六十話 再び、地上へ
更新が遅くなると言ったな……あれは嘘だ。
さあてさてさて、再び謎解きタイムはっじまーるよー!!
「ようやく……ようやく地上か……」
長い長い縦穴を抜け、ついに参真はこいしと共に、地上へと脱出した。
途中で「妬ましい……」とブツブツ呟いている金髪美女や、同じく金髪だが、対照的に明るそうな娘と、桶に全身をすっぽりと埋めた緑髪の少女とすれ違うも、結局気がつかれずにスルー。
話しかける余裕はなく、本当なら絵に描き写す時間ぐらいは欲しかったが、なんとか欲求を堪え、日の高いうちに地底を出る事ができた。
「思ったより早く出れたね……ねぇさっぶー、やっぱり、行っちゃうの?」
「? 急にどうしたの?」
何気なく放たれた一言、普段と変わらない調子のそれは、決していつもの彼女の言ではない。
つなぎっぱなしの手から、微かに震えが伝わってきた。
少しだけ視線を移すと、手だけではなく、全身が震えていた。
帽子と俯き気味の頭で、自分より背の低いこいしの表情は窺えない。
今まで全く、気が付かなかった。
あるいは――こいしは能力を使って、気がつかれないようにしていたのかもしれない。
「今からでもさ……一緒に地底で暮らそうよ。妖怪からも私たちが守ってあげるし、住んでみればいい所だよ? それに今地上は、なんか変な感じがするし――」
早口でまくしたてる様子は、ひどく焦っていて彼女らしくなかった。
……こいしは本当に、参真のことを弟のように思っていてくれていたのだろう。
「……ごめん。なら、なおさら放っておけないんだ。……地底に来るときに、落し物をしちゃってね……」
彼女のことをさとりから聞いているだけに、こうして断るのに少しの時間を要した。青年を送りだす時のさとりも、似たような心情だったのかもしれないが――きっと彼の内面を『悟った』のだろう。
「落し物?」
「うん。初めて会った時は、一悶着あって……そのあともいろいろ大変だったけど、僕についてきてくれてね――」
嫌われ者の彼女たちにとって、それを全く気にしない彼のような人物は貴重だ。親しくなった仲の相手と、離れたくないという気持ちは参真にもよくわかる。でも――
「だから……だから、小傘ちゃんを見つけて――まだ見てない場所を少しだけ廻って……ちゃんと力をつけたら、今度はその子と一緒に地底に行くよ。それまで……待っててくれる? ――こいし姉さん」
「!?」
ハッと顔を上げて、彼女は潤んだ瞳で、弟を見つめた。
「ホントはずっと、こう呼びたかったんだ。この年で『お姉ちゃん』は、結構恥ずかしかったから……兄さんって、僕も兄さんたちのこと呼んでいたし……」
気まずさと照れくささで、青年は思わず視線を外す。他にも二三、彼が小言をぶつくさと言っていると……
「……プッ……フフフ……なーんだ! それならそう言ってくれればよかったのに~! さっぶーって意外と照れ屋さん? シャイ?」
「……たぶん。まだ心が子供のままというか……こんなこと、自分で言うのもなんだけど」
「でも、『お姉ちゃん』と呼ぶのは恥ずかしいんだー! 変なの!! アハハハハッ!!」
「そ、そこまで笑わなくてもいいよね!? えっと、その、あれだよ! この年の弟は難しいんだよ!!」
いつの間にか普段の調子に戻ったこいしは、弱り目の参真をニヤニヤしながら――耳元でこんなことを囁いた。
「そっかそっか~ふぅん……さっぶー、今度来るときは、お嫁さん連れてきてね?」
「どうしてそうなる!? 無理だから! こんな僕に惚れる人なんていないから!!」
「大丈夫だよさっぶー! ここは人じゃないのなんていっぱい居るから!! ……なんなら私でもいいよ? 姉と弟の禁断の恋を――」
すっ、と彼の正面にまわり込み、がっちり肩を掴んで、こいしは目を閉じて唇を近付ける。青年は慌てて両腕を使い、必死に抵抗した。
しかし所詮、彼は人間。少しずつこいしに押され、じわじわと引き寄せられ――あと一寸といったところで、姉は力を急に緩めた。
それを予測できるはずもなく、半ば突き飛ばすような形で参真は転倒。もちろんこいしは、その場に立ったままだ。
「……冗談に決まってるでしょ? やっぱり初心だね♪ ぐ・て・い♡」
「それ決め台詞なの!?」
いつかと同じようなやり取りを、最後に二人は交わし合った。
ひどく騒がしいそれは、こいしの能力によって、近くにいた別の二人組には届かない。
しばしの間、誰にも邪魔されない彼らの時間を過ごした後――参真は地底に帰るこいしを、その場で見送った。
……意外な形で、存外にも早く、再会は叶うこととなる。
……シリアス入れようか思ったけど、こいしが見事にぶち壊してくれました。ちきせう。
キャラが動くのはいいのですが、予想と別方向に動くと大変ですねw 文章にするのに手こずります。
……まぁ、楽しくてやってるからいいんですけどね~