百六話 紅魔館の長い夜Ⅴ
お、思ったより内容がないよう(渾身のギャグ)
「待たせたわね。参真……何をしているの?」
思いついた新スペルカードの準備をしている時、後方からパチュリーがやってきた。
「妖精に力を溜めさせて、僕の中にとりこんで、僕自身を強化します」
「……なるほど。でもその前に、例の魔術をかけさせてもらうわ」
「お願いします」
どうやら無事に魔術は完成したらしい。あとは参真にその魔術をかけ、フランに血を吸わせれば目標達成だ。
みしりと、館全体が震える。パチュリーがぐらついた所を、小傘が支えた。小さく彼女に礼を言うと、魔女は参真に魔術をかける。
「これで大丈夫。さぁ、最後の仕上げよ。気をつけていってらっしゃい」
「はい! ……強化『エナジードライブ』」
そして彼は、思いついたスペルカードを発動させた。妖精たちから力を受け取り、発射するのではなくその身に纏う。光の奔流は参真に力を与え、普段より感覚が冴えわたっている。各種身体能力も上がっていくのを、はっきりと感じた。
(これならいける……!)
並々ならぬ力を得た参真は、もう一度前線へ戻る。
そこには、手のひらをレミリアに向けるフランの姿があった。
(させない!)
強化された機動力で一気に懐に飛び込み、渾身の蹴りを放つ。
吸血鬼の妹の身体は、大きく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「!? 参真!?」
驚いた様子で、吸血鬼の姉がこちらを見る。だが、説明はあとだ。
「――パチュリーさんの準備も終わりました。あとは僕がやります! 咲夜さん! ナイフ一本貸して下さい!!」
「ええ!」
ナイフを受け取り、左手に傷を作る。これで――
「あとは、これをフランちゃんに吸わせるだけ……行ってきます!」
「!? ちょっと待ちなさい!」
制止を振り切り、参真はフランのもとへ行こうとしたその時だった。
「QED『495年の波紋』!!」
フランが力を振り絞り、スペルカードによる反撃を行ってきたのだ。どうやらまだ、余力を残していたらしい。
「参真……!」
誰かが青年の名を呼ぶ。だけどもう引き返せない。こうなったら、強化された身体で突撃あるのみだ。
着弾による衝撃が、参真を包む。だが、普段よりはダメージが低い。妖精たちから取り込んだエネルギーが緩衝材代わりになっているようだ。
しかし、威力が半端でないせいか、一回被弾するたびにごっそりエネルギーが減っていく。もう数発は問題ないだろうが、あまり数を受けることは出来なさそうだ。
「うおぉおおおおお!!」
それでも突撃し、ついにフランの目の前まで来た。
彼女は、信じられないものを見ているようで、目を大きく見開いたまま硬直している。
その彼女の、小さな唇に――参真は左手の傷口を押し当てた。
一瞬、何をされたのかわからないのか、目を白黒させるフラン。
だが、吸血鬼の本能は正直で、それが血だと判った途端、傷口に牙をつきたてる。
これが、フランにとって初めての、直接相手の血を吸う行為――
だからこその戸惑いであると同時に――その吸血のしかたも、容赦がない。予想以上に貪欲に血を啜っている。
「ん……ちゅー……っ……んぐ……」
「く……あっ……」
連日の特訓の疲労と、今回の戦闘による重圧。加え、血を吸われることによる貧血で、参真は倒れそうになった。
「ご主人さま!」
フランが口を離し、それと同時に青年が倒れそうになると、小傘が彼の身体を支える。大丈夫、まだ意識はある。あとは、彼が視界をしっかり保てば――この長い夜も終わりだ。
「――っ……目が……熱い……なにこれ……」
血を吸ったフランが、目を押さえた。魔術の効果が出始めているのだろう。その瞳から涙を流して、その場にうずくまる。そして――
「え……?」
呆然とその目が見開かれると同時に、パチュリーが小さく歓声を上げる。
長い夜は明け、彼女たちに朝が訪れようとしていた。
スペルカード解説
強化「エナジードライブ」
フェアリーカノンが集めた力を照射するスペルカードなら、こちらは集めた力を内部に取り込むスペル。これにより身体能力各種が強化され、おかげでフランちゃんを吹っ飛ばすといった芸当が出来るように。
これも、性能は妖精の数に依存します。また、異変中はエナジードライブ、フェアリーカノンともに使用不可になるという欠点もあります。