十九話 愉快な「元」忘れ傘
ちょっと投稿が遅れました。
テスト前なので、しばらく更新がなかったり、遅くなったりするかもです。
まぁ、作者はサボリ癖あるんで、あてになりませんけどね~
「それではみなさん……いただきます」
どんよりと重い空気の中、聖は皆に号令をかけたが……「いただきます……」と返ってきた返事にも、元気がない。
(うう……暗い、暗いよ。どうしてこんなことに……)
内心ナズーリンがつぶやくが、どんなに嘆いてもこの空気を変えることなどできないだろう。下手に空気を変えようとすれば、その者が自爆しかねないような雰囲気だ。だいたいの事情はぬえたちから聞いているだけに、下手に手を出せない。
「「ハァ……」」
特に落ち込み方がひどいのは、参真と星。落ち込んでいるどころか……心なしかひどくぐったりしており、体力面でもひどく消耗しているようにも見える。まるで夜なべでもしていたかのようだ。
「ふたりとも……ごはん食べたらもう一回寝てきた方がいいと思いますよ?」
状況が読めていない聖が、おろおろしながらも二人に提案する。何があったかがわからなくても、疲労困憊しているのが目に見れてとれた。
「大丈夫ですよ、聖さん。二度寝は健康にわるいですし……」
「そうですよ……それと聖、後でちょっと修業に付き合ってください。最近たるんでいたようなので、鍛えなおします」
「は、はぁ……いいですけど……」
少しばかり凄みの含んだ声で星は答え、反面参真は、消え入りそうな声色でボソボソとしか呟けない。どうみても大丈夫そうではない彼に、ナズーリンは助言する。
「……参真クン、今日は修業に出るのをやめたほうがいい。気分が落ち込んでいる時は、何をやっても上手くいかないものさ。ヘマをして死にたくはないだろう?」
「気を使わせてすいません……今日は寺にいることにします。彼女に色々聞きたいこともあるのでね」
言いながら視線を向けた先には、目の色の違う少女が立っていて、何がうれしいのはさっぱりわからないが、ニコニコしながらこちらを眺めていた。食事を目の前にして何の反応も示さない彼女に、改めてぬえが聞く。
「……本当に何も食べないの? 急だったから用意できていなかったけど、ちょっとぐらいならあなたの分もあるよ?」
朝のドタバタ劇もあり、朝食はやや遅くなってしまっているため、普通に考えれば腹をすかせていて当然なのだが……どうにも、彼女はその素振りを見せない。聖たちも少し心配していたのだが――
「ん~食べられなくはないけど、普通のご飯を食べてもお腹が膨れないの。人が驚いた時の感情エネルギーが私の食べ物だから。そうそう! 昨日初めてわかったんだけど、道具として役にたってもちょっと満たされるみたい。久々のご飯だったな~」
特に無理していた訳ではないようだ。彼女にとって普通の食事は、嗜好品のようなものらしい。それにしても――今、「久々」といっていなかっただろうか? 気になったナズーリンが質問を重ねる。
「久々って……一体どれぐらいなんだい?」
「えっと……半年前? しかもほんのちょっとだけだった。しっかり食べれたのは二年ぐらい前かな?」
「え!? それってどういうこと?」
「誰かを驚かそうとしても上手くいかなくて……ごくたまーに成功して、ご飯にありつけるんだけど……」
話を聞く限り、かなり苦労をしていたのだろうが……そこに暗い影はなく、小さな子供が問題の答えがわからずに、ウンウン唸っているような感じがした。
「ちなみに、どんな風に驚かそうとしていたの? ちょっと僕にやってみてよ」
興味津々といった様子で、参真が両手を広げて構える。……食事中にそんなことをして大丈夫なのだろうか? 吹き出しでもしたら大惨事確定である。小傘も戸惑っているようだ。
「ふぇ!? ご主人さまにそんなこと……」
「ご主人さまって……そんな大仰な……まぁそれは置いといて、いいからいいから」
参真が、気にするなと彼女を促す。気がつけば皆が小傘を注視しており、もはや後退は許されない状況となっていて……空気を読んだのか、小傘はコホンと一つ咳払い。覚悟を決めたようで、「じゃあ、いきますよー!」と一呼吸入れてから……
「うらめしや~! ほら~~~驚け~~~~!!」
叫びながら、ニコニコ笑顔で彼に迫る。声のトーンも妙に明るいせいで……なんだろう、すごく微笑ましい光景だ。可憐な容姿もあって、全然恐くないし驚かない……というより、驚けない。
しばしの沈黙の後――参真が耐えきれなくなり、クククッと笑い始め、それにつられて星や聖……雲山さえも笑っていた。小傘にとっては真面目にやっているらしく、失敗していたことを嘆いてた。
「ほぇ~!? なんで笑うの~? びっくりさせようとしたのにぃ……」
目に涙を溜めているが、その仕草さえも可愛らしいく見える。その姿を見て、ナズーリンは、小傘は生まれる種族を間違えたのかもと思った。神様にでもなっていたら、その愛らしさで、多くの人間から信仰を集めることが出来たかもしれない。
「いや……これじゃあ驚くのは無理だよ……むしろ癒される?」
「そうだね。いいアイドルになれると思うよ~」
参真の感想に、村紗が相槌を打つ。一方、ぬえは小傘を見つめ……
「だめだめ! 妖怪たるもの、もっと強烈な脅かし方じゃなきゃ! 例えば、平安京を恐怖のドン底に陥れるぐらい……」
「「「「それはやりすぎ!!」」」」
妖怪の先輩として講義しようとしたところに、一斉に反論の声が上がる。気がつけば、さっきまでの嫌な空気が霧散し、明るい空気で食事が出来るようになっていた。
「……フフッ。そうですね、雲山」
「ん? 雲山はなんて言ってるんだい? 一輪」
不意に笑った一輪に、ナズーリンはこっそり聞いてみる。
「雲山がね……『参真はいい拾いものをした』ですって」
「そいつは……ちがいない」
そしてまた、二人の間で笑いが起こる。朝の時はどうなることかと思ったが、案外彼女とは仲良くやっていけるような気がした。きっと参真も小傘を大事にするだろう……穏やかな笑い声に包まれながら、命蓮寺の朝は明けていった。
ようやっとほのぼの回。説明回や移動回が多かった気がするのでそろそろ投下。
あと、戦闘描写もあった方がいいですかね? やったことないんで不安ですが……努力させて頂く所存でございます。