六十九話 荒れ果てた妖怪寺
今回はちょっとキャラ崩してるよ~
どん! と勢いよく、彼は寺の門をこじ開けた。
境内には既に、大量の神霊が発生しており、どうにも異変の根源はここで間違いないらしい。
「これは……何があったんだろう……?」
そう、そこまでは参真も予測できていたのだが……命蓮寺参道には大量の妖精が倒れていたのである。
「ひどい……一体誰がこんなことを……」
妖精にとっての死は「一回休み」ぐらいのものだが、所どころ切られた妖精が、見馴れた境内で死屍累々と横たわる光景は、あまり気分のいいものではない。
だが、ここで怖気づいて引き下がるわけにもいかない。慎重に歩を進めることとし、辺りを警戒しながらゆっくり歩いていくと……
. ぎゃ~て~……ぎゃ~て~……
遠くから、元気のないお経がこだまする。
初めて命蓮寺に入ったらびっくりするかもしれないが、この寺ではお経が響いていることは珍しくない。一つ違いがあるとすれば、普段より声に張りがないことだろうか。
. せ~む~と~ど~じゃ~……
お経の主は、確か山彦の妖怪だったはずである。二つほど欠点を除けばいい子で、新入りのようだが、聖たちにも可愛がられていた。なんでも、お経を聞いてたらそのまま反復できるようになったらしい。
(まだ読経を続けてる? こんな惨状なのに……?)
嫌な予感がして、石畳を慌てて駆ける。もし斬殺犯がまだ近くにいるのなら、大声で居場所を知らせるのは危険すぎる。急いで彼女に読経をやめさせなければ……
. ぎゃ~て~……ぎゃああぁぁあああ!?
(遅かった!?)
お経が絶叫に変わり、背中から嫌な汗が流れる。いずれにせよ、彼女の身に何か起こったことは間違いなさそうだ。最悪の事態になっていなければいいのだが……
「……て! 待ち……さい!!」
「お、おら、なんにぃも、こんけぇの異変のこだぁ、さっぱどわかんねぇだぁ!!」
距離が離れているせいで、辻斬り犯の声はよく聞こえなかったが、もう一人はヤマビコ妖怪の『幽谷 響子』で間違いない。……山彦だけに山育ちなのか、命蓮寺屈指の田舎っぺなのである。
「とりあ…ず、妖…は切り……ます!」
「や、やめてくれろぉ! もう連戦でボロボロだぁい!!」
大声のおかげで、居場所は非常にわかりやすく、すぐに参真も近くまで来ることが出来た。……これでいつも人に話す時の声が普通なら、文句はないのだが。
「む? ……何者ですか?」
「ざ、参真~!? いいとこきてくれっただ~!!」
涙を瞳に溜めた響子が、駆けつけてきた青年の胸にダイブする。吹っ飛ばされそうになりながらも少女を抱きとめ、そのまま背中に庇った。なぜか、その動作に目の前の辻切りは眉をひそめる。
「……人間なのに、妖怪を守るのですか?」
「知り合いが襲われていては、いい気分になりませんよ」
「ふむ……いずれにせよ、みょんな人間にはかわりありませんが……そこをどきなさい。もろとも切り捨てますよ?」
「断ります!」
……後ろで怯えている少女を差し出して、自分だけ逃げるつもりもない。腹をくくって、二刀流の彼女を倒すしかないだろう。
「――いいでしょう。そのつもりなら、押し通るまで! 妖怪が鍛えたこの楼観剣に、切れぬ物などあんまり無い!」
二刀を構え、戦闘態勢に入る彼女。守りながらは無理と思い、とっさに参真は前に出る。
「響子ちゃん! 下がってて!!」
迫る剣戟と弾幕に臆することなく、彼は一人で向かっていった……
響子ちゃんにド田舎っぺ属性……ええ、何故か夢に出ました。意外と行けそうだったので採用することに。
あと、今回の予定では、神霊キャラの崩壊が激しくなりそう。癖の強い味付けかもです。侵入者は……言わなくてもわかりますよね? 今回は完全に悪役になってもらいましたw
……涙目で自分に向かって、女性が助けを求めてくるシチュっていいよね! 現実にはまずないんだろうけど!!