五十二話 癒えぬ傷跡、さとりは悟る
PV30万、ユニーク三万……!? 夢か!? 夢なのか!? これだけの人に読んでもらえるとは、書き始めた当初は思ってもいませんでした! ありがとうございます!!
さとりに聞かれ、少しだけ参真は昔のことを思い出していた。
向こうで絵の世界から追放された後、兄の助言を受け、五年間の山での生活ののちに、幻想郷へとたどり着いた。
さまざまな不幸に見舞われながらも、こちら側に来れたこと自体はよかったと思っている。向こう側にいては見ることが出来なかったであろうモノを、絵におさめることができたのだから。
「……っつ!?」
ぼんやりとしていた参真の耳に、息詰まった少女の声が聞こえる。見ると、その少女……古明地 さとりは泣いていた。
「さ、さとりさん? 急にどうしたんですか……?」
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
泣きながら謝るさとりに、彼は戸惑うことしかできない。ただの世間話しかしていなかったはずなのだが……
「いえ……そうではなくて……あなたの過去を、読ませてもらいました。まだ若いのに……こんな……」
「――!? アレを読んだんですか……」
彼の持つ、現世での悪夢。
自殺寸前まで精神をすり減らされ、周りの人間が、全員敵に見えてくる狂気。
すべてが不自然に見え、他人の心がまるでわからなくなる恐怖。
それをそのまま読んでしまったとなると……さとり本人もつらいのではないか? あんなドロドロとした負の感情が、そのまま伝わってしまったのでは――
「……平気ですよ。ここまで酷いのは珍しいですが――多少は慣れてますから」
「そう、ですか……」
出来ることなら、読まれたくはなかった。がしかし、断ったところで、彼女の能力を無力化できるわけではない。遅かれ早かれ、彼女は自分の記憶を読んでしまっただろう。
「……怒らないんですね? 勝手に人の過去を覗いたというのに」
そのように言われても、青年としては『仕方ない』ぐらいの認識しかない。興味を持ったものを、詳しく知る手段があるのに、そのまま放置しておける人間は多くはいないだろう。
「私は妖怪ですけどね」
「そういう問題じゃないと思いますよ?」
まだ目を真っ赤にしているが、幾分かは落ち着いたようである。見た目幼い少女に、目の前で泣かれていては、青年としても気まずい。もっとも実年齢、精神年齢共に、彼女の方が上だろうが……
「ふふ、優しいんですね? 甘えさせてもらってもいいかしら?」
こちらの考えが伝わったのか、さとりは表情を柔らかくして、参真の耳元で呟く。
「え、えっと……別のトラウマが甦るのでやめてください」
以前、星に黒コゲにされたことを思い出しながら言う。さとりにもそれは伝わったと思うのだが――心を読んだであろう彼女は、むしろクスクスと笑っていた。
「隣で無防備に寝ている娘に、手を出さないなんて紳士なお方……添い寝してあげましょうか?」
「それだと風邪が移ります……って、さりげなく何言ってるんですか!? 心を読んだ上で言ってますよね!?」
「私はそういう妖怪ですよ? ね? 普通じゃないでしょう?」
「今更その話ですか!? ……ゴフッ!!」
病人であることを忘れて、興奮しすぎた参真が大きく咳き込む。当然だが、わざとではない。
「あら、ごめんなさい。長く居すぎましたね……食事は後で運ばせますから、養生してください」
「う、すいません……」
そっと参真の額に手を当てた後、さとりが部屋を後にする。
一人残され、特にすることもない参真は、しばしの間、体を休めたのだった。
主人公が自殺を示唆する場面は、二話当たりに伏線があります。番外もそうですね。
そして再び誤認発生。さとりが「過去を読んだ」と言ってしまったので、参真クンは「全部読んだ」と勘違いしてしまってます。
作者のさとりのイメージは、「優しすぎるけど、ちょっと捻くれもの」のイメージですね。