表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/131

三十二話 治療と対価

「「……も、元に戻ったー!!」」


 永遠亭到着から30分後、参真と小傘は、無事に元の身体に戻ることができていた。

 諏訪子様の言うとおり、永琳はカカッと治療薬を作り上げた。症状や経緯を聞かれたのが10分ほどで、わずか20分で薬の調合が終了。そして、薬を飲んでみたら意識が遠くなり……気がつくと、元の身体に戻っていた。


「本当に助かりました……お代はいいんですか?」

「いらないわ。こんな面白い症例に出会えたもの。……それに、この薬をベースに新しい薬を作れるしね」


 何故か、お付きのウサミミブレザー少女……ウドンゲと呼ばれていた少女に熱い視線を送る永琳。……どことなく、神奈子と同じ空気を感じたのは気のせいだろうか? 


「ま、また私が被検体ですか!?」

「当たり前じゃない! 出来るのを楽しみにしていなさい?」


 だいたいあっていたようだ。完全に永琳はいじる(かなこ)で、ウドンゲがいじられる側(参真)らしい。似た境遇を味わったことのある参真としては、彼女に同情を禁じ得なかった。


「こ、こんなところに居ていられません!! 私はここから出ていきますよ!!」


 言うや否や、高速で永遠亭を飛び出していく彼女。なぜか、参真は懐かしい感じがした。


(どこかで聞いたことあるセリフだなぁ……なんだっけ?)


 ぼんやりとした記憶の中に、ウドンゲのようなセリフ回しをしていたキャラクターが居た気がする。しかし、まともな生活をしていたのは五年も前の話だ。はっきりと思い出せないということは、大したことではないのだろう。


「逃がさないわ……てゐ!!」

「了解ウサ!! 」


 永琳が叫ぶと、天井裏から別のウサミミ少女が姿を見せたと思うと、あっという間に見えなくなった。きっとウドンゲを追跡しに行ったのだろう。参真個人としては、なんとかウドンゲに逃げきってもらいたい所であるが……


「ご、ご主人さまぁ……この人恐いよぅ……」

「永琳先生は恐いんだ……」


 囁くような声で呟いた小傘は、そっと裾をつかみ、参真の後ろで怯えている。元の身体に戻っていて良かった。でないと、『大の男が少女の後ろに隠れて怯える』などという、なよっちい男丸出しの図面が出来上がっていただろうから。


「フフフ……帰ってきた時が楽しみだわぁ……そうそう、参真さん。お代のかわりと言ってはなんだけど、ちょっと姫様のお相手をしてもらってもいい?」


 嗜虐的な笑みを浮かべる永琳は、その表情のまま参真に言う。……断れるわけもない。ここで下手な返答をしたら、ウドンゲ並みにひどい目に遭わされるかもしれないし、何よりタダで治療してもらったのだ。せめて何か、お礼の一つぐらいはしないと、参真の気も済まなかった。


「はい、いいですよ……って姫様!? 一体どこの国のお姫さまですか?」

「月から来た御方よ……現世では『かぐや姫』として伝わっていたはず」

「なんですって!? それは本当ですか!!??」


 思いがけない人物の名に、参真は興奮を隠せない。確か『竹取物語』で出てきた人物で、都の貴族が、寄ってたかって求婚するほどの美人だったはずだ。


「あら? 知っているの? 随分な喜び様じゃない……あなたも求婚してみる?」

「そういうつもりではないのですが……ぜひ彼女の絵を描いてみたい……!! きっと素晴らしい方なのでしょう!?」


 期待が膨らみっぱなしの参真に、永琳は少しばかり距離をとったあと、ばつが悪そうに答える。


「え、えぇと……過度な期待はしない方がいいと思うわ……」

「ご謙遜を! あの『かぐや姫』ですよ!? きっといい絵が描けるに決まってます!!部屋はどこです!? 今すぐにでも描き始めたい!!」


 空想の中の人物を……しかも、絶世の美女の姿を描き写せるのだ。興奮しないほうがおかしい。すっかりヒートアップした思考のまま、怒涛の勢いで永琳に問い詰めた。


「そこの廊下の突き当たりよ……ってちょっと待って、いつの間に姫様の絵を描くことになってるの!? 私は遊び相手を……」

「絵師冥利に尽きるというもの……まさか、かぐや姫を描ける日が来るとは……!!」


 彼女が指さした先に、参真は真っ先に駆けていく……二人の従者はその場に取り残され、呆然としていることしか出来なかった。


「な、なんなのあの人……」

「ご主人さまは絵のことになると、歯止めがきかないみたい……普段はやさしくて、話をよく聞いてくれるいい人なんだけどねー 私もご主人さまの所にいかなきゃ!!」


 いそいそと小傘もその場を後にし、青年の背中を追いかける。……姫様の実態を見たら、あの二人はどう思うだろう? 姫様としては面白いことかもしれないが、何かトラブルが起こりそうな気がしなくもない。


(余計なこと……言っちゃったかしら……?)


 このまま二人を帰しても良かったかもしれないが、今さら言ってもどうにもならない。上手く姫様と二人が仲良くしてくれることを祈りつつ、月の賢者はウドンゲ用の薬を調合し始めた……


 次回はてるよがでるよ

 

 ……ゴメン。言ってみたかったんだ……


 参真クンは、良い被写体や気に入った光景を見つけると暴走します。(第五話参照)周りが見えなくなり、熱中してしまうってやつです。そして、絵が描けるまで治りません。良いんだか悪いんだか……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ