STAGE 0 宵闇の中で
さて諸君。始めまして。
残念ながら、まえがきは私が乗っ取らせて頂いた。
聡明な読者諸君なら、この回が何を意味するかを理解してくれると思う。
そうだとも。参真に隠された裏設定や、ばらまかれて放置された伏線――それを回収する時が来たのだ。
そして、この物語が、「どこに」続くかも――ああ、それに関しては作者がバラす予定だったか。私が言うのは余計だな。
前置きはこれぐらいにして……まずは見てもらおうか
彼は、英雄だった。
いや、自分だけではない。ここにいる者たちのごく一部ではあるが、元の世界では名の知れた人物たちであった。
それが――無名のある一人の男の支配下にもう入ってしまっている。彼女から役割を果たすため、自分には補正が与えられていたのだが、それでも彼には敵わない。
「さすがは『紅蓮の戦神』……ここまでよくぞ持ちこたえた。その精神力は称賛に値する」
「……ここに堕ちてから正気を保ち続けている貴殿に言われても、嫌味にしか聞こえぬ」
「まぁ……確かに。だが、いい加減楽になれ」
「断る!」
武士としての意地か、あるいは彼女との約束を果たすためか。『紅蓮の戦神』と呼ばれた男は、キリ、と相手を睨む。
「思い出せ……お前とて、我らが同朋であることには変わりはない。私はいつでも、貴様を受け入れるつもりなのだがな?」
「……それは、八雲殿との盟約に反する。貴殿は彼女への復讐を望んでいるのだからな!」
「私ではない。我々が……だ。私個人としては、彼女に感謝してやってもいいぐらいの立場なのだが……あの女の行ったことを考えれば、当然の帰結だと思うのだがね?」
同意を求める男の視線を、鋭い視線で追い返した。
やれやれとため息をついて、その男はしぶしぶといった様子で告げた。
「ならば仕方あるまい。英雄殿、あなたには無理にでも従ってもらう」
その瞬間だった。彼女に与えられた補正が消えていき、精神があの男とつながっていくのを感じたのは。
「馬鹿な……」
「境界の力など、当の昔に解析済みだ。我々に境界操作は通じない。さぁ――思い出せ」
「っ――」
憎悪が、精神に流れ込む。いや、流れ込んでいるだけではない。昔抱いた感情が噴出してきているのだ。外と内側から精神を揉まれ、ついに『紅蓮の戦神』は膝を折る
(申し訳ない……八雲殿……)
そのまま彼の精神は、闇に沈んでいった……
「手こずらせられたが、ようやく堕ちた……いや、本来の姿に戻ったと言うべきか。さぁ――諸君! 我らが同朋よ! 冥府の川を渡り損ねた我らは、今ルピコン川を渡る! 待っていろ八雲紫……貴様が拒んだ幻想が、偽りの楽園を吹き飛ばしてくれるわ!! 姿は……古の魔狼をかたどるとしよう。境界の結界も、我々の前では無力……あとは、この忌まわしいもう一つを破壊するだけ――ふ……ふふふ……ふははははは! 何だもう壊れているではないか!! なんという僥倖! 私の宿命も、彼らと混ざることで解消されたかね?」
男は、嗤った。心の底から、嗤った。そして姿を、漆黒の狼へと姿を変え――結界にヒビを入れる。
幻想郷始まって以来の厄災が、すぐそこまで迫っていた。
はいどうもー作者でーす。
さてさて、「裏設定公開してねーじゃねーか!」というツッコミの声が聞こえますが、それはこの小説では明かされません。作者の次作、「東方越境記」にて明かされます。
ええ、もうお気づきでしょうが、越境記は初めから続きのつもりで書いていました。まさか、一作目を書いている途中で、二作目を書き始めているとは思うまい……という作者のイタズラ心です。誰にも気がつかれていないようで良かった。(実は、越境記で参真君出るの? の質問が来た時ひやりとしましたが)
せっかくですから、もうひとつヒントを。次回主人公の「真次」ですが……既に名前は「ふらりと歩いて幻想入り」でも出ています。どこにいるかはお楽しみ。
それでは皆様、皆さまの気が向けばですが、「東方越境記」にてお会いしましょう!