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七話 命蓮寺の珍事 青年の悲劇

ギリギリ一日更新成功! 

いやー危なかったー

「参真さん、大丈夫ですか?」

「正直、グロッキーです……」


 本日二回目の飛行だったが、参真は目を回していた。どうにも、まだ生身で空を飛ぶということに慣れ

ることができない。


「急に飛んですみませんね……つい嬉しくって」


 クスリと自然な笑みを浮かべる彼女は、ミスティアとは違い妖艶な感じはしない。どちらかというと、おっとりしたお姉さんのようなイメージを想起させる。


「……そんなに珍しいことなんですかね? 人間と妖怪が仲良く遊ぶというのは」


 参真は幻想郷に来たばかりだが、妖怪という生き物がどういうものかはわかっているつもりである。人間より純粋で、故に凶暴。人より優れた強い能力をもち、さらには生命力も上回る。自身の能力で、そのことは確認済みだった。


「そうですね。昔より人間と妖怪の距離感は近くなったのだと思います。それでも、人を襲う妖怪はまだまだいる。だから、妖怪という存在そのものが怖くて仕方のないという人間がほとんどでしょうね……」


 確かに、と彼は頷く。実際に参真もミスティアに食べられかけたので、このことについて異論はなかった。聖が続ける。


「参真さんは、あの子たちが怖くないのですか?」

「はい……昔、もっと恐ろしくて、おぞましいものを見たことがあるので……彼女たちは、自我が強くて、純真ですからまだ大丈夫ですよ」


 本当に怖いのはもっと曖昧で、半端な精神を持っている連中だ。何を考えているのかがいまいち理解できず、そして最終的には……


「顔色が悪いですよ? ……その時のことを思い出してしまったのですか?」

「お気になさらず。あれを克服出来てないのは僕の弱さですから」


 無理な笑顔を作っているのが、自分にもわかる。それでも、これ以上彼女に心配はかけたくないし、話したところでどうにかなるような問題ではない。


「そうですか。……近くまで来たので、ここからは歩いていきましょう。参真さんも、飛ぶことに疲れているようですし」


 一応隠していたつもりなのだが、ばれていたらしい。


「助かります。聖さん」

「ふふ、呼び捨てでいいですよ?」


 ふわり、と地上に二人は降りる。その大分先にだが、ぼんやりと寺のようなものが見えた。


「あの寺が聖さんの寺ですか?」

「ええ、その通りです。『命蓮寺』といって、私の仲間たちがいるところです。最近は本当に賑やかで……まるでお寺じゃないみないな感じなんですよ」


 ちょっと困った風に言う彼女は、クスクスと笑っている。聖自身は、きっとそんな日々を悪く思っていないのだろう。参真としては、強面の人が出てこないことを祈るばかりであるが……

 若葉の茂った林の中を歩いていき、鳥居をくぐった直後だった。命蓮寺の方から誰かが駆け寄ってくる。


「聖―! お帰りなさい!!」


 ……てっきり、寺にいるのは、お坊さんばかりかと思っていただけに、少女の姿は印象深いものがある。普通の寺からセーラー服の女性が、こちらに向かってくる光景というのはシュールだ。


「あら、村紗。今日は出かけないのですか?」

「うん。ちょっと変なことが起きて……敷地にいきなり小屋が幻想入りしてきたのよー」

「あらまぁ……それで?」

「とりあえずナズーリンに頼んで、中にある『外来の物』だけ探し出してもらった所。で、そのまま置いとくと邪魔だから、一輪&雲仙コンビと、私のアンカーで『粉☆砕』しといた。今はぬえが、弾幕使って残骸を燃やしていると思うよー」


 知らない相手の名前がいくつも出てきて、会話からはみ出されてしまった参真だが、なぜだろうか? ひどく『小屋』のことが気になってしまう。しかも……理由はわからないのだが、いやな予感しかしない。


「あのさ、その『小屋』って全部丸太で出来てて、中に大量の絵が保管されたりしていなかった……?」

「そうそう! いやー多すぎて不気味なもんだから、幽霊でも出そうだなーとか思っちゃったりしたんだけどさ。全然そんなことなくて、たくさんあってもかさばるだけだし、白黒の風景画ばっかで変わり映えしないから、小屋ごと燃やすことに……ってちょっと!?」


 彼女の言葉を最後まで聞くことなく、青年は煙が登っている方へと走りだす。


(まさか! ここは異世界のはず……)


 理性がそう囁くが、直感はむしろ先ほどより強くなっている。必死になって駆けて行ったその先には……奇妙な羽を生やした黒髪の女性が、手のひらから光弾をいくつも放ち、既に崩れ落ちた小屋を完全に燃やしていた。

 だが……参真にとってこの光景は……


「あ……あああああぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁ……」


 膝が折れ、その場に両手をつく。もう原型もとどめていないそれは……しかし参真には間違いなく見覚えがあった。

 外の世界で、山籠りに使っていた小屋が――具体的には、五年の間寝泊まりし、二日前に出ていった自分の住まいが――今まで描いておいた絵を道連れに、最後の時を迎えていた。


初めての主人公視点。

にもかかわらず精神的にフルボッコ回というね……がんばれ参真!!


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