四十一話 純粋で無垢な 狂気のウサギ
遅れてしまい、申し訳ありませぬ!!
なのに、遊び回だよ!!
それと、質問解答コーナーは終わりです。
次回はだいぶ先になるけど、待っててね!!
さて、そのころの参真たちはというと……
「ビュ……ビューティフォオオオオオオオオオッッッ!!」
永琳から渡された薬を飲み、衣装を整えた輝夜を見た、青年の第一声である。
それ以降彼は、壊れたように絵を描き続けていた。かれこれ二十五分ほど経っていたが、既に二枚ほど描き上げており、しかも――
「よくこの速さで、こんなに綺麗に描けるわね……」
そう、この青年は『絵を描くこと』に関してはとんでもない人間だった。
一枚に十五分とかけずに、絵を描き終える時点でおかしいのに、その出来栄えたるや、見事としか言えなかった。輝夜がもし部屋に籠っている時間を、すべて絵に描くことに費やしたとしても、彼の領域には届きそうにない。
「三枚目ぇっ!! 次っ!!」
一枚を描き終える平均タイムを更新しつつ、また新たに絵を描き始めようとしたところに――
「ご主人さまー もういいでしょー?」
遠目から眺めていた、瞳の色の違う少女が、ひょいと絵を描くための用紙を取り上げる。
「ちょっ!? スケッチブック取り上げないでよ!! まだこの情熱は――」
「私たちが暇だよう……」
「も、もう一枚だけ! 久々だから……ああああああまずい禁断症状があああぁぁぁああぁぁあ!!」
そう言いだすと……青年はうずうず、わきわきと手をせわしなく動かす。顔は青くなったり、逆に真っ赤になったりと実に忙しい。その様子は、何か病的なモノさえ感じさせた。
「きんだんしょーじょー?よくわかんないけど……ホントにあと一枚だけだよ?」
「いよっしゃあああああぁああああ!!」
彼女がそっと、彼に紙の束を括りつけたモノを返すと、再び青年の指が、稲妻の如く閃く。……こういうのもなんだが、とても約束を守りそうではなかった。
「話聞いてなさそうね?」
「グスン。ご主人さまは、絵のことになるとこうだから……気に入った景色とか、人物とかを描けないでいると、気が狂いそうになるんだって」
どうやら彼女は、厄介な主を抱えたらしい。……あまり自分が言えることではないが。
「チュウ?」
と、一歩引いた視点で見ていた二人に、突然ネズミのような鳴き声が聞こえてきた。振り返ると、ウドンゲがこちらを見て、首を捻っている。両手を前にぶらりと垂らしているそれは、完全にネズミの動作だった。
(そういえば……ネズミと入れ替わっていたわね。ちょっとエサでもあげようかしら?)
輝夜はこっそりその場から離れ、倉庫の中からニンジンをとってきて、彼女に渡してみる。すると、おずおずとネズミはそれを受け取り、生のままポリポリとかじっていった。
「チュチュ!」
器用なことに、ほっぺにニンジンを溜めこみながら、彼女は鳴いた。そのまま輝夜にすりよってくる。
「ちょ、ちょっと……」
「チュー?」
慌てて引き離そうとしたが、ネズミウドンゲは、「どうして?」と言わんばかりの視線で見つめてくる。
まるで小動物のような無垢さに――実際中身はネズミなのだが――輝夜は射すくめられ、振り払うことができなくなってしまった。
「さっきの人? かわいい~どうしたんだろ?」
先ほどの少女がこちらに気がつき、ウドンゲの頭を撫でる。すると、心地よさそうに目を細め、チューチューと鳴いていた。
(た、確かにかわいい……癒されるわ……)
怯えさせないように、そっと抱きすくめてみる。始めは、懸念そうな表情でモゾモゾしていたが……やがて、何もされないと分かると、今度は向こうから頬を擦り寄せてきた。
「チュ♪」
「ちょっとちょっと! くすぐったいわよ……あははっ」
そっと甘えてくるネズミウドンゲに、輝夜は彼女を抱きかかえる。少女が「かぁいい!!」とか、「私も私も!!」とか言っていたが、ネズミの方が離れてくれないから仕方ない。
青年もそんな三人を見て「いただきっ!!」と叫んで、六角の棒を走らせる。
そうして三人は、ネズミになったウドンゲを愛で続けた。
……遠くのシャッター音には、誰も気がつかないまま。
***
永遠亭からやや離れた場所で、二人の妖怪は密会を行っていた。
「射命丸のダンナ……本日の写真はこちらウサ!」
そっと懐から、てゐはいくつかの写真をとり出した。彼女は時々こうして、新聞記者である射命丸に、こっそりと写真をリークしている。
内容は主に、ウドンゲへのイタズラ写真だ。しかし今回のは――少々趣向が違う。
「ふむふむ……これは……いい写真ですねぇ……」
てゐが持ち出したのは、先ほどウドンゲと姫様が戯れている写真だ。そして、上手いこと来訪者二人は、映らない角度で撮影に成功している。
「どういう経緯かは知りませんが……これはエロいですね。明日の見出しは、『驚愕! 永遠亭で咲き誇る百合の花!!』ですねぇ!!!!」
全力で高笑いする文に、てゐは黒い笑みを浮かべる。これでウドンゲは困ること間違いなしだ。姫様も、いい感じにからかうことが出来るだろう……
「ウサウサウサウサ!!!」
「あややややややや!!!」
ニヤニヤと黒い笑みを浮かべ、竹林に二人の笑い声が響く。
こうしてウドンゲの黒歴史は、また一つ増えてしまったのだった……
ネズミウドンゲ回です。
小動物ってかわいいですよね~ 作者はハムスターとかは飼ったことないんですが、動物は好きな方です。でも飼うのはメンドクサイし、責任がとれそうにないので、飼わないようにしています。
ズルイと思うかもしれませんが……捨てるようなことは、したくないのでね……