五十話 彼が幻想になった理由Ⅱ
第三回質問、解答タイムはっじまーるよー!!
追記:今度は読みが化けてるー!? 修正します!
(ま た 絵 で す か !)
もう何度目になるかはわからない。それぐらいこの男……西本 参真は絵を描いていた。
……まだ十歳ほどの年齢と思われるが、軽く四ケタは絵を描いているだろう。最低でも、一日一回は絵を描いている。
その成果もあってか、確実に彼の技量は上がっていた。毎日欠かさずに絵を描いていれば、上達するというものである。
元からの才能と絶え間ない努力によって、本人は全く気にしていないが、西本 参真の画才は、独自の領域……もはや彼以外には描き得ることのできないと、断言できるほどのものになっていた。
(よくもまぁ、これだけの量を……見ているこっちは、少々飽きてきましたよ?)
なんの変哲のない日々に、絵を描き続けるだけの日常。
友人はほとんどいなかったが、そんなものはどうでもいいと言わんばかりに、彼は絵に執心していた。本当にただ、それだけの生活に満足出来ていたようだ。
そんな日々に変化が訪れたのは、彼が十二歳のころ。
ある日、彼が学校――こちらで言う寺子屋――の授業中に、空けていた窓から小鳥が迷い込んだ。
皆が皆小鳥に注目してしまい、授業どころではなくなったので、クラスの何人かと、教師は鳥を出そうと懸命に動く。
けれども、働く人間がいれば、サボるのもいるわけで……他の生徒は、近くの友人としゃべるったり、机に顔をうつ伏せにして眠ったりしている。参真は……言わずもがな、小鳥の絵を描く作業に入っていた。
普段通りに鉛筆を操り、すらすらと輪郭から細部まで書きあげていく。三十分ほどにして書き上げたころ、ようやく小鳥は窓から出ていった。
「ふぅ……間に合った……」
飛び去る前に納得できるものが描けて、ひと安心する参真。と、そこに――
「何が間に合ったんだ? ……ってすげええええええええ!!」
後ろから誰かが話かけ、彼の書いていた絵を見ると同時に叫ぶ。
その声を聞いたクラスメイト達が、何事かと寄ってきた。ざわめきながらも、初めて声をあげた誰かと同じように、「すごい!」とか、「よく描けてる!」や、「カワイイ!!」など、口ぐちに感想を述べた。
「コラ! うるさいわよ!! ただでさえ騒ぎになっているのに……西本くん。何をしてたの? ちょっと見せて」
騒ぎを聞きつけた女性の担任教師が、不機嫌そうに参真に問い正し、慌てて参真はそれを差し出す。何か悪い事でもしたのだろうか? 少なくても参真本人に心当たりはないようだが……
「これは……西本くん、今から職員室に行くわよ」
「え……?」
急に声色を穏やかにして、小学生にとっての死刑宣告を申しつけられる。このころの歳の子供にとって、職員室に入ること自体がプレッシャーに等しい。教師の表情とその内容のギャップに、参真は戸惑いを隠せなかった。
「あ~怒る訳じゃないから。ちょっと他の先生に見てもらうだけよ。一緒に来てくれる?」
動揺が伝わったのか、彼女は慌てて言い直した。「不自然」な個所は、特に感じられない。こくりと内気に頷くと、そのまま教師は手を引いて、彼を職員室へと誘導した。
参真を扉の前まで連れて行くと、「待ってて」と言い、参真の書いた絵を持って職員室の中に消えていった。
――しばらくして――
「西本くん。この絵をコンクールに出してもいいかな?」
「コンクール?」
「そう。いろんな人が絵を描いて、それを専門の人に比べっこしてもらうの。西本くんの絵を先生たちに見せたら。みんな『すごい』って言ってたから、他の絵を描いた人たちにも負けないと思うわ」
……こう言われた参真の内心には、理解できないという類の感情が生じていた。
絵とは比べるものではない。思うがままに描いていいものだと、彼は思っていたようだが、真摯な眼差しを向けられて、断るのも悪いと思い、彼は首を縦に振った。
「決まりね……きっといい結果が出るから、楽しみにしててね。この絵は預かるわ」
とんとん拍子に話がまとまり、出したコンクールの行方は――
, ぶっちぎりの一位 だった。
これを期に、参真は脚光を浴びる事となる。当然だ。全くのノーマークだった人間が、今まで才気溢れると称されていた人々の、遥か上に立つこととなったのだから。
けれども、その内面は――
(『うるさくて絵を描くのに集中できない』……栄光などに興味はない。ってわけですか)
そう、彼は一切変わらない。いくらマスコミが騒ごうか、優勝賞金が入ろうが、彼は全くそういったものに興味を示さず、ただ徒に絵を描くことのみを行っていた。
周りが変わろうと、彼の態度は変わらない。そうして発表された絵に勝手に評判がつき、本人が望まぬままに話が大きくなっていたが、彼は気に入った目の前のものを、描いているだけ……
(こういうのを、『天才』って言うんでしょうね)
誰に求められずとも、誰も見向きをせずとも、ただ好きというだけで描き続け、結果誰にも辿りつき得ぬ領域まで至った。
これを、天才と呼ばずしてなんと呼ぼう?
そしてこの才能が、
そして彼の人格が、
そして彼の周りの人間が、
すべての歯車は噛み合わないまま、彼の宿命が悲劇を招く。
ここまでが、参真にとって幸せだった時期のお話になります。
次回は一回、番外編を挟みますよ~