百五話 紅魔館の長い夜Ⅳ
フラン戦その四。次回辺りで最後になるかな?
「オネェサマァアアアアアアア! サクヤアアァアアア! アーソビーマショー!!」
普段通りに暴れるフランを、主従二人は真っ直ぐ見据える。
だが、今回はいつものように気絶させる訳にはいかない。参真の血を飲ませ、フランの視界を晴れさせるという目的があるからだ。もちろん、気絶させて後日という手もあるにはあるが、その場合もう一度戦闘になってしまう可能性もある。
あくまで気絶させるのは最後の手段。パチュリーが到着するまで、フランの意識を保たせなければならない。
「咲夜、分かってるわね?」
「ええ、お嬢様」
このまま時間を稼ぎ、パチュリーの到着を待つ。火力を調整しながら、二人は弾幕を放ち続けた。
「秘弾『そして誰もいなくなるか?』」
「「!!」」
フランの姿が消え、青白い発光体が弾幕を撃ちながらこちらに迫りくる。幸い参真たちは射程外にいるのでひとまずは安心だが、このスペルカードは油断ならない。
何せ、『耐久スペル』だ。一切の反撃を受け付けず、それに加え、フランの実力は並みの妖怪を遥かに凌駕する。正直なところ、レミリアにとっても気の抜けないスペルカードだ。だが同時に、これを使ってきたということは、そろそろフランのスペルカードは無くなる一歩手前のはずだ。悪い兆候ではないし――何より、
「ふっ!」
自分たちは何度もフランと戦い、スペルカードによる攻撃もほぼ把握している。ここに参真たちがいたら大問題だったが、今は距離をおかせたから大丈夫だ。
代わりに、妖精たちが何人も被弾して、バタバタと地面に落ちていく。フランの攻撃は、一撃が重いのだ。
だが、当たらなければどうということはない。見事に咲夜とレミリアはかわしきり、時間切れになったフランが姿を現す。
「お嬢様、そろそろ――」
「ええ、反撃の時間よ!」
いくら時間を稼ぐつもりとはいえ、やられっぱなしはレミリアのプライドが許さない。
「紅符『不夜城レッド』!」
紅いエネルギーを身にまとい、フランへと突撃する。
彼女は――フランは正面から、レミリアを受け止めた。
衝撃波が奔り、周辺にいる妖精が吹き飛ばされる。咲夜は時間制御で危険な空間から脱出していた。
「くっ……!」
キリキリとお互いの腕が軋み、悲鳴を上げたがそれでも力は緩めない。そのまま睨みあいをしていると――
「今日のお姉さまは――いつもと違う目をしてる」
「……?」
まるで夢から覚めたように、あるいは逆に、夢の中に迷い込んだかのように、穏やかな口調に変わっていた。狂っていない時のフランだ、今なら多少は言葉が通じるかもしれない。
「いつもは、すぐ目を逸らすのに、今日は真っ直ぐ私を見てくれるのね」
「――そうね。もう逃げるのはやめにしたわ。参真のようにウジウジ後悔するのは嫌だしね」
「何よそれ」
フランが笑った。
「あなたの運命は操れないけど――決めたの。フラン、あなたの運命は私たちが切り開く」
「今さらそんなことを言うの? ずっと私と碌に話そうともしなかったくせに」
「そうね。今さらと言われても仕方ないわね……でも、まだ手が届く位置にいるのだから、私はそこに手を伸ばすわ。あなたをそこから救ってみせる」
「アハハハハ! ヤッテミセテヨ!! オネエサマ!!」
フランが距離を取る。そして、手をこちらに伸ばし――
(まずい!)
あの動作は、フランが能力を使う時の動作だ。対象となるモノの目を握りつぶすことによって、相手を破壊する危険極まりない能力の。
グングニルを投げつけて、それを阻止しようとした――その時だ。フランの身体が、大きく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたのは。
見ると、フランが先ほどまでいた位置に、青い作務衣の青年が、光を纏って立っている。
「!? 参真!?」
「――パチュリーさんの準備も終わりました。あとは僕がやります! 咲夜さん! ナイフ一本貸して下さい!!」
「ええ!」
咲夜すっと、彼にナイフを手渡す。それを使って、参真は左手に傷を作った。赤い血液が、つぅ、と滴り落ちる。
「あとは、これをフランちゃんに吸わせるだけ……行ってきます!」
「!? ちょっと待ちなさい!」
制止する間もなく、参真は行ってしまった。人間と吸血鬼では、腕力で勝負にならない。もし血を吸わせる際、抵抗されでもしたらひとたまりもないはずだ。
だが予想は、最悪の形で裏切られることになる。
「QED『495年の波紋』!!」
フランがまだ余力を残していたらしい。突っ込んでいった参真が、弾幕の中へ飛び込んでいった。
「参真……!」
ほとんど悲鳴に近い形で、レミリアは叫ぶ。次の瞬間、まばゆい閃光が彼を包んだ。
空は白み始め、月は水平線へ向かう。
終わりの朝は、近づきつつあった
はたして主人公の運命は!? 待て次回!
……いやぁ、一度このナレーション言ってみたかったんですよねw