六十六話 傷と桜と
最近、いいサブタイトルが浮かびません……
誰かー! コツを教えてくだせぇーー!!
ぱちり、と目を開けると、木製の天井が彼を出迎えた。
「う……ここは……マヨヒガ?」
紫と戦う前に修理した、橙の屋敷にそっくりだ。もし庭に大きな桜がなければ、最後まで気がつかなかっただろう。よくよく見れば庭も遥かに広く、中には人魂が呑気に宙を泳いでいた。
「あら~お目覚め~?」
今まで聞いたことのない、柔和な少女の声色が青年の耳に届く。
気だるい身体を動かして、やっとの思いで半身を起こす。必死な彼を見かねたのか、彼女は青年を止めた。
「無理しなくていいわよ~紫とやったんでしょ? 身体もボロボロになるわ」
「は、はい……」
肉体に刻まれたダメージは大きく、動くのもやっとの状態だ。今の参真にはありがたい。
「紫……そうだ……! 『八雲 紫』!!」
話の中で、彼は思い出した。
自分と小傘を切り離した張本人。出会ってすぐ、感情の赴くまま戦い、そして手も足も出ずに打ち倒された相手だ。
……無意識の内に、下唇を強く噛む。悔しいなどという次元ではない。侮ったつもりも、勝てる気もしていなかったが、それでも勝てなかったことは本当に、口惜しい。
「紫は!? 彼女はどこにいったんですか!? 小傘ちゃんをどこにやったのか聞かないと!!」
「お、落ち着きなさい? あなたと紫の間に何が起こったのかは知らないけど――」
「――っつ!?」
傷んだ身体に、自分の大声が響いて疼いた。少女の制止と苦痛が重なり、彼は一度呼吸を整える。
「大丈夫……な方がおかしいわね。紫と正面から撃ちあったのですもの。人間のまま戦って、生きている方が奇跡よね」
「……」
そんなことを言われても、全く嬉しくない。死んで小傘と会えなくなってしまうよりいいが、かわりに自分がいかに無力かを思い知らされた。
「本当なら、あなたの能力を確かめたかったけど、これだけボロボロじゃあ弾幕ゴッコをするのは無理ね」
「――そうですね」
「あら、機嫌が悪いの~?」
……からかうような、人に心の底を見せないような笑み。
――まるで八雲 紫のような笑みに、彼の心はざわつく。
「……」
感情の波が、彼の内側で唸り狂う。
紫への敵対意思、
小傘の無事を祈る思い、
参真自身の力の弱さ。
そのほか、昔に置いてきたはずの情念が――堰を切って表面へと出てきそうだった。
「ん~若いわね~」
「……少し、黙ってて下さい」
空気の読めない発言に、危うく暴発しそうなところで堪えた。本人は抑えたつもりなのだろうが、それでも乱暴な言い方ではある。
「あら、ごめんなさい。気分直しにお茶菓子はいるかしら? ちょうど友人が来て、空きかけのがあるのだけれど」
「……ええ」
これが彼女の素らしく、今までと調子を変えるつもりはなさそうだ。悪意がない分、怒りにまかせて怒鳴り散らすことも出来なかった。
「はいはい、血気盛んなのもいいけど、ちょっと一服しましょ? ほら……気持ちを落ち着かせて」
ふてくされる彼をなだめ、そっとお茶を差し出す。参真は視線も合わせずズズ、と口に含むと、渋みと痛みが口の中に広がった。2、3回と咳き込んで、一度湯呑みを置く。
「本当に若いのね。羨ましいわ~」
「若い? ううん、幼いだけですよ。僕は」
「意味するところは同じだわ。成熟されきってないからこそ、老人が無理だと諦める道を、平然と突っ切るの。それが無謀であれ英断であれ、歳よりからすれば羨ましいわ~紫も同じこと言うんじゃないかしらね」
口調とお淑やかな出で立ちとは想像できぬ、深い言葉に参真は面食らう。天然そうな動作と、おっとりした雰囲気から、すっかり自分と同じぐらいかと思っていたが、彼女もまた人外らしい。
「……はぁ、これからどうすれば……」
否、やりたいことはわかっている。だが、その手掛かりは一切ない。八雲紫の能力なら、小傘をどこへでも移動させることが出来るだろう。そして、落とした場所を知っているのも、また本人だけだ。
強引に聞き出そうにも、あの大妖怪に勝てるはずもない――
「手詰りでしょう? そこで実は提案があるのだけど」
「!?」
彼の心情を読み切って、人外の彼女は微笑む。
扇子で隠された不自然な笑みを――参真はあえて、飲み込んでやった。
さぁ! さんざん宣言していた神霊廟編、もうすぐ突入ですよ!!
……実はまだキャラが完全に決まり切ってないのがアレですが、だってまだ書いてる人少ないんだもんorz