百二話 紅魔館の長い夜Ⅰ
ついにフランとの戦闘開始です。
「アハ! アハハハハハハハハ!!」
狂気の権化は、既に階段を上り、図書館のすぐそばまできていた。
パチュリーが魔術の作成を行っているので、図書館に入らせる訳にはいかない。全力で止める必要がある。
「小傘ちゃん!」
「うん!――」
「「化鉄『置き傘特急・流鏑馬カーニバル』!!」」
息を合わせて、二人はスペルカードを発動。
小傘が唐傘で出来た列車を発進させ、参真はその上に飛び乗る。
「止まれ!」
風に煽られながら、参真はフラン目がけて『真紅の弓矢』と同じ矢を放つ。傘からも無数の弾幕が放たれ、フランドールの周辺を包んだ。
しかしフランは、あっさりと弓矢を受け止めてしまう。周辺の弾幕もほとんど効果がない。
「アハハハハハ! アソンデクレルノ!?」
「僕はそのつもりは――っ」
「無駄よ参真! 一度ああなったフランは、一回眠るまで止まらないわ!!」
「やるしか……ないか……!!」
止められるのを承知の上で、もう数発矢を射かける。案の定、かわされたり、握り潰されたりしたが、どうにかフランの移動自体は止めることに成功したようだ。無秩序に物を壊すのをやめ、明らかにこちらに敵意を向けてきている。
「オネエサマオネエサマオネエサマアアアァァアァアァァアァァアア!!!!!!!」
「「「!!」」」
咆哮と共に、フランが巨大な杖のような、剣のような。判別のつかないそれで参真たちに襲いかかる。
「禁忌『レーヴァテイン』!」
なぎ払う様に光線が振り回される。参真と小傘は、召喚した傘の車両を盾代わりにして回避、レミリアは紅い槍を展開して受け流した。
「く――やっぱり強い!」
たったの一撃で車両は木端微塵になっている。連れてきた妖精メイドも何人かやられていた。
妖精メイドがいなくなれば、参真はまともに戦闘ができなくなってしまう。メイド長の到着まで、無理はできない。ただでさえ実力差があるのだ。もし妖精メイドが全滅すれば、子供と大人どころの差では無くなってしまう。
それを悟ってくれたのか、レミリアと小傘が参真の前に出た。
「私たちがやるわ! 参真は援護を!」
「すいません! 前は任せます!!」
そのまま後ろのポジションにつき、二人を支援できる位置へ。
「アハハハ! アナタハダァレ?」
「この子が……フランドール……」
初対面のフランと小傘は、それだけ言ったあとすぐ戦闘に移った。フランはともかく、小傘がほとんど何も言わないのは少々意外だったが、参真がそれを気にしている余裕はない。
「行くわよフラン――神槍『スピア・ザ・グングニル』」
戦いは激しさを増していく。小傘とフランが交戦している間に、レミリアが文字通り横やりを入れた。到底人間の目では目視できない早さのそれを、フランは軽々とかわす。
「アソボウアソボウ! 禁忌『クランベリートラップ』!」
今度はフランが四方八方から、弾幕を放ってきた。
逃げ場のない弾幕に、妖精たちが被弾していく。
「くそ!」
参真本人や小傘はなんとか回避。レミリアは慣れているのか、特に焦る様子もない。
「こんなのはまだ序の口よ! もっとキツイのがあるから注意して!!」
「ひ、ひえぇ……」
レミリアの発言に、小傘が弱音を吐く。参真も悪態の一つでもつきたい気分だ。スペルカードでない攻撃も激しいというのに、まだ使ってきているのが弱いスペルカード? 実力の底が知れないと、参真は身震いした。
長い夜は、まだまだ月が高い。夜が明けるまで相応の時間がかかるだろう……
スペル解説
化鉄『置き傘特急・流鏑馬カーニバル』
参真の真紅の弓矢と、小傘の、化鉄「置き傘特急ナイトカーニバル」を組み合わせたスペル。
参真が車両に飛び乗り、その上から弓での攻撃と、小傘からの弾幕のコンビネーション攻撃。