表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/131

七十九話 電流の矛先

大変長らくお待たせしました。

あとがきにちょっと解説しますね。

 状況は明らかに、屠自古の側に優勢だった。

 二人組の合流を阻止し、スペルカードでの先制に成功。二人組の片割れを痺れさせ、残るは作務衣の男一人。しかも、ほとんど空を飛ばず、チマチマと少量の弾幕を放ってくるだけだった。

 だが、その少数の弾幕の狙いが正確で、しっかり避けようとしなければ被弾してしまう。全くの素人という訳でもないようだ。


「小賢しい!」


 そうして何度目かの雷撃を見舞うも、ことごとく避けられてしまう。お互いに決め手のないまま、戦闘はひたすら長期化していた。


「スペルの一枚でも使ってきたらどうだ?!」


 苛立ち交じりに、屠自古は男と挑発する。現にこの男は戦い始めてから、一度もスペルカードを使用していないのだ。殺気は確かに込められているのだが、どうも圧力がたらない。

 けれども、男は大した動きもせず、今までと同じように淡々と避け、反撃してくるだけだ。痺れを切らした屠自古は、決着をつけるために、地上付近まで降り、さらに距離を詰めた。


「……この瞬間を待っていたんだ!」

「何っ!?」


 すると、おとなしくしていた彼は、弾幕も撃たずにこちらに突貫してくるではないか。理解に苦しむ動きだが、さらに男は愚行を重ねる。


「上手く発動してくれよ……! 纏『水の羽衣』!!」


 初めて男はスペルカードを発動したのだが――よりにもよって水をその身に纏うスペルカードを使ってきたのだ。『水は電気をよく通す』自分から電流を流れやすくした上で特攻など、正気の沙汰とは思えない。


「気でも触れたか? 愚か者めが!」


 そして、矢のように放たれだ雷撃は、あっけなく男に直撃した。

 当然だ。屠自古も、男も、お互いに距離を縮めていたのだから。後はそこに男が倒れているだけだと、屠自古は高を括っていた。

 ……だから――直撃しているはずの水の塊が、

 電流を受けて倒れているはずの彼が、

 自身に激突するまで気がつなかったのは、それもまた当然のことだったのかもしれない。


「な……!? ぁああああがあああああああっ!!」


 その大量の液体にぶつかると。体中を電流が駆け巡る。自ら放った電撃を、屠自古はそのまま喰らってしまった。

 たまらずうつ伏せに倒れ込み、霊廟の外郭がミシリと軋む。

すぐ横にはスペルカードの発動を解除した男もいて、こちらは膝をついていた。


「無傷で済む訳じゃ、ないのか……」


 身体の一部に火傷こそあったが、男はこちらに比べて遥かに軽傷だ。

 屠自古は納得がいかない。間違いなく……間違いなく雷を浴びたはずなのだ。それでいて大したダメージを与えられていないのはおかしい。


「き、貴様……何をした!?」


 身体を動かせないまま、それだけはなんとか声に出せた。

 男は苦い表情のまま、静かに問いに答える。


「簡単です。水で膜を作って、そっちに電流を流しました。ちょっとこっちにも電気がきましたけどね……イタタ」

「な――馬鹿な! それでもあれだけの量を――」

「……ある時、大雨で全身くまなくずぶ濡れになった人が、雷に打たれたそうです。でも、その人は身体の表面だけ火傷して、命に別状はなかった……なんでかわかります?」

「そ、そんなの……知る訳ないだろう! 御神の加護か何かで生き延びたのでは」


 急に話を変えた男に困惑しながらも、彼女は強気に答える。


「いいえ、『全身が濡れていたから』です。水は電気をよく通しますが……『電気は流れやすい部分を通る』という性質があるんですよ。だから、表面の濡れた部分だけ雷が通って、打たれた人は無事だったんです。兄さんに教えてもらうまで、僕も知りませんでしたけど」

「それを……やったってことか」


 ……あの時、水の膜を張ったのは、そこに稲妻を通すためだったようだ。

 こちらが放った雷は水の膜「だけ」を通り、中にいた男には電気は通ってなかったのだろう。そして、帯電した水の膜に触れてしまい、屠自古だけが感電した訳だ。


「なるほどのう。屠自古、これで一つ学んだの?」


 やや偉そうな口ぶりで、四人目が口を開いた。戦っている最中に麻痺は解けたらしい。屠自古はぶっきらぼうに口を開いた。


「見てたなら手伝え、布都。こいつは我々の霊廟を足蹴にした愚か者だ」


 内心不本意ではあるが、彼女に男を倒してもらおう。

 屠自古は誰にも見られていない状態で、心の底からニヤリと嗤った。


 今回の電気うんぬんは、実際にそういう法則があるそうです。

 たとえば、飛行機。『雷が当たって墜落した』なんて事故は聞いたことがないと思います。それは何故かと言うと、表面を電気が流れやすい素材でコーティングしてあって、内部に電気が通らないような構造をしているそうです。

 ただし、これは小説内の出来ことで、それにしたってたまたま上手くいったようなものです。危険なので絶対にまねしたり、再現しようなどとは考えないでくださいね。……死にますよ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ