五十・五話 妖怪という存在
また話が前後します。読みづらくてすいませんorz
前回の番外編直後のお話。
「そもそも、貴方も人間に捨てられた身……彼に執着する必要なんてないわ。代わりの人間なんて、いくらでもいる――」
その言葉を聞いた瞬間、小傘の中で何かが弾けた。
怒りに身を任せたまま、彼女は叫ぶ。
「返して……! 私のご主人さまを返して!!」
自分が弾幕を放ったことにも気がつかないぐらい、小傘は頭に血が上っていた。
「唐傘妖怪風情が……私に勝てると思っているの?」
がらりと空気が変わり、一気に臨戦態勢に入る二人。……普通に考えて、八雲 紫と多々良 小傘の力の差は歴然だ。万に一つも勝ち目はなく、紫のセリフは「絶対に負けない」確信があるからこその言葉であり、同時に真理でもある。
「うわああぁぁぁぁああああ!!」
全く周りを見ずに、唸り声をあげながら小傘は突貫する。直後、彼女を取り囲むように開かれたスキマから弾幕が放たれた。
闇雲に突撃するだけの行動だが、しかし紫の予想していない動きだった故に、結果として、弾幕の薄い箇所を通り抜ける。怒りに身を任せ、紫めがけて弾幕を放つ。
「……っ!?」
大玉の弾幕を大量に、かつ近距離から迫りくるソレに、紫はたじろぎ回避が遅れる。
轟音とともに土煙が広がり、視界を塞がれるが、それでも小傘は攻撃の手を緩めない。
「返して……!返してぇ……!!」
声に涙を滲ませながら、悲痛な叫び声をあげて。
……そこにもう、紫がいないことに気がつかないまま。
「えいっ♪」
「うぐ……っ」
お得意のスキマ移動で背後に回り込んだ紫は、右手で手刀を打ち込んで、唐傘妖怪を気絶させる。ふぅ、と一つため息を吐いて、賢者は腕を撫で下ろした。
(正面で戦ってたら、危なかったわね……軽率だったわ。この子は「捨てられて」妖怪になったのですもの。「代用がきく」といった類の発言を、許せるはずがないわ)
……彼女の怒りの大きさは、紫にも測りきれないものだった。それだけ彼のことを大切に思っていたというのもあるし、直後のこの言葉で、火に油を注いでしまった。その結果が――
(左手は使い物にならないわね……妖力も込められないし、回復にも時間が掛かるわ)
小傘が突っ込み、弾幕で攻撃してきた時……とっさにスキマを開いて避けたものの、左手だけ間に合わず、直撃を受けてしまっていた。
物理的に傷つけられたのならすぐに治るが、こういった念の込められた攻撃に対しては弱い。妖怪が精神への依存が大きい生き物故であり、同時に……だからこそ、こんなことが起こった。
本来なら弱小妖怪の弾幕を受けたところで、簡単に回復できるはずなのだが……よほど頭にきていたらしい。あの時の彼女は、普段より大きな力を出せていたのだろう。強い怒りの念を込められた攻撃は、確実に紫のダメージになっていた。
(さて、この子はどうしたものかしらね……)
このまま自分のところに連れ帰っても、また戦闘になるだけだろう。それでは小傘も回復しないし、最悪の場合、紫が倒される危険さえある。
迷った末に紫は、彼女をある場所へとスキマ送りにしたのだった。
捨てるということは、必要なくなるということ。
ましてや、「傘なんていくらでもあります」
早い話、捨てても困らないから、小傘は捨てられてしまったわけで……小傘(の基となった傘)は一つしかないのに、代用が利くという理由で捨てられた彼女は、「代わりがいる」といった意味合いの発言はいやだと思います。
ましてや、良くしてくれていた彼と引き離されて、「その人間の代わりがいる」なんて言われたら……ねぇ……?
原作では「デザインが悪いから」となっていますが、少なからずこの理由もあると思います。色合い悪くても、台風とか来たり、土砂降りでどうしようもなければ使うでしょう? 元の持ち主は多分、別の傘を買ってから、小傘を捨てたんだと思います。
……なんという無駄な妄想w