三十八話 竹林の死闘 Ⅴ
お待たせしましたっ!
今回は増刊号だよ!!
そう言えば台風すごかったですね……みなさんは大丈夫でしたか?
作者はちょっと帰るのに手間取ったせいで、八時間帰りが遅くなりましたよ……クソァ!!
追記:話数ミスー! 修正修正……
彼のスペルカードが発動し、輝夜は苦戦を強いられていた。
(これ、戦いづらすぎるわよ……!)
地に足をつけさせられ、思うがままに戦えない。『空を飛べない』というだけで、逃げれる範囲が激減し、おまけに生い茂る竹林が射線を遮ってしまう。
さらには、引きこもり生活が祟り、輝夜自身の体力は多くない。いかに不死身とはいえ、スタミナには限界があった。
そして青年は……地上を生き生きと走り回っている。どう考えても、彼の土俵に立たされていた。
(本っ当に……やっかいなことばっかりしてくるわね……! できれば、向こうより先にスペルカードを使いたくなかったけど……下手に意地張るとやられちゃうわね……)
お互いにスペルカードは、三枚ずつ使用している。戦いは終盤まで差し迫っており、下手なタイミングで使う訳にはいかないが……正直なところ、輝夜にとってこのスペルはかなりつらい。
ここで消耗するよりは、早く切り返した方がいい。そう判断した輝夜は、四枚目を使うことにした。
「難題『燕の子安貝―永命線』!」
発動と同時に、自らを縛っていた不可思議な力から解放され、もう一度空へと舞い戻る。今までのうっぷんを晴らすかのように、光の網と円状の交差弾が彼へと迫る。
そして、それが当たる寸前で――
「幻視『先代の記憶―六十年の生涯』!」
彼が返しのスペルカードを使用した。それと同時に、青年の姿が竹林の中へと消えていく。
「!? まさかこれって……!」
『耐久スペル』
スペルカードの中でも、特殊な位置にあるスペルカード。使用者が何らかの方法で、こちらから攻撃できない位置へと移動し、一方的に弾幕を避け続けなければならないタイプ。
使えるのは幻想郷でも一部の実力者のみ。かくいう輝夜も、以前の異変の際に『永夜返し』という形で使用したことがあるが……まさか、彼がその使い手とは思わなかった。
(全くこの人間は……本当に楽しませてくれるわね!)
頭を冷やして、意識を集中させると……いつの間にか、先ほどまでの竹林がなくなっていた。
かわりに細くて、背の小さい竹が一本だげ生えていた。試しに触ろうとすると……
「痛っ!? 何これ……弾幕で出来てる訳?」
見た目は竹そのものだったが、普通にこれが攻撃らしい。おそらく、徐々に激しくなってくるだろう。 現に、竹が少しづつ大きく太くなってきていた。
それと同時に――何故か、周辺の背景も変わっていく。四季をかなりの早さで巡らせているようだが……「ただ相手を倒す」ことだけを考えるなら、こんな機能は必要ない。
(魅せることも意識したのかしら? なかなか粋なことするじゃない)
思わずニヤリと、口の端に笑みを浮かべる。
いつの間にか輝夜は、彼との弾幕ゴッコが……楽しくて仕方がなくなっていた。ただの人間でありながら、発想と立ち回りだけで、自分と対等にやり合う彼のことを、認めつつある。……本人は全く自覚していないが。
時間が経つにつれ、一本の竹を中心にタケノコが生え始める。タケノコはあっという間に成長し、立派な竹へと成長した。当然、成長した竹やタケノコにも判定がある。
危機感を覚え、距離をとろうとして――しばらく進むと、急に下がることができなくなった。強引に突破しようとするも、不可思議な力が働いて、力が入らない。代わりに、遥か上空へと逃げようとしたが、同じように阻まれてしまった。どうやら結界が張られているようだ……
意を決して、竹と竹の間へと入り込む。時々衣服にかすめながらも、なんとか潜り込むことへと成功した。
(ふう……これで一安心……したらダメよね。この人間のスペルカードが、こんな簡単に終わるはずがないわ)
竹の位置と、自分の位置を調整し、簡単に当たらないような場所へと移動する。時々、新しくタケノコが生えてきたり、笹の葉が散って肌を掠めたが、致命傷にはなり得ない。
たまに風に揺られたりもしたが、そんな単調な攻撃に当たる彼女ではない。
そうして、竹林は勢力を広げ――いつの間にか、輝夜のいない場所を覆い、結界内に、竹が満ちた。
(面白いスペルだけど……ちょっと無駄が多いかしら? これぐらいなら、楽に――)
避け続けられる。見切ったつもりでいた彼女だったが――そこで変化に気がつく。
舞い落ちる笹の量が、先ほどより多くなっている。ふと上を見上げると……
(あれは何……? 竹の……花!? 初めて見たわ……)
葉の陰の間に、稲に似た地味な花が咲いている。迷いの竹林の竹は、花を咲かせたことがないし、育て親の近くの竹林も、開花どころかつぼみすら見たことがない。
(変なものね……千年以上前から、竹とは縁があるのに――)
こうして眺めていると、不思議と感慨深いものがある。『かぐや姫』はそっと、小さな花へと手を伸ばした。
触れると同時に、手が焼かれ、痛みが奔る。それでも構わずに、彼女はしばらく、竹の花を撫で続けた。これが、弾幕ゴッコであることも忘れて……輝夜はしばし、幻想の中で思いふける。
やがて花が散り、ふっくらとした果実がいくつも出来て、それと同時に――“竹林が枯れ始めた”
一つの竹だけではなく、竹林そのものが一斉に。文字通り、竹林が死んでいく……
(な、なんで!? せっかく咲いたのに……!!)
その光景を留めようと、彼女は『永遠と須臾を操る程度の能力』を使ったが……竹林の崩壊が止まらない。笹が茶色に染まり、次々と幹が朽ちていく。
「どうして!? 止まって! 止まりなさいよ!! 枯れないで!!」
いくつもの枯れた竹林の弾幕が、身体を焼いていく。けれども、彼女にとってそんなことは二の次だ。
輝夜は不死身だ。ましてや、非殺傷を目的とした弾幕ゴッコで負った傷など、どうということではない。
対してこの竹林は……今まさに、その生涯を終えようとしていた。
その光景が、ただ悲しくて。
どうしてもそれを、止めたくて。
ひたすらに能力を使おうと、何度も何度も力を込める。
駄々っ子のように喚き散らして、能力を発動させるも、流れる時を変えることができない。力を使っている感触があるのに……竹林の死を止められない。
やがて一つの竹がメキメキと音を立てて、輝夜めがけて倒れてきた。
能力を使うことに気をとられていた彼女は、気がつくのが遅れてしまう。
そして、巨大な影が輝夜を覆い――
***
「っつ!? 危ない!!」
竹が彼女を押しつぶそうとした、まさにその時だった。
参真はスペルカードを強制中断させ、彼女を元の世界へと引き戻す。
間一髪のところで『かぐや姫』は、こちら側へと帰還した。
「あ、あら……?」
何が起こっているのかを把握できず、ぼんやりと空を見つめる彼女。もう、弾幕ゴッコをできる状態ではなさそうだ。
けれども……青年も彼女には勝てなかった。
(あんなのを見せられたら……もう『かぐや姫じゃない』なんて言えないよ)
……本当は、彼女が『かぐや姫』本人であることは、とっくの昔に解っていた。
それこそ、一目見た時に……自分自身の能力で。
ただ……あまりにもらしくない彼女に腹を立ててしまい、あのような暴言を吐いてしまった。
ただの間違いであることを願って。彼女がかぐや姫であることを否定したくて。
けれでも……竹と戯れる彼女は、否定のしようもなく優雅で、
朽ちていく竹を嘆く少女は、どうしようもなく綺麗だった。
「「はぁ……」」
お互いにやる気が起こらず、二人同時にため息をつく。微妙な空気が彼らの間を漂って、黙したまま時間だけが過ぎていく。そんな時……
「あら、姫様……ちょっといいですか? ウドンゲを捕まえましたので……」
先ほど自分たちを治してくれた医者……永琳が出てきて、ぐずっている彼女を引っ張っていってしまった。心なしか、とても嬉しそうだったが……気のせいだろう。きっと。
「ご主人さま? 弾幕ゴッコはどーしたの?」
「……どうでもいいや」
既に参真も満身創痍だ。互いに戦意を喪失した今、無理に追撃する必要もない。決着はつけることができなかったが……無理に白黒つけることもないだろう。
「??? これ、勝負はどうなるの??」
「引き分けでいいんじゃない?」
外から様子を見ていた彼女には、理解しずらいことなのかもしれない。けれども、参真としては――
(こんな決着も……ま、いっか)
綺麗な『かぐや姫』を見ることができた。それで十分だと、参真は思う。
(忘れないうちに……書いておこうかな?)
あの時の彼女は、伝承通りの『かぐや姫』だった。貴族がこぞって求婚してきても、おかしくないほど……息をのむほど綺麗だった。ならば――描く価値は、十分にある。
「小傘ちゃん。道具持ってきて!」
「えぇ!? 今書くの!? さっきまで派手に戦ってたのに?」
「むしろ今じゃないとダメだよ! 早くお願い!!」
頭の中で構図だけでも組み立てながら、小傘にせがむ。ちょっと身体が疲れてもいたが、それ以上に描きたくて仕方ない。
「もう、ご主人さまは……分かったよ~」
呆れながらも、小傘はテクテクと荷物を取りにいく。
「ごめんね? でも、僕はこういう人間だからさ……」
「知ってるよ~はいこれ」
手渡された、使い慣れた道具たちを手に取る。そうして彼は――『かぐや姫』の絵を描き始めた。
スペルカード解説
と思ったか? トリックだよ……
マジメな話をすると、ここで詳細書くと、次回のネタバレになってしまうので、それを回避するために無しです。次回やります。
戦闘はどうするかでかなり悩みましたが……参真の性格上、あんまり派手にドンパチしたいタイプじゃないので、ここで中断するのが自然かなぁと。
おかげで、どうやって話を続けるかで悩む羽目になりました。そこで、以前張っていた伏線の回収しつつ、話を進めることに。
お話のテンポと、ウドンゲは犠牲になったのだ……