七十話 剣士とヤマビコと青年と
さぁ! 謎解きタイムの時間だァ!!
(何なのですか、この人間は……)
胸の内で毒を吐きながら、妖夢はヤマビコを庇う青年と向かい合う。
主の幽々子と戦い、そのあとちょっと……半日ちょっと森を彷徨って、ようやく目的地に着いた妖夢は、うっぷんを晴らすように刀を振り回し、周辺の妖精をなぎ払った。
暴れついでに、朝のお勤め中の妖怪も吹っ飛ばそうとしたのだが……途中で人間に邪魔された。妖怪の方も彼のことを知っているようで、後ろに隠れてはいたが、青年を見捨てて逃げる様子もない。
(妖怪に与する人間ですか。面白い――!)
命蓮寺は妖怪寺であるものの、主導者が『人間と妖怪の平等』を掲げているので、そういう人間がいても、何ら不自然な点はない。なかなか興味深い相手だが、今は異変解決が先だ。
「ざ、参真! そぅん人、けねぇりできっだ!! 気ぃ抜くんど、人んだぁあっとまにミンチだっぺ!!」
「響子ちゃん! なんとなくわかるけど、お願いだから標準語喋って!!」」
「よそ見とは余裕ですね?」
言ってることはよくわからないが、助言の類であることは間違いない。余計なことをしゃべられる前に、倒してしまおうと距離を詰める。
焦って彼も迎撃してきたが、狙いを絞りきれていないのかカスリもしない。一気に決着をつけようと、一度刀を納め――集中。
「せやああああ!」
青年を間合いに捉えると同時に、指先を滑らせ一閃。
霊力を込めた斬撃は、刀の延長線にいる相手にも無慈悲に迫る。
「……!」
弾幕よりやや遅く、かわりに範囲と威力を兼ね備えた剣圧は、彼が地に伏したことで空振りに終わった。……予想以上に判断が早いが、地面に降りたのは失敗だ。動きが制限され、さらには相手に頭上をとられてしまう。
「そんな動きで――!」
「繚乱『スプリングストーム』!」
そのまま頭上から封殺してしまおうと、青年の真上に張り付いた時だった。懐に入ったタイミングで、相手がスペルを宣言してきたのである。
(誘われた!?)
迂闊だった、と言わざるを得ない。
妖怪に肩入れするぐらいの相手なら、弾幕ゴッコに慣れていてもおかしくない。初手で相手を見切ったつもりになったのは、完全に妖夢のミスだった。
「これは……! 幽々子様の…………!?」
そして、彼のスペルカードが庭師の心を、さらに揺さぶる。
花びら状の弾丸を、暴風で散らせるそのスペルは、彼女の主がよく使う弾幕にそっくりだ。……発射法則や密度はまるで別物だったが、表現しようとしているものは、近いものがあった。
「……ええいっ!!」
迫りくる桜吹雪を、剣を振り回して強引に遠ざける。
弾幕の中心に入ってしまった以上、荒っぽくて効率が悪くてもこれしかない。だいぶ疲れたが、一発も食らわずに済んだ。
胸の内で自戒しつつ、妖夢は一度、距離を置いて様子を見る。一枚目を破られた彼も、時間が欲しいのか、攻め込んでくる気配もない。そのまま睨みあいになり、しばしの沈黙が命蓮寺を包む。
先に口を開いたのは、男の方だった。
「……幽々子さんの弾幕に似てましたか?」
「全然。雰囲気は出せてますが、エグさが違います……なぜ幽々子様の名前を?」
「彼女の依頼で異変の調査に来たんですよ。……そっちこそ、なぜ?」
「幽々子様は私の主ですから」
腰に指をかけたまま、妖夢は青年と言葉を交わす。さっきの妖夢の独り言を聞いていたようで、幽々子という人物に興味を示したらしい。
「……失礼ですが、今すぐ異変から手を引きなさい。あなた程度の実力では、途中で妖怪の餌になるのがせいぜいです」
「それでも……命を賭けてでも、取り戻したいモノがある。だから、引きません」
覇気を込めて警告したのだが、あっさりと返されてしまった。半端な覚悟でないことは、彼のすべてが物語っている。こちらが折れるまで、青年は自分に挑み続ける気がした。
なら、ここでお互いに時間を潰すより、より強い意志と目的のある彼に任せてしまうのも一つの手だと、剣士は考察する。
「即答ですか……いいでしょう」
二刀を鞘に納め、構えを解く。つられて青年も、警戒を解いた。
――異変調査は亡霊姫のアドバイスこそあったが、あくまで妖夢が自主的に始めたことだ。途中でやめたと報告しても、青年に手柄を譲ったと言えば問題ないはず。それに、ここでは実力を見切れなかったが、あの幽々子様が、ただの人間を推薦するはずがない。
「……どういうつもりです? まだ貴女は戦えるでしょうに」
「別に、卿が削がれただけです。そんなことより……寄り道している時間があるのですか?墓場の方の人間に先を越されますよ?」
じっと妖夢を観察していた青年は――どういう意味か悟ったらしい。ハッと表情を変え、ぼそりと呟く。
「……なるほど、あなたも素直じゃない口ですか。……響子ちゃん、墓場は?」
「え、えど……あでの方だ!」
後ろで怯えていた山彦が、神霊のあふれる墓場を指さす。「ありがとう」とだけ言い残し、妖夢のすぐ横を通り抜け、
「礼は後にします。今は急いでるので」
耳元で、小さく告げる。彼は存外、律儀な男なのかもしれないが、おしゃべりする時間はない。
「……ご武運を」
たったそれだけ、同じように呟く。
後ろ姿を眺めると、彼は右の親指を立てて、去っていった。
参真クンは戦闘回避スキルでも持ってるのか、最後まで弾幕ゴッコをすることが稀ですねw
一応新スペル解説をぱ
繚乱「スプリングストーム」
名前がまんま「春の嵐」のスペル
参真が幽々子のスペルを綺麗と思い、即興で作ったもの。
雰囲気は似たモノを出せたが、妖夢に指摘された通り、性能は雲泥の差がある。