二十五話 初飛行!
タイトル通り。ゆっくり見ていってね!!
再び境内へと、青年は歩いて行っていた。
正直なところ、神奈子との戦闘で少々疲れてはいたが、飛びたい願望のほうが強く、参真は休むことよりも、飛ぼうとすることを優先した。彼を先導する神は、
「ま、さっきみたいに、やり合うつもりはないからさ、それに、力がどういうものかもわかってるし……コントロールの練習がでら、ついでに教えるってかんじかなぁ」
たくさんの人間の信仰を受けているからなのか……こちらの心情を察し、気持ちをほぐしてくれる。見た目こそ幼子だが、中身は間違いなく年上だ。足の運び方や纏う空気、声色に身の振り方……そのすべてが落ち着いていて――否、落ち着き過ぎていて、神以外として認識するには不自然だった。
「そうですか……もう暴れるのはつらいと思ってましたから」
「だろうね。ちょっとだけ神奈子も本気出してたみたいだし。にしても、大した判断力だね。結局負けちゃったけど、センスはある。私は、神奈子の完封勝利で終わりと思ってたからさ」
「ハハ……ありがとうございます。これでスペルカードも作れますか?」
力がはっきりしたころから、参真はこのことを気にしていた。今までは、力の正体がわからないのと、それが安定して使えるかどうかがわからなかったため、スペルカードの作成を控えていたのだ。不安定な力の大量消費には、大きなリスクが伴うとの、聖の忠告である。
目玉の付いた帽子の少女は、考える素振りのあと……
「ん~作れるだろうけど……使うなら地上限定の方がいいかな。説明した通り、空中だと自然と交信しにくくなるから、安定して使うのは難しい。かといって空を飛べないと、とても弾幕をかいくぐることなんてできないし……難しいね」
まるで母親が、子供を心配するように考え込む諏訪子。自分は母親のことをよく知らないが、彼女のように思ってくれる母親だったら……離婚はなかったかもしれない。と、ありもしない幻想を思い浮かべていると……
「うわーん!! ご主人さまー!!」
奥の方で休んでいたはずの小傘が、半べそかきながら駆けてきた。ただし、額に『肉』という文字を携えて。その文字が絶妙な具合に歪んでいるせいで……彼女には悪いが、笑える。すごく笑える。
「「ぶっ!!!!」」
「も、もうっ! ここに来てからこんなことばっかりだよぅ……」
盛大に二人は吹き出し、ますます泣きじゃくる小傘。参真が慰めようとしたが……
「ご、ごめんごめん! しかし誰にやられ……ぷぷぷっ」
笑いを堪えきれず、忍び笑いがこぼれてしまう。ますます顔をくしゃくしゃにして、小傘は参真たちに抗議していたが……少し落ち着いたあと、二人に犯人を告げた。
「うう……ちょっとうとうとしてたら妖精にやられたの……ご主人さまと一緒だったら平気だったのにー! なんで~!?」
「妖精……そう言えば僕はいたずらされたことないなぁ……もしかして関係あります?」
「ああ! なるほどね! ここの妖精は自然の具現化……自然の化身みたいなもんだから、気に入られてる参真くんが、いたずらされたりしないわけだ」
「そうだったのか……」
などと、他愛のないことを話している内に、三人は境内へと到着。再び参真は、ここの神と向かい合った。しかし先ほどとは違い、空気は張り詰めてはいない。
「さ、まずは力を集める所から始めてみて。今度は自然に語りかけるようにやってごらん。やり方は……君が一番知っているはずだよ。自分の感覚を信じてやってみて」
穏やかな声色で、彼女は囁く。神の言葉だからだろうか――不安はまるでない、静かな夜の中で、満月に見守られているような心持ちだ。
あとは諏訪子に、自分の力を示すだけ――
「……はい!」
静かに目を閉じ、身体にある僅かな霊力を集中させる。あまりに微弱なソレに、自然への祈りを乗せ――地面へと送信した。
途端、先ほどまでとは比べ物にならないほどの霊力が、彼の元へと集結していく。内側に流れてくる力に動揺しながらも――無意識のうちに両手を広げ、辺りへの自然へ改めて感謝した。
「ここまで変わるとは……! さっきとはまるで別人じゃない」
「ご、ご主人さま……?!」
不安げに声を上げる従者に、青年は優しく語る。
「……小傘ちゃん。大丈夫だよ、そんな不安な顔しないで」
大量の力に流されることなく、しっかりと受け答えた。傍から見たら、いきなり霊力を手にしているように見えて、危うく感じられるのかもしれない。実際は、ひどく安定しており、ここから暴発する方が難しいぐらいだった。さすがに諏訪子は分かっているらしく、むしろ感心していた。
「制御の練習からと思ってたけど……どうなってるのさ? 完璧に操れてるし、こんな量扱えるなんて……純粋な霊力量じゃ早苗より上じゃないの!?」
「僕は強くないですよ。自然が力を貸してくれるから……」
謙遜でもなんでもなく、思った言葉を口にする。この力は――周りの自然がくれているもの。自分は祈って、それを集めて使役しているに過ぎない。
「……びっくりするぐらい無欲だね、君は。おかげで制御が楽に出来るのだろうさ。よし、それなら飛び方を教えちゃおう。いいかい?」
こくり、と参真は頷く。諏訪子がそのまま続けた。
「この状態だと君は――羽とか翼とかをイメージして、地面から離れようとする動き自体が難しい。あくまで交信は地面を通してだから、無理やり地面から離れようとするのはよろしくない。その飛び方だと、ジャンプは出来ても飛行はできないのさ。だから……飛ぼうとせずに、空を飛ぶんだ」
「すいません。訳がわからないですよ。それ……」
「うん。だろうね。私も説明に困ってる……そうだ! 君は絵描きだったよね?」
「ええ、それが何か……?」
いきなり質問され、わけもわからず返す。それを聞いた諏訪子は、いい案が思い浮かんだようで……今度は唐突に、こんなことを言いだした。
「じゃあ目を閉じて、自分にかかってる重力を描いてごらん。なんでもいいから、重力を認識するんだ」
「……やってみます」
参真はあんまり、目に見えないものを描くのは得意ではない。自身の能力で被写体を捉え、それを描くというのが彼のスタイルなのだ。しかり、やれと言われて出来ないことはない。そっと重力をイメージした。
(重力……か……矢印? いや、これだと微妙。じゃあ手なら? ……こんな感じかな?)
そして彼は、重力を「手」という形でイメージを固定した。自分が地面にいて、大地から手が伸び、自身を引っ張っているようなイメージ。
「出来たかい? なら、その力を弱めるように、霊力を地面に送るんだ」
「はぁ……」
言われるままに、彼はさらにイメージ。自分を縛り支える手に、こちらから霊力で出来た手を伸ばし――重力の手に、自分で出来た霊力の手を乗せる。すると、何故か急に浮遊感を感じ、恐る恐る目を開けると――
「……!? と、飛んでる!? 飛んでる!?」
気がつけば、参真は宙に浮いていた!!
「ふふふ、おめでとう。しっかり解説しておくと、君は『重力を打ち消す』『重力を和らげる』というイメージでないと空を飛べない。だから、飛ぶスピード自体は遅いし、前から何度も言ってる通り、上手く霊力を集められなくなるから、空を飛ばないと行くことができない場所や、弾幕ゴッコで、空を飛ばないと避けれない時ぐらいに限定したほうがいい。携帯電話の電波が悪い場所に突っ込むようなモノさ……って聞いてないか……」
よっぽど飛べたことが嬉しいのか……くるくる回りながら守矢神社を飛び回る。ついでに小傘も飛びだして……そして、早苗と神奈子が帰ってくるまでの間、二人は遊泳し続けていた……
心理描写きちぃ……話進めながらだとなおきちぃ……
個人的なイメージですが、諏訪子さまは母性、神奈子さまは父性をもった神様というイメージで書いてます。でもそんな神奈子さまがデレる姿はもっとステキだと思(ドゴォ!