ふふ、律儀な妖怪なのですね、あなたは。どうか彼と、幸せになれることを祈っていますよ」
神子さまマジ神子さま。な回。聖人としての力で参真のことを教えてくれました。
実は仙人の設定がちょっと曖昧だったので、神霊廟が出た時は一瞬ヒヤッとする羽目にw ですが、大きな矛盾はなかったので、説明役としてうってつけのポディションになってくれました。
いやマジで助かった。神子様がいなかったら、これも全部さとりの部分でやる予定だったんですよね……地霊編いつ終わるんだよって話にw




