四十七話 目覚め
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まだまだ物語は続きますので、楽しみにしていてくださいね!
“兄さん――ゴメン”
真っ黒な空間にて、参真はただただ、兄に頭を下げた。
全く方向感覚のきかない場所だったが、しかしここがどこかは理解できた。
“本当に……ごめん。せっかく兄さんが、僕のために世界を残してくれたのに”
自分でも、本当はこの言葉の意味を理解できていない――が、兄が自分に向けて語ったその時の動作には、一切不自然な箇所はなかった。故に、真実だったと参真は思っている。
“いや、謝る必要はない――”
低く、宵闇を纏うようなその声は、多くの人を不快にさせる質のものだ。けれども同時に、間違いなく兄の口調で声色でもあった。
“私も後悔しているのだ、やはりこの世界には――存在し、存続し、継続していくだけの価値がない”
“……兄さん?”
何かを悟った聖人のようだが、同時に不吉さを孕んだ言葉。両手を広げ――兄は語る。
“あの時、私は世界を滅ぼしておくべきだった。だが、今度は失敗しない――能力も使いこなせ、意思なき怨霊どもの力も手に入れた。英霊どもが邪魔だが、憾みの深さで私に敵う者がいるはずがない――”
兄の背中から、膨大な量の力が迸る。数が多すぎて判別ができないほどの、量と、質と、種類を兼ね備えたそれは、今まで感じたことのないほどの、圧倒的ものだった。
“ふむ……どうやらお前は、こちらに来るには早かったようだな。まぁ、幻想入りしたお前が、我々の元に来る方がおかしいのだが。さぁ、帰るがいい。お前がいるべき世界へ”
身体が浮き上がっていく。遥か遥か、高い彼方へ。
兄は下から見上げるだけだった。その場に留まり、参真を見送る。
“待って……待って! 真也兄さん!!”
名を叫んで、手を伸ばしても、兄から離れていく速度は変わらない。
暗黒の世界から抜け出し、再び闇が視界を包む。
だが、同じ闇でもその形質が違う。先ほどまでのは、夢の中のような……ひどく曖昧で浮遊感があって、概念的な意味での闇だったが、今は目を閉じているだけ。身体の感覚ははっきりしていた。
「う……」
小さくうめき声を上げて、参真は目を開ける。基調の整った洋館は、幻想郷では見たことのない部屋だった。
「うにゅ? 気がついた?」
部屋も初めて見るものなら、そこにいる人物も、初めて出会った人物だ。
彼女はウグイス色のスカートに、長い黒髪を下ろし、胸のあたりには目玉のアクセサリー? のようなモノをつけている。……調子が悪くて自然か不自然を見分けられないが、射命丸に似た羽をつけているから、おそらくは妖怪だろう。
「ここは……?」
「ここは地霊殿だよ。おにーさんは大丈夫? あ、私は霊烏路 空 お空ってよんで」
「は、はぁ……それで、どうして僕はここに?」
少なくても、自分の意思でここにきた記憶はない。確か、鬼たちを倒した後、そのまま河の上で気絶してしまったはずだが……
「えっとね、私の友達に死体好きがいて、おにーさんが水の上でプカプカしてたから、水死体をお土産に持って帰ろうと思ったんだけど、おにーさんを拾ってみたら、まだ生きてたから看病したの。三日間ぐらい寝込んでたかな」
「まだ生きてたからって……でもおかげで助かったよ。ありがとう……ゴホッ」
ひどい言い草とも思いながらも、とりあえず礼の言葉だけは言っておく。最後の方は、咳き込んでしまった。河の中に浸かっていたせいか、風邪を引いてしまったらしい。
「うにゅ……火に当たる?」
「大丈夫だよ、寝てれば良くなるって」
ただでさえ世話になっているのに、これ以上迷惑になる訳にもいかないと思い、彼女の申し出を断った。綺麗な目をした彼女は、そっと参真の頬に触れて「無理しないでね」と言ってくれる。
……その仕草や気配は、どことなく小傘を思わせる。彼女のような無垢さを、目の前の少女は持っていた。
「そうだ……さとり様呼んでくるね」
「さとり様?」
「うん。この地霊殿と私たちの主だよ」
「私たち? 他にもいるの?」
「そうだよ。さっきいった友達も、さとり様のペットなんだ」
どうやら彼女は、誰かに仕えている身らしい。お空とは別に、彼女の主人にもお礼をいう必要があるだろう。しかも、複数の妖怪を従えているとなれば、この館の主人の地位は相当なものだ。そういえば地霊殿という名前も、聞いたことがある様な気がする。
お空の主について聞こうとも思ったが、既に彼女は退室してしまっていた。
地霊殿の主とやらは、どんな人物だろう? 参真は、今まで出会ってきた『主』と呼べそうな人物をピックアップして、思いだしてみることにした
まず聖。初対面の時に半分拉致され、さらに彼女の寺に着いたら、小屋を燃やされていた。
次に神奈子。……のんきに饅頭を食べていたような気がする。そのあとのことは、思い出したくもない。
最後は輝夜。後半はお姫様だったが、私室は散らかり放題だった。
(まともな人、いないなぁ……)
常識の通じない幻想郷だが、ここまで破天荒な人物像ばかりだと泣けてくる。……ここの住人は大丈夫だろうか? 会ってもいないのに失礼かもしれないが、なんだか不安になってきた。
一人で勝手にそわそわしていると、扉が開き、お空とは別の少女が訪れた。
背丈は小さく、ピンクと紫の中間の髪色をしていて、服もそれに合わせているが……年下にしか見えない。が、きっと彼女は妖怪だろうし、自分よりも年上なのだろう。お空が呼んできたここの主だろうか?
「ええ、その通りですよ。私が地霊殿の主、『古明地さとり』です。体調はどうですか?」
「まだ万全じゃないみたいです。すいませんが、もうしばらくお世話になってもいいですか?」
本当は万全どころか、かなり状態が悪い。だが、変に心配させたくもなかったため、参真は『少しだけ世話になりたい』と、思って貰えるように言葉を選んだ。
「ええ、構いません。……つらいのを隠さなくてもいいんですよ? 来客は珍しいので、歓迎していますから。しっかり病を治してくださいね」
……どうも彼女は察しが良いらしい。あっさりと見破られ、逆にこちらが気遣われることとなった。見た目以上に物腰も落ち着いているし、ようやく――
「『ようやく普通の主に会えた』ですか。残念ながら、私は普通ではありませんよ」
「え……? いやどう見ても普通……!?」
熱で頭が回っていなかったから、気がつくのに時間がかかった。
今自分は、ところどころ言葉を発していない。にもかかわらず、何故か会話が成立していた。
「まぁ、そうなりますよね。私は『覚』。人の心を読む妖怪よ」
誇る様な、忌み嫌うような表情を見せる彼女。
事情を知らない人物には、訳がわからないかもしれないし、そもそも、そうなる前にさとりを嫌ってしまう人も多いかもしれない。しかし『西本 参真』には彼女の心情が――
なんとなくだが、理解できた。
伏線を張りながら、それっぽいダミーを撒きつつ、さらに伏線回収へお話を動かすという回。書く側としては無茶苦茶疲れました。
新キャラが出ると、イメージの固定に手こずります。作者のMP(妄想力ポイント)がガリガリ削られましたよ……
さとりはあらかじめ出す予定でしたので、キャラが出来ていたのですが、お燐に手こずりました。当初の予定では、参真君はお燐に拾われるシナリオだったのです。
けど、キャラを作っているうちに、異変こっそり知らせるような、しっかり者のお燐が、生きてる人と死体を間違えるわけないよなぁ……という結論になり、じゃあ、お空に拾わせようということにしました。
お空は頭悪いけど、いい子だと思うんだ……。